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インタビュー:テレビを書くやつら

テレビ業界ジャーナリスト長谷川朋子さん(後編)〜海外に、ネットに、コンテンツの舞台は広げられる!〜

境治 2019.10.02

テレビ業界ジャーナリスト長谷川朋子さん(後編)〜海外に、ネットに、コンテンツの舞台は広げられる!〜
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海外市場に強いテレビ業界ジャーナリスト、長谷川朋子氏へのインタビューの後編をお届けする。前編では、長谷川氏が専門分野を海外市場に絞り込んだ背景をお聞きした。いつも明るく楽しいキャラクターの彼女が、意外にも真剣に自らの価値を見出すために選んだ道だったと知り感銘を受けた。後編では、そんな海外のエキスパートとしての長谷川氏から見た、日本のコンテンツビジネスの未来について掘り下げて聞いていく。
【聞き手/文:境 治】
聞き手・境治(以下、S):ここからはちょっと深い話をお聞きしていきます。日本のテレビ番組は海外にもっと飛躍できるのか?とよく言われますが、どう考えてますか?

長谷川朋子(以下、H):もちろん飛躍して欲しいなと思います。ただ、10年前と比べて状況は大きく変化しています。特にアジア各局の制作力やクオリティが進化し、何より海外展開に対する意識が強まっていると感じています。中国もテンセントやアリババのような大きなプレイヤーが出てきて、前のCCTVが作っていたいかにも中国のものからレベルアップしました。洗練されたもの、新しいものが作られ、お金もかかっています。ビジネスに早く結び付ける力もついてきた。日本はそういう意識を持つプレイヤーが少ないように思います。挑戦する人の数が少ない。中国や韓国はそういうプレイヤーがたくさんいます。見本市に行くとピッチングの場、企画をプレゼンする場が数多くあるのですが、日本人はピッチの場にあまりいません。

S:日本の局の人はいないのですか?

H:そういったオープンなピッチにはいません。開発会議の場には放送局も顔を出していますが、オープンなピッチの場では独立系のプレイヤーが企画を売り込むケースが多いからです。日本と海外とでは体系が違います。日本では海外展開の権利を放送局が持つことが多い。放送局の力が拡大して、世界では珍しいスタジオ機能を果たし、強みになっています。ただ、プレイヤーの裾野が広がっていかない。企画を持っている人が外に出にくい構造です。一方、韓国や中国には個人のクリエイターがいます。彼らはピッチで拾ってもらおうと、積極的に外に出ていく。この10年でそういう動きが活発になっています。

S:日本だけが特殊なのでしょうか?

H:イギリスも20年前は海外展開を意識しないプロデューサーが多かったと聞きます。ロビー活動を続けていくうちに、制作会社が権利を持つ体制が整った。プロデューサーはBBCのような自国の放送局にも海外にも企画を持って行くようになりました。権利を持たないと海外にも目が向かないものです。ドラマ「シャーロック」 も小さなスタジオの作品だけど、スタジオ自ら海外にも売り込み、結果、中国でも世界でも大ヒットしました。成功例が出てきたのでみんな海外に興味を持つようになったそうです。そういう流れが起きて、イギリスや他国でも、世界で力を持つ制作会社がたくさんあります。
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聞き手の境治氏と長谷川氏
S:課題は権利の持ち方ですね?

H:どうでしょうか。日本の場合どう変えるべきかは・・・海外をお手本に導入しても失敗する話が多いじゃないですか。そのままのやり方では日本でうまくいかないかもしれません。日本のやり方を考えなきゃいけないのでしょう。それに日本でも、これまでなかったハリウッド式の権利の持ち方を進めるNetflixが来てから状況は変わりつつあります。少しずつ変えるといいのだと思います。右へ倣えで変えるのは日本のビジネスの体質に向かないのではないかと。急に変えると長続きしないで、潰れてしまうことを恐れて手が出しにくいと考えがちです。

S:変えるのは難しいですね。

H:変えていくには、外から人を入れることによって、徐々に意識が変わりそう。中国や欧米の人材を入れていく。日本の会社に海外の業界の人やITの人を入れる。そういう形じゃないと難しいかもしれません。

S:テレビ局の動きを取材されていてカンヌでの発表会などレポートしてますけど、ああいったやり方は道筋になるでしょうか?

H:日本人はPRが不得意と感じることが多く、そんな話も意識して書いています。話題づくりが控えめ。海外PRにまだ手が回らないケースも多いです。

S:総務省のバックアップはもっと必要でしょうか?

H:総務省の予算では数十億規模で放送局などの海外展開支援が続けられています。ローカル局が継続してできる下地になっていると思います。ただ、やり方を常に見直していくといいですね。他国はどんどん変えてくるのに、日本は同じことをやっている。やることを決めるのに時間がかかる分、一度決めたやり方を変えないので次へ進まないように見えます。
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S:海外展開の話題を離れて、テレビ全般で気になることは何かありますか?

H:中学生の娘がいるのですが、テレビを見ずに、スマホでNetflixやYouTubeばかり見ています。話題も常にネットから。私もお世話になっているヤフーや東洋経済オンラインの記事もよくチェックし、疑問に思ったことを質問してきます。こうしたデジタルネイティブの行動は記事を書く上で参考にもなったりしています。海外でこうした娘の話もよくしていて、関心を持たれます。ちなみに、テレビは見ないと言いつつ、友達が好きだからと日曜夜にリアルタイムで『イッテQ』は熱心にみています。そういう姿を見ていると、自分の子どもの頃と変わらない番組の在り方を感じます。

S:これからテレビはどうなると思いますか?

H:地上波テレビは見られなくなるかもしれないけど番組を作っている人は同じです。ネット向けでも地上波向けでも、作る力は変わらない。クリエイティブ力や日本人ならではのアイデア力、発想はこれからも生かせるはずです。若い世代も徐々に育ってますし、出口が変わるだけと見ています。広告モデルで成り立っていたのが、これからうまくいかないのはみんなわかっていて、分割して稼いでいく時代だと思います。
制作会社も「まず海外で」とか、収入の中身が変わって行くはずです。変えないところはダメになるでしょう。早くからトライ&エラーをやっているところが残って行く。日本の人口は減るけれども、アジアは増えている。「これはタイ向け」などと試していく時です。だから海外市場は取材する価値があると思っています。

S:これから面白くなるよ、という話ですよね。

H:コンテンツが好きな人は減っていないと思いますし、文化を作っている強みがあるからコンテンツ業界は面白い。今後もコンテンツ好きな人は減らないですよ。業界も自分たちをどう見せるかを考えたほうがいい。「コンテンツ作るって面白いんだぜ」ともっとアピールすべき。だから制作者のインタビューも好きなのです。そういう理屈が自分の中であるんですね。

S:長谷川さんが海外展開に自分の価値を作ろうとしたことと、テレビ局が海外に価値を見出すべきだという話が重なりました。

H:自分が食べて行くにはどうしよう、という視点です。稼ぎどころはどこだと、常に追い込まれている感覚があります。自分の転機とともに仕事の方向性が変わって、そこにしようと決めて今がありますから。大胆に捉えると、人の人生も、日本のコンテンツ産業も、道の見つけ方、進め方は同じかもしれませんね。

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明るいキャラクターの長谷川氏が実は、ジャーナリストとして生きていくために海外を自分の専門分野に選んだ。同様に日本のコンテンツ業界も、国内市場が下降線をたどるとしても作り続けたいなら、海外やネットに目を向けるべきなのだ。自分が自分であり続けるために、新たな方向に挑まねばならないのは、個人でも企業でも業界でも同じなのだ。力強いメッセージが感じられる、価値あるインタビューになったと思う。長谷川氏の海外レポートに、ますます注目したいと思った。
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