文筆でも才を発揮するファビアンが語る恩人「ピース」又吉直樹への思いと恩返し

2023.04.10

文筆でも才を発揮するファビアンが語る恩人「ピース」又吉直樹への思いと恩返し
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お笑いコンビ「あわよくば」のファビアンさん(37)。慶應義塾大学を経て芸人の世界に入り、これまで書き物で数々の賞をもらってきましたが、先月、初の小説「きょうも芸の夢をみる」を上梓しました。芸人として、そして、文筆業の先輩として、さらには人として師匠とあおぐ「ピース」又吉直樹さんへの思いを吐露しました。


―今回、初めて小説を書かれましたが、書き物を始めたきっかけは?
デビュー当時、東京・神保町花月で行われていたお芝居の興行にエキストラ的に出してもらってまして、その頃は芸人が脚本を書くという企画をしていたんです。

先輩の「POISON GIRL BAND」の吉田大吾さんや「ニブンノゴ!」の宮地謙典さんらが書かれていて、その本がすさまじかったんです。本読みの段階から自分との圧倒的な差を感じて自信をなくすくらいだったんですけど、いつかは自分もこういうものを書けるようになりたい。ならないといけない。そんな思いを持ったのが原点だったと思います。

そして、今に至るまでずっとお世話になっている「ピース」又吉直樹さん。又吉さんから得てきた思いというのはものすごく大きいです。

僕が1年目の時に劇場出番でネタをしていたら、楽屋モニターで「パンサー」の向井慧さんら先輩方がご覧になっていて、又吉さんに伝えてくださっていたんです。「又吉さんに似たヤツが入ってきましたよ」と。それを聞いた又吉さんが舞台を見て見たら僕が立ったので「外国人やんけ!」と(笑)。

先輩方はボケ方とかネタの発想が似ているという意味で言ってくださったんですけど、ルックスだと思われたみたいで。

ただ、その日のうちに食事に誘っていただき、原宿を散歩しながら服も買ってもらいました。そこからずっと今までお世話になっている。そんなご縁と関係性なんです。

―又吉さんから学んだことは?
2016年に又吉さんが芥川賞をとるんですけど、17年に又吉さんが大好きなイスの本を作られることになり、その中で一番良いパートというか、そんなところの文章を僕に任せてくださったんです。そして「お前は書くことによって世に出られる人間だから、そのために準備をしておいた方がいい」と言っていただきまして。その言葉で書く方に大きく舵を切った。それは間違いないです。

あと、又吉さんは「やさしい」とか「美しい」が面白いにつながることを教えてくれたんです。あれこれ話して「そこで、夕日がメチャクチャきれいやってん」みたいなことを言うことが面白さにつながる。その感覚は僕にはなかったので、あらゆる幅を広げてもらったと感じています。
僕は徳島の田舎で育ったので悪いことの方が面白いというか、新しく買った自転車を初日からスプレーをかけていかつくする。それが「メッチャ面白いやん」みたいな感覚だったので、悪いこと、刺激的なことが面白い。その逆のことをポンと見せられたというか。
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―考え方の根本に新たな要素を入れてもらったと。
そうですね。あと、これは感覚的な話になりますけど、コントにしろ、漫才にしろ、小説にしろ、全ての登場人物に最後まで「叫ばせている」なと。

僕がコントなどで誰かを演じる時、もちろん、その人になり切って演じようとはするんですけど、それには限界があって7割くらいしか演じきれない。描き切れない。そこを出力マックスというか、自分が描く人間を最後まで描き切る。その人間の全てをその作品の中で見せる。その姿勢みたいなものは強く影響を受けました。

ただ、それって本当に難しいことでもあるので、なんとか頑張ろうと思って作り始めたけど、結局最後まで描き切ることができず7割くらいで終わってしまう。そんな作りかけで終わるネタがすごく増えました。でも、最近は少しずつですけど、最後までいける“打率”が上がってきたというか、その形でやりきれることも増えてきたとは感じています。

それと、これもありがたいばかりなんですけど、小説のアドバイスはものすごく具体的にもらっています。なんとなくヒントをくれるという感じではなく、実戦的なことを言ってくださるというか。

どう文章をしめるのが良いのか。最後に主人公の感想を入れるとか、風景を綴った方がしまるんじゃないかとか、ものすごく直接的に言ってくださるんです。

―そんなに具体的に教えてくれるものなんですね。
ただただ、ありがたいばかりです。でも、エッセンスや姿勢は学ぼうとしていますけど、同じものは僕にはできない。なので、自ずと作るものは違うものになるんですけどね。

というのも、最初に「又吉さんに似たヤツがいる」というところからスタートしたので、自分の中で「又吉さんと違うことをやらないとダメだ」という感覚があったんです。

その積み重ねが今に出ているのか、ネタにしろ、書き物にしろ又吉さんが「これはオレにはできひんわ」と言ってもらうことが時々ありまして。それは、すごくうれしい言葉でもあります。

とてもじゃないですけど恩返しなんてことはできないので、まずは僕がちゃんと売れる。そして、僕が又吉さんにしてもらったことを後輩にする。それしかないと思います。

恩返しではなく恩送り。カッコつけるわけじゃないんですけど(笑)、もうそれくらいしかないなと思っているんです。
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■ファビアン
1985年11月06日生まれ。徳島県出身。本名・西木ファビアン勇貫。慶應義塾大学経済学部中退。身長173センチ。父がドイツ人、母が日本人。NSC東京校14期生。2009年、同期の小川祐生と「あわよくば」を結成。個人の活動として執筆活動を始め、渋谷ショートショートコンテスト優秀賞、沖縄国際映画祭クリエイターズファクトリー映画企画コンペティション・グランプリ、小鳥書房文学賞などを受賞。先月、初の小説「きょうも芸の夢をみる」を上梓した。



執筆者プロフィール
中西 正男(なかにし まさお)

1974年生まれ。大阪府枚方市出身。立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚などを大阪を拠点に取材。桂米朝師匠に、スポーツ新聞の記者として異例のインタビューを行い、話題に。2012年9月に同社を退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属し、テレビ・ラジオなどにも活動の幅を広げる。現在、朝日放送テレビ「おはよう朝日です」、読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」などにレギュラー出演。また、Yahoo!、朝日新聞、AERA.dotなどで連載中。
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