商品説明ほとんどナシ!エステーは、なぜヘンなCMばかりつくるのか?

2018.04.24

「妙にインパクトがある」「どんな意図でつくったのかよくわからない」そんなテレビCMに迫る『読みテレ』編集部。今回は『エステー』をピックアップ。

同社のテレビCMで真っ先に思い浮かぶのは、やはり『消臭力』だろう。めっちゃいい声の外国人少年が「♪ラララ しょー しゅー りーきー」と歌い上げる。オンエアされたのは7年前。少年の歌唱力の高さや可愛さ、そしてどんな商品なのか一切説明しない潔さなども相まって、アッという間に人気CMに。その少年「ミゲル君」を覚えている人も多いだろう。
これを筆頭に同社のテレビCMは、本当に変わったものが多い。例えば、『消臭力』と並ぶ看板商品『ムシューダ』のCMには、2007年以降、ずっと得体の知れないゆるキャラが登場している。その名も「ムッシュ熊雄」。つまり、きっと熊なのだろう、全身ブルーだけど(笑)。この熊雄が、共演する元モーニング娘。の高橋愛さん並みに常に目立つのだ。そんなに推さなくてもいいだろう(笑)。
そこで同社のテレビCMを統括する、エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターの鹿毛康司(かげ・こうじ)さんに話を訊くことに。どうしてヘンなCMばかりつくるんですか?

「一番の理由は、我が社の広告宣伝費が少ないからです(笑)。潤沢な大手と比べたら10分の1、場合によっては20分の1でしょう。そんな状況の中で戦おうと思ったら、普通にやっていても勝てません。だから、どうすれば目立つのか、考えるのはそればっかり。それが、“ヘンなCM”ということになるんでしょうね」

それだけに完成したCMは、社内で物議を醸すことも少なくないという。

「やっぱりね、開発してる人は一生懸命ですから、『その製品のこんなところが優れている』とか『こんな部分が新しい』とか、CMできちんと説明してほしいんですよ。でも、観ている人がそれを知りたいかはわからないし、それを説明したからといって製品が売れるかもわからない。だから、その両者の落としどころを考えるのは難しいですね。いまだに社内を歩いてると『ふざけないでくれ』って怒られることがありますから(苦笑)。別にふざけてるわけじゃないんですけどね」
エステー株式会社 クリエイティブ・ディレクターの鹿毛康司氏
冒頭で触れた『消臭力』のCMも鹿毛さんの手によるものだが、もちろん、これもふざけてつくったわけではない。というより、そのきっかけはシビアなものだったようだ。

「あれをつくったきっかけは、2011年の東日本大震災です。自粛ムードの中、『いつものエステーの楽しいCMが観たい』という声を多数いただきました。では、どんなCMがいいのか。どんなCMなら観る人の心に寄り添えるのか。そんなことを考えてつくったCMです。ミゲルは、彼の故郷のリスボン(ポルトガル)でオーディションをして見つけましたが、最初はあまりピンと来なかった。『この大変な時に、自慢げに、いい声で歌われてもなぁ』と(笑)。だから、他の子が歌ったバージョンもつくって、短い期間でしたが、放送してるんです。でも、多くの人の心に響いたのはミゲルのCMでした」
その理由は、鹿毛さんにもよくわからないという。ただリスボンは、1755年に大地震と津波に見舞われ、6万人以上の方が亡くなったが、見事に復興した過去を持つ街だったのだ。

以来、ミゲル君はエステーのCMにたびたび登場。鹿毛さんとも家族ぐるみのつき合いだという。

そんなミゲル君が出演する消臭芳香剤『シャルダン ボタニカル』の最新CMがオンエア中。例によって商品の説明は一切ナシ。それどころか「ミゲルです。19歳になりました。まだ親のスネをかじってます。学生だからね」などと、ミゲル君が自己紹介するだけの内容になっている。

「これはミゲルが普段よく聞かれることに答えたもので、この『自己紹介編』は5本つくりました。他に『日本食で一番好きなのはメロンパン』とか、ミゲルのどうでもいいことがわかります。たぶん、これも社内から怒られると思いますが、まぁ、ここまでやらないと目立ちませんから(笑)。これからも、どうすれば皆さんに情報が届くか。その工夫は怠らずにやっていきたいと思います」

【文:井出 尚志】
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