「こんな毎日も悪くない」宇宙人ジョーンズが見た「このろくでもない、すばらしき世界」の15年

2021.02.22

ボス『宇宙人ジョーンズ・夢の国』篇 60秒 役所広司 トミー・リー・ジョーンズ サントリー CM

宇宙人ジョーンズが登場するサントリー「BOSS」のテレビCMが、この4月で15周年を迎える。

この惑星を調査するためにやってきた宇宙人(トミー・リー・ジョーンズ)が、いろいろな職業を経験し、母星にレポートを送る--という設定のシリーズCM。

これまでに潜入調査した職業は70以上。そのたびに、この惑星の住人たちの不可解な行動や慣習に、あきれたり、困惑したり。それでもジョーンズは見捨てることなく、温かく見守ってきた。その目に、「このろくでもない、すばらしき世界」はどう映ってきたのか。

そこでテレビのことなら何でも気になる「読みテレ編集部」、今回はサントリー食品インターナショナル・コミュニケーションデザイン部の佐野さんに、このCMの15年を振り返ってもらった。

--もともと長く続ける予定で、始められたCMだそうですね。

「広告は、ブランドや企業の未来への投資ですから、どうすれば好きになっていただけるかは常に考えています。そういう意味でも、BOSSに限らず、どんなCMも長く続けられることは理想です。缶コーヒーは毎日飲まれる方が多いので、シリーズCMとして長く続けられたほうが、BOSSというブランドに、より愛着を持っていただきやすいのではと考えています」

--どうしてこのような設定のCMに?

「92年の発売当初から、BOSSのコンセプトは“働く人の相棒”です。ターゲットは日々一生懸命働く方々。どうすれば、そんな方々の心に寄り添い、『こんな毎日も悪くない』と思っていただけるかを目指しました。そんな中で出てきたのが宇宙人というアイディアです。今、世の中で起きていることを、俯瞰的・客観的に眺め、少し皮肉を含めながらも、温かく、やさしい目線で私たちを見守ってくれるという設定に、宇宙人がピッタリだと考えました」

--トミー・リー・ジョーンズさんを起用した理由は?

「同じ日本人が演じるより、外国の方のほうがパッと見た時に、『これは宇宙人なんだな』とわかっていただきやすいだろうと。その上で、どこか物慣れない、不愛想な表情を持ち、当時の日本ではまだ超メジャーではなかったジョーンズ氏にお願いしました」

--ジョーンズさんと言えば、映画『メン・イン・ブラック』で、エイリアンから地球を守るエージェント役を演じていますが、それは関係ない?

「はい。あくまでもどこか物慣れない無愛想な表情と、当時の日本では超メジャーな俳優ではなかったことなどが理由です。当時の担当によると、いろいろな俳優の方が候補として浮かんでは消え、ジョーンズ氏に思い当たった瞬間は『見つけたーっ!』という感じだったらしいです(笑)」

--カラオケボックスの店員、ホスト、鵜飼い、行司、和菓子職人など、日本独自の職業を撮影で体験され、まさに宇宙人のような気分なのではと思うのですが、ジョーンズさんはどのようにおっしゃってますか。

「例えば、20年2月にオンエアした『漁港』篇では、日本の漁業は興味深いとおっしゃっていて、『日本には東京以外にも素晴らしい場所や文化がたくさんありますね』と、うれしそうに話されていました。他にも『猿と一緒に入れる温泉があると聞いたので入ってみたいです』とコメントされていたこともあるそうで、毎回楽しんで、撮影に臨まれている印象です」
©ytv
空港警備員に扮するジョーンズ(『空港』篇)。これまで70以上の職業を経験してきた
--これまでに90本以上のシリーズが放送され、多くはクスッと笑えるものですが、13年に放送された『大相撲』篇のように、ホロッとさせられるものも少なくありません

「そうですね。『大相撲』篇は完成したCMをみんなで見た時に、社内でもボロボロ泣いている人が結構いました。『この惑星には、愛されるという勝ち方もある』という最後の言葉が、みんなの心にズンと響いたのだと思います」
©ytv
「この惑星には、愛されるという勝ち方もある」の言葉が響く『大相撲』篇
--時には泣けるものをつくろうという意図はあるんですか?

「特に意図してはいません。BOSSのCMでいつも意識しているのは、その時代の瞬間をどう切り取り、それが働く方々の心にどう寄り添えるかです。その中で、たまたま13年に高見盛関の引退という出来事があり、あのような仕上がりになったということです。『大相撲』篇に限らずですが、心に深く残りながら、どこかちょっとクスっと笑えたり、ユーモアを感じられる内容にしたいということは意識しています」

--常に大きな話題や流行がある中で、何をどう取り上げるかは、どのように決めているのでしょう。

「働き方や働く人のマインドは、時代とともに移り変わっていきますから、CMをつくる際は宣伝チームと商品開発チームで、『今、働く人の気持ちってこうじゃないか』ということは話し合っています。そのあとでクリエイターの方々を交えて、さらに話し合っていく。CMで何をどう取り上げるかは、そうした会話の中から“おのずと決まってくる”というのが表現としてはピッタリかと思います」
©ytv
平成最後の日に放送された『平成特別』篇
--昨年、緊急事態宣言が出されたあとに、過去の映像をつないだ『特別篇』も放送されました。あれはどんな思いからでしたか?

「働く方々と共に歩んでいくことがBOSSのコンセプトですから、コロナ禍でこれからどうなっていくんだろうと多くの方が不安に思っている時に、どんな言葉なら心に寄り添えるのか、一緒に前を向きましょうというメッセージになるのかを考えました。結局、宇宙人ジョーンズは最後に地球人へのメッセージを消します。『そんなことしなくても地球人は大丈夫だよね』ということをジョーンズから伝えてもらいました」

--反響は大きかったのでは?

「感動しました、泣きました、勇気をもらいましたというお声を本当に多くいただきましたし、『あの映像がこんなふうに当てはまるんだ』とか『こんなにたくさんシリーズがあるんだ』ということに驚いていた方もいました。ただ、コロナに関してはおかれた状況や考え方は人それぞれ。どう受け止められるか、放送するまでわからなかったのが正直なところでした」

--これまで多くの方がゲスト出演されていますが、中でもタモリさんは登場作品も多く、BOSSのCMの顔のお一人になっているかと思います。

「タモリさんにご出演をお願いしたのは、プレミアムボスという新商品が登場するとともに、みんなから愛された国民的番組『笑っていいとも!』が惜しまれつつ終了したタイミングで、日本中がタモリさんの素晴らしさや偉大さを再認識していた時でした。タモリさんのお力をお借りして、普段のボスよりもちょっといいものだと感じてもらうことができたのではないかと思っています。撮影中のタモリさんからは、とてもフレンドリーで、気さくなお人柄が垣間見えた、と当時の担当者からは聞いております」

--改めて全作品を見返すと、この15年の日本を宇宙人ジョーンズの目から観測した、ある種の記録であり、本当に素晴らしい作品だと思いました。全話を収録したパッケージ作品を発売する予定はありませんか。

「10周年のキャンペーンの際に、その時点での総集編DVDをプレゼントさせていただいたことがあります。もしそういうお声が多くあるようでしたら、今後なにかのタイミングで実施させていただくかもしれませんね」

【取材・文:井出尚志】
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