「芸人を使わず嘘の企画書を出せ」テリー伊藤×土屋敏男が語る『テレビのこわし方』(後編)

2021.07.19

「芸人を使わず嘘の企画書を出せ」テリー伊藤×土屋敏男が語る『テレビのこわし方』(後編)
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テリー伊藤氏土屋敏男氏、二人のレジェンドに今のテレビについて聞くインタビュー。前編ではYouTubeとも対比しながらいまのテレビが守る側になってしまったと、レジェンドたちが挑発してきた。では、そんなテレビをどうすればこわせるのか?いよいよ話が盛り上がり佳境に入る後編を読むべし!

【聞き手/文:境 治】

一人の空想から生まれた、見たことない企画

境:「元気が出るテレビ」も「電波少年」も、それまでのテレビをこわしてると思いました。笑いながら、とんでもないテレビだと思って見てました。

土:「こんなものテレビじゃない」を産み続けることがテレビを継続することですから。いまはコント番組もビジネスに寄りすぎてるかな。こんな人が出てこんなことやったらコアターゲットが見る、ということをやってもねえ。

境:「元気が出るテレビ」はテレビをこわすぞという掛け声で始めたわけですか?

土:そんなものスタートさせてくれません。伊藤さんが勝手にやったわけです。5回目か6回目に「熊野前商店街の床屋の息子が友達で、そこを元気づけるのをやりたいんだよ」と言い出した。そんなテレビ見たことないんだもん。なんだそれと思ったけど、伊藤さんがやると言うからやるわけです。「たけし猫まねき」を置く企画をやるので、ロケバスに乗って熊野前商店街に向かったら大勢の人がわあわあそっちに向かってるんですよ。何があるんだ?お祭りでもあるのかなと思ったら、まさに商店街に向かってる人たちだった。テレビで呼びかけて人を集めるということがなかったから大変な騒ぎになっちゃって。今度はまた伊藤さんが「インドへの道っていう映画を見たんだけど、二百何十歳のガンジーオセロっていう行者が何十年ぶりかで日本に来るってどうかなあ」と言い出す。そんなことを数ヶ月ごとに言うわけ。

伊:そういうのはホントは今でもできるんですよ。当時は集合体じゃないからね。今はデータから入るからできない。

土:一人の狂人からスタートしないと(笑。企画はテリー伊藤の頭の中にあるだけだったし、伊藤さんもみんなにどう思うとか聞かなかった。俺がこれ面白いと思うんだからやるんだと言い、あとは全員「はい!」って言ってやったんです。視聴者はこういうのが見たいんじゃないの?と思ってやるわけです。

伊:空想だよね。空想を映像で見せていく。これが大変なんですよ。漫画家や作家は自分で想像すればいいけど映像にして、しかも笑わせなきゃいけない。

土:暴君ですよ。いいから撮ってこい、いいから笑わせろ。ダメだったら、笑えねえじゃないかこの野郎(爆笑
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コロナ後に新しい天才が出てくる?

伊:運がいいだけで、たまたまあの時代だったからあんなことできたわけですね。いい時代だったと思います。じゃあいま才能ある演出家が出てきてやろうとしても・・・。そのアイデアが嫌いな人もいる。すると難しい。

ファッションでもいまはみんなフラットでユニクロが主流。ボディコンみたいなのは着ないですよね。尖ったものを映像で形にしてもついてこれるのかな。岡本太郎みたいなことをやろうとしてもさらっとしてなきゃいけないわけです。狂気の時代だったからできた。いまはそんなに人集めてどうするんだとか、差別問題になったらどうするとか言っていろんな足枷が出てくる。そこでやっててもねえ。

ベートーベンやピカソがいまいたとしても、ピカソさん今回の企画書は?とか言われたら「もういいわ」と違うとこに行っちゃうでしょうね。芸術はお金が取れるけど、テレビだと数字が取れないからダメ、となる。

土:ほんとに面白いのはどの時代も5%くらい。他はつまらないですよ。こわす余地があってこわしていくと、こわすものがなくなるけど、こわし方はあると思います。「キングオブコントの会」で松本人志がやってたコントはおそろしく面白かった。「ドキュメンタル」でやったことをテレビに戻したり、彼一人がやってる。天才が面白いことをやっていればいい。おれは面白いことをやってると意地を張る奴が何人かいてほしいですね。

境:ただ松本人志さんはうちの息子から見ると父親の世代です。

土:天才はいくつでも天才だからそこはいいと思うけど、30代の次の天才が出てこないといけないでしょうね。それはアンチ松本人志であるべき。そうじゃないとこわせない。

伊:今のコロナは戦争と一緒。戦争が終わったら日本人の価値観は一瞬で変わったように、ワクチンで霧が晴れると一気に変わると思いますよ。大谷ひとりで野球が変わったように。戦争終わって、軍歌聞いてたのがジャズに変わってこんな音楽あったのかとなった。キラキラした原色のファッションが突然出てくるんじゃないかなあ。CMも最近は音も映像も落として、アサヒ芸能の表紙みたいなのはない。それをメジャーな会社がやったら面白いのに。ゲーム関係のCMはそんな感じでしょう。でも立派な企業はそうじゃない。そこが、そろそろ空気が変わるんじゃないかな。
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社運を賭けた企画なんてダメ

土:ただ、BTSのように韓国や中国のギラギラした連中が出てきて。そういうのに日本人がキャーと言うようになる気もします。

伊:車も日本は勝てないね。電気自動車の上位企業はほとんど中国や韓国。デザイナーはヨーロッパから呼んでいる。それで世界に行くわけです。

土:中国が世界を取りに行く時代です。この夏も大メジャーな超大作中国映画が来ますが、日本は小さいマーケットの一部になるんじゃないか。みんながグローバル市場で戦うのが当たり前な時に日本のテレビはあいかわらず国内しか見てない。70年間同じビジネスモデルでやってきた人たちは変わるのが下手です。

伊:それでも豊か。やっぱりハングリーじゃないと。

土:日本のプレイヤーは10年後下がっているは見えてるのに動いていない。韓国のドラゴンスタジオは1本何億で作ってるのに日本は前は4000万でドラマ作ってたのに2500万で今はやる。まだ全然勝負になるのにそういう気が全然見えないですね。

境:テレビのこわし方をあえて言うとしたら?

伊:お笑いタレントを使わないことですね。お笑いタレントは面白すぎるから作り手が伸びない。企画書にお笑いタレントがいてこの人が回しますとしちゃったら、それはもう麻薬ですよ。お笑いタレントじゃなくても面白い人はいっぱいいる。そういう人で粘って面白くしていかないと。お笑いタレントはIQが高いですよ。頭の悪そうなこと言ってるんだけど高速回転で頭が回ってて、それが最近はもう見ているとめんどくさい。そこに気づく人がいると思いますね。そうじゃない人を探して番組作ったら、面白くなるんじゃないかな。

土:そういう企画を選べるかどうかもありますね。だから企画書にお笑いタレントの名前を書いておいて、すみませんダメでしたと削るくらいでいいと思います。嘘の企画書でいいんです。上司の側も、企画書なんて嘘でいいくらいの度量がないと。選べるわけがないんだから、編成だってスポンサーだって。

境:通る企画書のコツはありますか?

土:選んでる側の力量を見るんです。前回通ったものを手に入れてちょこっと書き換えて通せばいい。で、嘘でしたと言えばいいんですよ。上司も騙されるくらいの、こいつの嘘に乗ってみようと考えなきゃ。社長まで行って企画を決めてもダメ。社運を賭けた企画なんてダメ。「元気が出るテレビ」の頃の日本テレビなんてダメダメだったから伊藤さんに全面的に頼った。「電波少年」なんて3か月の穴埋め番組でしたからね。

伊:いまはパワポが使えるから写真とか貼って持っていけばいいんじゃないですか?
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二人のレジェンドを前に緊張していた私だが、次々に出てくる刺激的な話にいつの間にか緊張を解かれ、話の奥を聞き出そうとしていた。テレビに限らず想像的な仕事をする上で役に立つ話が一杯だったと思う。まったく衰えない発想力に、勇気をもらった気がした。世の中はまだ、面白くできる。そんな気持ちになってきた。とくにテレビ関係者の皆さんは、できれば何度も読んでもらい、テレビの明日に向けて頑張ってほしいと思う。
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