袴田事件は一種のマインドコントロール?不可解な謎。再審開始の東京高裁決定に東京高検が特別抗告しない理由とは・・

2023.04.02

袴田事件は一種のマインドコントロール?不可解な謎。再審開始の東京高裁決定に東京高検が特別抗告しない理由とは・・
©ytv
洗脳、そしてマインドコントロール。恐ろしい言葉だが、最近起こる事件や出来事には人が他人の意のままに行動させられてしまう、いわゆるマインドコントロールを受けたと思われるケースも少なからず見受けられる。3月26日放送の「そこまで行って委員会NP」は「洗脳とマインドコントロール徹底究明SP」と題し、カルト教団や連続殺人事件の裏にある、自分の意思に関わらず他人に心が支配されてしまう現象に迫った。殺人事件で死刑が確定したが冤罪が疑われ、先日ようやく再審開始が決定した『袴田事件』(一家4人を殺害したとして死刑判決が確定)。袴田巌さんのケースも、取り調べの中に、ある種のマインドコントロールがあったのではないかとの見方も含めて、この事件について論客たちが意見を述べあった。

島田裕巳氏(宗教学者)はこう疑問を呈する。
「(番組前半で扱った)北九州監禁連続殺人事件、また、オウム真理教が起こした一連の事件も、事件の出発点は偶発的に誰かが亡くなってしまったことに起因すると思う。つまり死亡を隠蔽することから事件が始まっている。そこから考えると警察が一度でも『この人が犯人では』と決めつけてしまうと、 今度はそれを正当化するために証拠の捏造までやってしまう可能性があるのではないか。そういうプロセスで、非常にこの3つの事例は、似たところがあると思う。袴田事件の場合、なぜ最初の時点で警察が、『袴田さんが犯人』と決めつけてしまったのか。」

竹田恒泰氏(作家)は憤りを隠さない。
「思い込みだけならまだわかるが、証拠の捏造までし始めると、もはや真犯人は誰でもいいのではないかという話になってしまう。目の前にいる被疑者をどうやったら有罪に持ち込めるだろうかということにしか興味がないように思えてしまう。警察や検察の人間は、元々は社会正義を実現しようと志し、その職業を選んだはず。こんなことでは、日本の司法制度が根こそぎ吹っ飛ぶ。」
門田隆将氏(作家・ジャーナリスト)は詳しい状況を解説。
「袴田事件においては、当初から真犯人と疑われていた人がいたのにそっちは熱心に捜査をしていない。袴田さんは、当時、味噌工場で働いて事件現場の隣の寮で寝ていた。夜中に火事が起こり、消火活動した時に屋根から落ちて怪我をして出血をした。一生懸命消火活動をやった人間を警察は、こいつは血が出ているから怪しいのではと、最初に思い込んだ可能性がある。当初から疑われていた人がもしかしたら真犯人だったのではないかと、取材を続けてきたマスコミの多くの人たちは思い続け今に至っている。袴田さんは当初は事件を否認していたが、連日連夜猛暑の中で取り調べは続き、自白したのは逮捕の19日目。あと1日耐えたら勾留期間の満了で大丈夫というところだったのに、精神がおかしくなって調書に判を押してしまった。」
出口保行氏(東京未来大学 教授)は心理面を分析する。
「一般論として、こういう状況では“被暗示性”が非常に高まる。要するに暗示にかかりやすくなる。逮捕され、個室に入れられずっと同じことを聞かれる。情報も全てシャットダウンされると人は判断能力をどんどん失う。相手が言っていることが真実のように聞こえてきてしまう。さらに、“確証バイアス”がかかる。自分にとって都合のいい情報だけを頭の中に入れて自分自身で審議する。取り調べ側は、こういう情報を与えたら被疑者は、自分が言ってほしいことを言うはずだという、意図的な情報だけを被疑者に与える。被疑者にどちらかを選ばせない。『右か左かどっちですか?』じゃなくて、『右だよね?』という言い方をする。受けた側も右だと言われて『そうだ』と答える。左かもしれないという考えを捨ててしまう。」
多田文明氏(ジャーナリスト)は組織の問題を指摘する。
「カルトなどいろんな団体を見ると“組織性”がポイント。誰か権威ある人がいて、その人が『こうだ』とストーリーを作ってしまうと、組織全体が従ってしまう。警察の組織性も非常に権威に寄り添う傾向が強く、権威に従うことで出世していこうという側面もある。真実を暴く人はいなかったのか。」
小野一光氏(ノンフィクションライター)は事件の前にあった問題を語る。
「袴田事件が起こったのは昭和41年。静岡県警はその15、6年前、昭和20年代の前半に冤罪事件をいくつか出している。その時の捜査を指揮した人物が、拷問に近い取り調べを行って自白させる手法をずっと取ってきた。その人物はその強引な手法で手柄を立てて出世をしていたが、ある冤罪事件が差し戻しになった段階で左遷され、袴田事件の3年前に警察を辞め、その年に病死している。その刑事の部下たちが、袴田事件に関わっている。同じ捜査手法が取り入れられていたのではないか。」
丸田佳奈氏(産婦人科医・タレント)は組織全体の倫理を問う。
「1人の倫理観ならまだわかるが、その影響を受けた部下がどんどん出てきて、拷問じみた取り調べを良しとしていった側面があったのかもしれない。そこには組織の非倫理性があったのでは。」
古舘伊知郎氏(フリーアナウンサー)は報道側の自省を促す。
「警察の話が出たが、世論を形成しようとするメディア側も酷かったと思う。当時の新聞などの見出しを見返すと、『袴田、金欲しさ』『袴田、葬儀の日に高笑い』。これを見れば世論は、袴田さんが真犯人だと勘違いしないだろうか。メディア側も本当に考えないといけない。『警察のレクチャー』を信じて、それをそのまま報じておけば、誤報じゃない、という姿勢ではいけない。」

論客たちの様々な角度の意見を聞き、事件が内包する捜査機関やマスコミによる世論の構築の危険性など、様々な角度から見ることによって、本質が見えてきた。私たちも警察やメディアの報道を過度に信じず、冤罪は起こり得るという前提で世の中を見つめるべきなのだろう。

【文:境治】
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