「そこまで言って委員会」は貴重で危険!だから、皆さんと考えたい。黒木千晶(読売テレビアナウンサー)インタビュー(後編)

2023.05.14

「そこまで言って委員会」は貴重で危険!だから、皆さんと考えたい。黒木千晶(読売テレビアナウンサー)インタビュー(後編)
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「そこまで言って委員会NP」の番組議長・黒木千晶アナへのインタビューの続きをお届けする。前編では議長に指名された時のことや番組進行役として気をつけている点などを聞いた。後編では、番組に込めた想い、アナウンサーとしての今後についても聞いているのでぜひ最後までお読みいただきたい。

---ここまで、いい話ばかり聞きすぎたので、失敗した話もお聞きしたいです。

黒木千晶アナ(以下、黒木):それで言うと、4年前に秘書になって、2回目の収録が1番私の中で失敗したなと思っています。その時の経験から、ちゃんと勉強しなきゃと考えるようになりました。

---まだ辛坊さんがいる時ですね。

黒木:そうです。ちょうど4年前の今ごろですね。当時も統一地方選挙があって夕方の「かんさい情報ネットten.」の10周年企画もあり、ものすごく仕事が立て込んでる時期でした。収録の準備が若干おろそかになってしまい、紹介する本の著者の方を交えて討論する時に、著書を読んではいたんですけど、その方がまだテレビ出演に慣れてなくて。論客の方たちから詰め寄られる場面があったのに、どうしてもその方に助け舟が出せなかったんです。フロアのスタッフと困って目配せした場面が忘れられなくて、その時が1番の失敗でした。こういうこと書いてありましたよねとフォローしてあげるだけで、その人が喋りやすくなる。その経験から学びました。
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「そこまで言って委員会」は“貴重で危険”

---この番組に込めた思い、視聴者の皆さんに受け止めてほしいことはありますか?

黒木:この言い方が適しているのかわからないのですけど、すごく貴重で危険な番組だと思ってまして・・・。

---面白い!キャッチコピーみたい。貴重で危険な番組!

黒木:貴重というのは、ここまで1つのテーマを深く識者の方たちのトークだけで展開し、いろんな価値観が出てくる番組は今なかなか少ないと思うんです。視聴者の皆さんにも、番組を見て考えていただいたり、新しい発見に繋がってくれたら嬉しいなと思います。いろんなテーマを識者の方たちがガチで討論する、すごく貴重な場だと思います。ただ一方で危険と私が言ったのは、すごく歴史のある番組で楽しみに見てくださっている視聴者の方も多く、かつ影響力もものすごくあることです。だからこそ、1つの価値観だけではなく、いろんな見方がありますから皆さん考えてくださいね、そういう番組であることを忘れずに進行しないといけないと思っています。

---なるこど、どこかに引っ張られずに、自分で考えてほしいということですね。

黒木:そういう思いがすごく強くあります。

---確かに東京の報道番組は少々左に寄っているものはあっても、右の意見はほとんど出てきません。本当の意味で多様な意見が出る番組が「そこまで言って委員会」かもしれませんね。

黒木:すごく保守的な番組と見られることもありますが、 むしろ保守的な方からも、左の方からもどちからからも批判される番組です。最近マイルドになったと言われることもあるし、いや偏りすぎやろ、と言われることもある。もしかしたら昔に比べるとマイルドになっているのかもしれませんが、私はそれがいいのだろうと思ってます。どちらにも寄りすぎず、どっちの意見もあって、それを受け取る皆さんがどう考えるかが1番大切かなと思っています。

---確かに、前々から東京にも噂は伝わっていて、やしきたかじんさんがやってた頃は、相当激しかったと聞きます。

黒木:私は関東出身なので、たかじんさん時代はしっかりとは存じ上げていないのです。当時の番組の勢いは関東に住んでいても伝わってはいたものの、どこまでのものだったのかは知らない。それを物足りないと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、読売テレビとして出す番組に局アナが2人MCをやっている意味はそこにあって、司会者が自分の強い主張や考えに導かないのが、この番組では大事だと考えています。
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「実家は今もお風呂に追い焚きがないです(笑)」

---最後に番組を離れて、アナウンサーとしての話も聞きたいんですけど、順調にキャリアを重ねてらっしゃるように見えますがご本人としては?

黒木:どうでしょう。やっぱり「委員会」はすごく大きな転機だったと思っています。もちろん報道のアナウンサーとして、コツコツ積み重ねてきたつもりだったんですが、勉強量は何十倍にもなりました。それが普段の「ten.」にも生かされている部分があり、「ten.」が生かされている部分もある。だからこそ「委員会」を担当してよかったなと思います。

---お嬢さんっぽく見えてレジ打ちのバイトもやってたと聞きました。

黒木:はい、レジのアルバイトもしていましたし、まったくお嬢様育ちじゃないです。たとえば、実家は今もお風呂に追い焚きがなくて、湧いたらみんな一斉に入らないといけない。ぬるくなったら、自己責任(笑)

---庶民派のアナウンサーが今は「委員会」を含めて、報道の場で成長してらっしゃる。今後もっとグイッと報道に行くとか、逆に委員会を離れたら柔らかい番組がいいとか、アナウンサーとしての野望は?

黒木:私よく言われるんですけど、野心がなくて…。(笑)高岡達之解説委員長にも『お前もっと野心を持て』と言われます。でもないんですよ。それだけ恵まれてる環境なのかもしれません。周囲の人からも、もっとこれやりたいと発信していったらと言われます。報道番組志望だったので、それが叶って1年目で「ten.」をやって、2年経って「委員会」のアシスタントやって、2年経って議長になって、「ten.」もメインキャスターやって、年数重ねるごとにありがたいことに転機があって。

---例えば局アナを離れてジャーナリストになろうとか、将来の目標は?

黒木:アナウンサーとしての目標はあんまりないですね。でもテレビ局員としての夢はあります。結局はアナウンサーとしてこうありたいということとも重なってくるんですが、 めっちゃ真面目な話です。テレビはインターネットと違って選んで見てもらうというより、公共の電波なので、パっとチャンネルを変えたらすぐに見られるメディアですよね。だからこそ、世の中のことを断定する強い意見より、いろんな考え方がありますね、さあ皆さんどうですか?と提示をする場になっていると思います。そういう感覚を持ったアナウンサーであり続けたいですね。今志願して報道記者も兼務していまして、テレビでニュース化されていない声をすごく感じています。例えば、公立高校の卒業式に行きマスクを着用するかどうかの取材で、卒業生にインタビューすると「コロナ禍でずっと過ごして私たちの3年間を可哀そうだと思ってほしくない」と言うんです。その言葉がすごく印象的で、テレビで実際に流す部分はどうしても、今回マスクしましたか、という話になります。でもそういう卒業生の気持ちを知っているかいないかは、スタジオで話す時にも大きく変わってくると思います。アナウンサーだけをやっていると見えてこない取材をしながら、いろんな声を拾い集めていきたいと思っています。

---素晴らしいです。世の中の声をすくい取って、伝えていきたいということですね。ジャーナリストっぽく振る舞って自分を際立たせるより、世の中の人にちゃんと伝えることが大事だと。

黒木:すごく責任のある仕事だと思っているので、アナウンサーを極めるとすると、自分の言葉を持っていろんなことを知って語れる人になる。すごいふわっとした話なんですが。

---理念を感じます。最近いろんな議論の場で、民放も公共性が元々あるはずだし、これからその側面は大事になると言われています。そういう意味で、民放の伝え手の役割は自分の言葉で語ることかもしれない。

黒木:アナウンサーとしてこういう仕事がしたいというより、こういう伝え手でありたいという抽象的な話ですみません。

---でも胸に響くお話でした。
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番組を見ていると明るく楽しく進行している面ばかりが目立つが、一度失敗したからこそ十二分に準備し勉強していることがわかった。視聴者に多様な論点を提示できるよう意識しているのも番組を見ているだけではわからない。それだけさりげなく進めているということだろう。テレビ局員として目指す在り方も語ってくれたが、令和の時代のマスメディアの役割を考え、体現しているのだと思う。黒木アナのこれからに期待したい。でも「そこまで言って委員会」の議長はできる限り続けてもらいたいものだ。

【文:境治】
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