「売れたい」より「食いたい」。「キングオブコント」ファイナリスト「滝音」が明かす奥底の思い

2020.10.10

「売れたい」より「食いたい」。「キングオブコント」ファイナリスト「滝音」が明かす奥底の思い
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センスあふれるワードを散りばめたネタで、先月行われた「キングオブコント2020」でファイナリストになったお笑いコンビ「滝音」。大分県出身で大阪大学卒業のさすけさん(30)と、185センチの長身で独特の存在感を持つ秋定遼太郎(32)さんが2016年に結成しました。「キングオブコント」のみならず、今夏には「ABCお笑いグランプリ」で決勝にも進出。既にオファーも多数舞い込んでもいますが、現状への冷静な分析、そして根底にある思いを明かしました。
―先月の「キングオブコント」の影響はありましたか?
さすけ:お仕事はすごく増えました。決勝進出が決まった時点で一気にお声がけをいただいた感じで、今まで全くご縁がなかった番組からもお話を頂戴しまして。
秋定:そもそも、僕らがコンビでテレビに出たのはこれまで2回だけだったんです。去年、関西ローカルの番組でネタをさせてもらったのと、今年の夏に「ABCお笑いグランプリ」の決勝に進出した時と。3回目のコンビとしてのテレビが「キングオブコント」だったので、今いただいているお仕事全部が“ご縁がなかった”ものばかりです(笑)。
ただ、今呼んでもらっているのは“キングオブコントファイナリスト”として呼んでもらっていると思うんです。
だから、ここでダメなのが浮かれること。今こそ、一番頑張らないといけない時期だとも考えています。じゃ、何を頑張るのか。やっぱりネタだと思うんです。しっかりとネタを作り続ける。そして、また次は“Ⅿ-1ファイナリスト”として呼んでもらう。そんなことを繰り返しているうちに、どこかで「滝音」として呼んでもらえるようになるのかなと。
さすけ:今は僕らの実力に比して、まだ合っていない番組にも出していただいてますしね。
秋定:やっぱり、やっぱり、ネタを頑張らないといけないし、そこで作ったネタは、たとえ、バラエティーに出してもらう流れが止まったとしても、なくならないですから。そして、ネタという確固たる場所があれば、番組でも思い切って前に出られるでしょうし、何がどうなろうが、ネタは残る。それを、今、強く感じています。

―そもそもコンビを組んだきっかけは?
さすけ:僕は(NSC大阪校)の34期生で、秋定さんは33期で同期でもないですし、もともとほとんど知らない間柄やったんです。あたしが前のコンビを解散する直前にたまたまライブで会って、当時、秋定さんもコンビを解散してピン芸人をしていて、じゃ、そこでSNSのダイレクトメッセージで連絡して「一緒にやりませんか」と誘ったんです。
秋定:ここがある意味、すごいところですけど、遠慮をしないというか「普通、そこはグイっと行かへんやろ!?」というところでも、さすけはいくんですよ。例えば、本が好きという共通項だけで「ジャルジャル」の福徳さんの楽屋に入っていって、本の話題でグイグイ話しかけたり。なので、僕にも躊躇することなく来てくれて。

―ほどんど“助走”がないままのコンビ結成。組んでからの実感は?
秋定:実は、組む前、僕の中では正直あまり印象は良くなかったんです。ほとんど知らない間柄ながら、当時からかぶってた帽子もあからさまに“狙ってる”感じがあったし、一人称は“あたし”やし、なんか作ってるというか。あざとい感じがしていたんです。
でも、最初のネタ合わせの時に結構ちゃんとしてたんです。なんなら、結構どころか、かなりしっかりしてて。そして、しゃべっていくうちに、面白さに気づいてくるというか。これまで、この面白さがなぜ出なかったのか。よく何年もこの面白さが埋もれてたなと思うくらいになっていきました。
僕もコンビを解散して、ピンで1年くらいやってきて、もう組む人もいてないし、この世界を辞めようとかも思っていたんです。そこで声をかけられたので、逆にやれるところまでやってやろう。相方の面白さを何とか引き出してみようと思えたんです。
さすけ:あとね、これも大きかったのは、組んだ当初から(秋定が)恋愛相談をあたしにしてきまして(笑)。
秋定:またそれ言うんか!
さすけ:これはね、いいことなんですよ(笑)。コンビ間の空気って、分かりにくいかもしれませんけど、あらゆるコンビを見渡しても、相方に恋愛相談できる人は滅多にいないかなと。それがスッとできるんですから。これはね、才能です(笑)。
秋定:あまりにもこの話をいろいろ言われるので、もう今は一切しなくなりました。
さすけ:いや、でも、本当に最初からそういう話ができたことも、仲良し同士が組んだコンビじゃないからこそ、関係性を作るには大きな意味があったと本当に思うんです。
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右から秋定遼太郎とさすけ
―あと、さすけさんが一人称を“あたし”にしているのは、何か意味が?
さすけ:いや、これは、別に自分で“あたし”と呼びたいわけではないんですけど、嫁との関係の中で行きついたものでして。結婚したのが6年ほど前、付き合ってからだと10年くらい経つんですけど、付き合った当初、当時は“オレ”と言ってたんです。でも、それだとオラオラな感じがしてイヤだと。
じゃ、そこから“ボク”にしたんですけど、25歳を超えたあたりから「エエ歳になってきて、ボクはキモイんちゃう」と言われまして。それから“私”になって、“わたし”が言いにくかったので、そこから“あたし”になったという流れです(笑)。そして、今も特に嫁から文句は出てないので、引き続き“あたし”を使っている最中です。

―しかし「キングオブコント」決勝に出るとなったら、奥さんも喜ばれたのでは?
決勝メンバーには「ロングコートダディ」さんも本当に面白いし、あたしが昔からお世話になっていて天才的な「ニッポンの社長」さんもいらっしゃる。
その中で自分たちが優勝するのはなかなか難しいという思いもありましたし、家に帰って、嫁に「『旦那がゴールデンのネタ番組でネタができるんだ』くらいの感じで喜んで」と話したんです。じゃ、子どもたち2人を寝かしつけて夫婦だけになってから、ものすごく嫁に怒られまして。
「そんな中途半端な気持ちで『キングオブコント』なんか出るな!そんな気持ちやったら、ウーバーイーツのバイトしとけ!」と。
普通はこっちが「是が非でも優勝するぞ!」とだいぶ前のめりになって、奥さんが「そんなに気張らないで、いつもの感じで頑張ってね」という感じが多いのかなと思うんですけど、完全に逆になりまして…。こちらが嫁をなだめるみたいなニュアンスになって、かえって、落ち着いて本番にのぞめたという部分はあるかもしれませんね。
今でもそうですけど、売れてない芸人と結婚できるくらいの人ですから。やっぱり心の力が本当に強いんだなという再確認ができました(笑)。

―ここからは家族孝行ができそう?
さすけ:これもね、なかなか言い方が難しくもあるんですけど、あたしは、そこまで売れたいという思いがないと言いますか。例えば「モテたい!」とか「お金持ちになりたい!」とか、そういう思いはものすごく良い“ガソリン”になると思うんですけど、あたしは本当にそこが乏しくて。
秋定:そもそもの話、さすけは芸人なること自体が夢だったというのが大きいと思います。今はもう芸人にはなったので、ずっと“ウイニングラン”が続いているというか(笑)。
さすけは阪大を出てるんですけど、出身地の大分から芸人になるために大阪に出て行く。その口実として、阪大に行ったという。その時点で、かなり力を使って芸人になってますんで。
さすけ:あと、これもまたニュアンスをお伝えするのが難しいんですけど、もちろんネタをやってウケたらうれしいんです。ましてや、芸人仲間に褒められたりしたら、それはそれですごくうれしいんです。ただ、それがネタをやる一番の目的ではないというか。
じゃ、何を原動力にやっているんだというと、そのワードやフレーズを“自分が言いたいから言っている”。ここが強いんです。
それを相方が面白いように見せてくれているとは思うんですけど、あくまでも、あたしはそこを言いたいから言っているなと。
売れたいというか、ウケたいという欲はかなり低い方かもしれないですね。正確に言うと“売れたい”よりも“食いたい”という感じですね。お笑いをやって、ご飯を食べていたい。月に20万円くらいこの仕事で稼げたらありがたいという。
もともとは相方もそういう感じだったんですけど、最近、少しずつお仕事をいただけるようになって、また変わってもきたみたいでして。
秋定:それこそ、僕も20万くらい、結婚したなら30万くらいかせげて、家族で仲良く暮らせたらいいなと思っていたんです。ただ、最近、欲が出てきまして(笑)。
もしかしたら、思い描いていた生活はもう少し頑張ったら手が届くかもしれない。そう思いだしたら、もう少し上、もう少し上となってきて…。今、最新の欲はレクサスに乗ることです(笑)。リアルに生々しいです?
■取材後記
最初にお二人を強く認識したのは昨年12月でした。
僕はラジオが大好きで、少しでも時間があれば、あらゆる番組を聴いているのですが、その日、ウォーキング中にふとつけたラジオで、思わず足が止まりました。
その番組は若手芸人の方々が次々に登場してしゃべるような内容だったのですが、タイミング悪く途中から聴く形になり、要は、今しゃべっているのが誰なのか、分からないまま聴いていました。
10分に1つあっても「センスあるなぁ」と思うようなワードやフレーズが1分間に数個は出てくる。
「え、いったい誰がしゃべっているのか!?」。強い衝撃を覚え、すぐにそのラジオ局の知り合いに連絡をして尋ねると、返ってきた名前が「滝音」でした。
実際に取材をしてみても、言葉に対する感覚が非常に繊細だなと痛感しました。おそらく取材の様子を1000人が見ていても、誰も全く気付かないような僅かな言葉尻の違和感。そんな部分にも二人とも瞬時に反応。
究極の後出しじゃんけんですが「そら『キングオブコント』決勝にも出るわ」と改めて、あのラジオの衝撃を反芻する取材となりました。
執筆者プロフィール
中西 正男(なかにし まさお)
1974年生まれ。大阪府枚方市出身。立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚などを大阪を拠点に取材。桂米朝師匠に、スポーツ新聞の記者として異例のインタビューを行い、話題に。2012年9月に同社を退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属し、テレビ・ラジオなどにも活動の幅を広げる。現在、朝日放送テレビ「おはよう朝日です」、読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」などにレギュラー出演。また、Yahoo!、朝日新聞、AERA.dotなどで連載中。
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