テレビ局をやめた人にインタビュー【今のテレビへ提言ありますか?】元テレ東・高橋弘樹さん(後編)

2023.11.30

メディアの多様化が進む中、テレビのあり方が大きく変わりつつある。前回、テレビ東京出身の映像ディレクター高橋弘樹さんに今のテレビがどう見えているのか、テレビには何が必要なのかなど伺ったが、今回はその後編をお届けする。

高橋さんはテレ東時代に『家、ついて行ってイイですか?』などさまざまな意欲的な番組を企画・演出。現在は独立し、ビジネス動画メディア「ReHacQ(リハック)」を開設。そのYouTubeチャンネル登録数は53万人以上。メディアを超えて、様々にコンテンツ作りを展開している。

そんな高橋さんに話を聞くのは、『ダウンタウンDX』を20年以上演出してきた西田二郎。テレビ局をやめた人だから見えるものがあるはずやと、あれこれ聞く「西田二郎のメディアの旅」

【構成 : 鈴木しげき】
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テレビを面白くするには目のヤバさが必要!?

前編で高橋さんが読売テレビ『そこまで言って委員会』(毎週日曜ひる1時30分~)に出た時に、スタッフの目がキラリとヤバかったという話のつづきから後編はスタート。

西田 : 作り手でそういう目をしている人って少なくなってる?

高橋 : 確かに少ないかもしれないですね。けど、上出とかはヤバい目してたかなぁ(※上出遼平氏は元テレ東の演出家。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』で第57回ギャラクシー賞・テレビ部門で優秀賞を受賞)。日テレは誰かいるかなぁ、橋本さんもちょっとヤバめか(※橋本和明氏は元日テレの演出家。『有吉の壁』『マツコ会議』など)。

西田 : 土屋(敏男)さんもヤバいでしょ。

高橋 : 土屋さんもそうですし、それこそ昔、飲みましたけど、五味(一男)さんも目ヤバかったですよ(笑)。

西田 : 五味さんの目のヤバさはもう! 説明すると『マジカル頭脳パワー!!』とかやってた方で。

高橋 : あと、『速報!歌の大辞テン』『エンタの神様』などですね。

西田 : 最近でも『熱唱!ミリオンシンガー』とかね。あの人が、出演者の話している言葉を文字にして画面に入れなさい、それが見やすいんですよってバラエティーの流儀を変えたんですよ。

高橋 : 当時、芸人さんは嫌がったって言いますよね。

西田 : その頃、『ダウンタウンDX』を担当してて、ダウンタウンしゃべってんのに文字を入れるかどうかって議論を半年くらいやってましたからね。

高橋 : 歴史を変えた人と言えますよね。

西田 : まわりは「五味さんが言ってるし」とか「五味さんがやってるから」とか言うんだけど、「せやけどなぁ……」と悩みつつ、僕は入れましたよ。

高橋 : (笑)

西田 : 入れるとそれなりに効果があって視聴率もキープできたりするんですよ。けど、視聴者に伝わったなと思ったら、3週くらい続けて次は抜くんです。

高橋 : はいはい。

西田 : 入れ続けて、それでまた力なくなってきたら、また何か足していなかきゃいけなくなるから。気がついたら、なんぼほど装飾せなアカンねんってなるでしょ。だから、ある程度やって効果が出たら、しばらく抜くと。

高橋 : やめておこうと。

西田 : 僕はそういうやり方をしてて、これは五味さんに対するアンチテーゼでしたね。

高橋 : はいはい。

西田 : これ、五味さんに会った時に伝えましたけど全然伝わってへんかった(笑)。「そんなの、おれ知らんわ」みたいな目で。

高橋 : いろんな流儀がありますからね。演出する人たちって目がイカれてますからね。

西田 : 藤やんは会ったことある?

高橋 : あー、『水曜どうでしょう』の。藤村(忠寿)さんもイカれてたわー(笑)。

西田 : イカれてるっていうとどうも誤解を生みそうだから、なんて言うんだろう、気持ちが立ってるというか、みんなが見ている尺度とは違う目線で世の中を見てるんですよね。

高橋 : そうですね。物づくりの根本って観察だって気がするんですよ。目に見えるものとか、心の動きとか、その場の空気とか。なんか、観察のセンサーが敏感すぎるって感じですかね。感じやす過ぎて壊れてるというか。

西田 : わかる。

高橋 : そういう人はいた方がいいですよ。
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▲高橋弘樹さん(左)と読売テレビ・西田二郎氏(右)

大ヒットはテレビを作っている人が生み出す可能性が高そう

西田 : 今、活躍してる高橋くんを形づくったのはテレビだと言えると思うんだけど、今後はテレビをやっていない人が、高橋くんみたいになれる可能性はどれくらいだと見てる?

高橋 : そうですね、YouTuberさんでスゴい人気な人はいますが、YouTuberからNetflixでヒットするドラマを作るクリエイターが出てくるかっていうと、そこは難しい気がしますね。

西田 : なるほど、YouTubeの中では最適化した表現はできるんだろうけどね。

高橋 : それはそれでスゴイことだと思いますよ。例えばなんですが、雑誌をつくる能力と、小説をつくる能力ってちょっと違う気がしてて、菊池寛が文芸春秋をつくったのもスゴいし、そこで週刊文春をつくったのもスゴいですよね。ただ、それと、何かひとつドキュメンタリー作品をつくるっていうのは違うものだって気がしますね。で、Netflixで次に誰がヒットを出すんだろうって考えた時に、元日テレの福井雄太さんかなとか思うんですよ。YouTuberから誰かそこにパッと思い描ける人はいない気がしますね。

読売テレビの『街かどトレジャー』やりたいです(笑)

西田 : 高橋くん、読売テレビで番組つくりませんかって言われたら、どんな番組をつくります? 大阪で。

高橋 : えーっ! 読売テレビって芸人さんが多いですよね!?

西田 : まぁ、多いですかね。逆に使わないという方法もアリで。

高橋 : そうですね、トリッキーな番組じゃないですけど、関東にいると関西圏の旅番組をつくってみたいと思いますね。僕らの視点でいうと、千葉の房総とか鎌倉とか数字を取るわけですよ。けど、関西には関西のロジックがあるわけですよね。神戸とか。

西田 : あると思います。京都は取ると言われてます。

高橋 : そういうロジックがわからないから興味ありますね。大阪で旅番組。瀬戸内海もきっと範疇だろうし。

西田 : 読売テレビで『お宝発見!街かどトレジャー』という企画があって、ますだおかだの増田くんが街中をぶらぶらするコーナーはやってるのよ。

高橋 : それやりたいですね(笑)。ますだおかださん大好きですから。

西田 : それは街ブラやね。

高橋 : 僕はテレビマンだから比較的全国に行ってるつもりなんですけど、それにしてもやっぱり環状線って魔界ですよ。わかりませんから。

西田 : もう、何も知らない(東京の)ディレクターに(関西人が)教える番組とかになるのかな。普通はディレクターが指示するやん。じゃなくて、教えてもらって「美味い!」とか巡るやつ。そういうのはぜひコラボしていきたいですよ。

高橋 : 天王寺こんなに美味いのか! みたいなのやりたいですね。

今のテレビへ提言するなら…!

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西田 : テレビってこれからどうなっていくんやとか言われてますが、局を飛び出して客観的にテレビと触れ合えている高橋くんだからこそ、今のテレビに対して提言をお願いできますか?

高橋 : テレビは、若者がやめすぎかもしれない。けっこうキー局をやめてる人が多い気がしていて、けどそれは当然で、外に市場ができちゃったじゃないですか。NetflixやYouTube やABEMAなど、コンテンツが出せるところが増えちゃったわけで。テレビはすごい魅力があるのに、そういうところができたら流れる人がいるのは当然で、テレビはそこに対策が打ててない気がしますね。

テレビの中での表現はまだまだ面白いんだけど、他にもいろんなことをやりたいって若手がいる以上、そこに対策が取れてなくて、もったいないと思います。

ですから、プラットフォームが増えてることを前提にテレビが事業を多角化していくか、アライアンスを組むのか、なにかしら手を打っていかないと人は流出しちゃいますよね。

西田 : 港じゃないけど、「行っておいで~! また戻ってきたらいいよ~!」みたいな制度があってもいいかもね。

高橋 : いいなと思ったのは、日テレがそういう制度をやってますよね。多分、最近やめられた筆頭ディレクターたちはそういう制度を使ってるのかな。そういうのが増えていくといいですよね。必ずNetflixで経験したことがあれば、それは財産になりますよ。

西田 : テレビは今後も変わっていくだろうけど、それによってテレビがもっと面白くなったり、コンテンツが変革をされてイノベーティブなものになったりするんなら、それは最高だよね。

高橋 : 最高ですよ! はい。


【高橋弘樹(たかはし ひろき)プロフィール】
映像ディレクター。2005年テレビ東京入社。『家、ついて行ってイイですか?』『吉木りさに怒られたい』『AKB48、最近聞いた?~一緒になんかやってみませんか? ~』などを企画・演出。2021年よりYouTubeチャンネル「日経テレ東大学」の企画・制作統括を務める。2023年春でテレビ東京を退社。その後、自身が代表を務める株式会社tonariでビジネス動画メディア「ReHacQ(リハック)」を開設。著書に『1秒でつかむ』(ダイヤモンド社)、『TVディレクターの演出術』(筑摩書房)など。

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