テレビ局をやめた人にインタビュー【今のテレビへ提言ありますか?】元テレ東・高橋弘樹さん(前編)

2023.11.20

テレビ局をやめた人にインタビュー【今のテレビへ提言ありますか?】元テレ東・高橋弘樹さん(前編)
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メディアの多様化が進む中、テレビのあり方が大きく変わりつつある。大ヒットドラマが誕生すると、毎回の視聴率やTVerでの驚異的な再生回数が話題となり、一方で「今年の紅白はどうなる!?」や「もっと忖度のない報道を!」といった批判的な声も受けるのが、今のテレビだ。

そこで今回は、映像ディレクターの高橋弘樹さんに今のテレビがどう見えているのか、またテレビへの提言などを伺った。高橋さんは、ビジネス動画メディア「ReHacQ(リハック)」を開設し、そのYouTubeチャンネルは53万人登録を超えるプラットフォームを作り上げているが、元はテレビ東京の社員。『家、ついて行ってイイですか?』を企画・演出した人といえばわかるだろう。

インタビュアーは、『ダウンタウンDX』の演出を20年以上演出してきた西田二郎。テレビ局員が、テレビ局をやめた人だから見えるものがあるはずと、あれこれ聞く「西田二郎のメディアの旅」

【構成/鈴木しげき】

テレ東は想像を絶するいい会社。ただ挑戦したくなっちゃって…

西田 : まずは自己紹介を!

高橋 : テレビ東京に2005年に入社して20年ぐらいバラエティーとドキュメンタリーを作ってました。代表的なものは『家、ついていっていいですか?』『吉木りさに怒られたい』、あとアイドルものも手がけましてAKB48の番組とか。その後はウェブに行って『日経テレ東大学』を作りました。

西田 : 『日経テレ東大学』はテレビをやっていた高橋くんがYouTube側へ行ったわけで、転機といえる仕事だったのでは?

高橋 : おっしゃる通りで、あれをやらなければ会社をやめなかったと思いますね(笑)。ずっとテレビ局でテレビを作ってたんですけど、初めて局でYouTubeの企画募集があったんです。しかも、日本経済新聞社とできるというので、「これは!」と思って立ち上げたのが、政治や経済を扱うあの番組なんです。成田悠輔さんやひろゆきさんと一緒にやってたんですけど、これがうまく行ったんですよ。

西田 : ほう!

高橋 : けど、事業的に閉じるかって時が来て、どうするか決断しなきゃいけなくて。今までテレビって、番組が終わったら終わるしかないじゃないですか。なぜなら、テレビはテレビ局じゃないと作れないから。

西田 : そうね、コスト含めて。ロケ番組やクイズ番組やってて終わった時に「じゃあ、僕やります!」って言ってもできませんからね。1人では。

高橋 : 局員みたいな立場でちゃんと番組を作れるのは、テレビ局にいるからなんですよね。だけど、YouTubeだとやめてもできるなぁと(笑)。テレビ番組はテレビ局でしか作れなかったけど、YouTubeなら作れるなと思ってやめちゃったんですよ。

西田 : それって考え方次第では、いいきっかけだったとも言えるよね。

高橋 : 今考えると、いいきっかけでしたね。
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西田 : だって、高橋くんって話題の番組をいっぱいやってて、テレビをやめる理由はないですものね。

高橋 : なかったですね。だって、テレ東って本当に想像を絶するいい会社なんですよ。みんな仲いいし、企画も自由にやらせてくれる空気があるし、給料も悪くない。本当に居心地がよくて、やめる理由はなかったんですけど、一度ウェブやったらチャレンジしてみたくなっちゃって。

ウェブ作るのって、ちょっとメディアを作るみたいな楽しみがあるんですよ。今までコンテンツしか作ってこなかったですけど、初めて番組を置くメディアみたいなものを作れることに気づいて、それがある程度マスに届くような環境になってきたところで、これはやめるのも楽しそうかなと。

立ち上げた動画メディアは真剣勝負がコンセプト!

西田 : 今は自分で会社を立ち上げてますね。

高橋 : ちょっと欲張りなんすけど、メディアの立ち上げもやりたい、引き続きコンテンツもつくりたいと、両方ですね。

西田 : 今、やってるビジネス動画メディア「ReHacQ(リハック)」。リハックってどういう意味?

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高橋 : リハックは、攻略しながらニッチもサッチもいかなくなってるものをもう一度再構築しようという意味ですね。ハックが、壊すとか攻略するとか。おかしいと思ったら、何回も何回もいい方向に立て直そうみたいな。

西田 : あれね、よく切り抜かれて飛んでくるんですよ。縦動画で切り抜かれてガンガン見てる人いるんちゃいますか!?

高橋 : ひろゆきさん、竹中平蔵さん、立憲民主党の泉さんらが出てるやつとかですかね。

西田 : あの番組、意図するところは何?

高橋 : 真剣勝負みたいものは掲げてますね。やっぱり人間って90分間を1対1で話すことってなかなかなくて。政治家さんに90分もらうのは難しいですけど、それだけ話すと人間性が出るし、政治家さんがめっちゃ汗かいてるんですよ。逃げ場もないですし、ゲスト1人なので。そういう意味でいうと真剣勝負ですし、それまで伝わってこなかった魅力も伝わるんですよね。
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▲ざっくばらんに語る高橋弘樹さん(左)と読売テレビ・西田二郎氏(右)

今のテレビがどう見えているのか?

西田 : 現在の高橋くんはテレビ東京に入ったから、育った高橋くんって感じがするよね?

高橋 : それはもう間違いなく、骨の髄までテレビ東京育ちですね。

西田 : テレ東育ちから見て、他のテレビ局はどんなふうに見えてるんですか?

高橋 : フジテレビはタレントさんとちゃんと付き合っての番組作りが上手いなと。テレビ朝日はクライアントと番組を作るのが上手いですよね。日本テレビは、根っこにあるのはドキュメンタリーだって気がしますね。昔、『スーパーテレビ情報最前線』とかありましたけど、今もヒロミさんが家を作るとか、何かしらドキュメント要素があるものにタレントさんを掛け算して作るのが上手いですよね。

西田 : テレ東さんにはどんなイズムがあるの?

高橋 : ザッピングされないことですかね。僕、その後ウェブに行きやすかったと思うのは、テレ東って見てもらわないと見てもらえなくて、ぼーっとテレ東がついてる家ってあまりないじゃないですか。4・5・6・8(チャンネル)ってぼーっと見てる人もいると思うんですよ。

西田 : そっか! テレ東は選んで見にいくという局なんだ。

高橋 : たどり着かないですよね。(チャンネル)回してた時に6くらいで止まるという(笑)。日テレの人の話を聞いてたら「どう視聴率を取るか?」みたい議論をしてますけど、テレ東はまず「どう気づいてもらえるか?」「どう存在を知ってもらえるか?」から始めてますね。

西田 : それはまさに今でいうバズるってことですよね。テレビの中でもバズらせる理由をちゃんと考えなきゃアカンっていうのが高橋くんの体に染みついてるんでしょうね。

高橋 : ウェブに近いものを感じますよね。アプリをわざわざ開かないと見れないとか。

『そこまで言って委員会』は踏み込んでてスゴイ!

西田 : 高橋くん、以前に読売テレビの『そこまで言って委員会』(毎週日曜ひる1時30分~)にも出てくれましたよね?

高橋 : 出ました出ました(笑)。アレ、東京で見つかってないから成立してるのかなと思いましたよ。

西田 : 見つかってるんじゃないですか(注…『そこまで言って委員会』とは、社会問題・政治・経済から芸能・スポーツまでテーマを取り上げて討論するバラエティー)。確かにおっしゃる通り、かなり表現はきわどいというか。

高橋 : 踏み込んでますよね。スゴイと思いますよ!

西田 : ある種の正義があるからね。参加してみて、そういうの感じた?

高橋 : 俺はやっぱり言論人ではなくてクリエイターサイドにいるつもりなので、リスクを考えると、めちゃくちゃ喋らない方がいいところもあるんですけど、まわりの出演者たちはなんのリスクも気にしないでしゃべるから、「この人たち、おかしいな」と(笑)。

西田 : (笑)

高橋 : そういう意味でいうと言論の人ってスゴイですよね。めっちゃリスク取ってますからね。批判も恐れないし。俺は商売しなきゃいけないから「ちょっと待てよ」となりますが、あそこにいる人たちはスゴイと思いましたね。それをまとめてる黒木千晶アナはホントに猛獣使いですよ。

あと、面白いなと思ったんですけど、俺も作り手だから人の目というものを見ちゃうんですよ。で、やっぱりね、『そこまで言って委員会』のスタッフの目はイカれてましたね(笑)。

西田 : いい意味でね。

高橋 : イカれてんのよ。いい意味で(笑)。あんな目しないんだよ、フツーの人はって感じ。

西田 : それ、物づくりにおいて大切な目なんでしょうね。

高橋 : じつは俺も、よく人から目がそうだって言われるんですよ。

西田 : 共通点があったんだ。

……ということで、以降は「そういう作り手の目がいかに大事か?」という話題が展開されるのだが、盛り上がってしまい今回だけでは収まらないので、それは後編にて。


【高橋弘樹(たかはし ひろき)プロフィール】
映像ディレクター。2005年テレビ東京入社。『家、ついて行ってイイですか?』『吉木りさに怒られたい』『AKB48、最近聞いた?~一緒になんかやってみませんか? ~』などを企画・演出。2021年よりYouTubeチャンネル「日経テレ東大学」の企画・制作統括を務める。2023年春でテレビ東京を退社。その後、自身が代表を務める株式会社tonariでビジネス動画メディア「ReHacQ(リハック)」を開設。著書に『1秒でつかむ』(ダイヤモンド社)、『TVディレクターの演出術』(筑摩書房)など。
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