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道浦俊彦のことばのことばかり【11】

ドラマ『同期のサクラ』の決め台詞「私には夢があります」が深い件

道浦俊彦 2019.11.10

ドラマ『同期のサクラ』の決め台詞「私には夢があります」が深い件
画像提供:日本テレビ
10月から始まった日本テレビ水曜夜10時からのドラマ『同期のサクラ』は、ご覧になっていますか?いやあ、面白いですよ。

主演の高畑充希さん演じる「北野桜」は、大手ゼネコンに入社。土木部に配属されて故郷・新潟の島に橋を架けることを夢見ています。というのも、橋が無かったために、桜の両親は命を落としてしまったからです。
同期入社の4人の仲間は、あまりにも猪突猛進で真面目一方の桜のペースに、最初はついていけないのですが、徐々にその筋の通った信念に共感していくのです。

ちなみに同期の4人は、「月村百合」(橋本愛)、「木島葵」(新田真剣佑)、「清水菊夫」(竜星涼)、「土井蓮太郎」(岡山天音)という名前。名字には「月・木・水・土」という古代中国の自然哲学思想「五行説」(万物は「火・水・木・金・土」の5種類の元素からなるという説)の要素が含まれ、名前には「百合・葵・菊・蓮」という「植物の名前」が入っています。もちろん、主人公の「桜」に合わせているのでしょう。そして「木島葵」の「木島」には、桜の故郷である「島」という字が含まれています。「島=日本」なんじゃないのかなあ。日本は「敷島の国」って言うじゃないですか。
他の出演者も、桜の祖父は「北野柊作」(津嘉山正種)、会社の同じ人事部の先輩・上司は「火野すみれ」(相武紗季)、「黒川森雄」(椎名桔平)で、名字の「火」が「五行説」の世界、「黒」は、やはり中国の「四神」(=青龍・朱雀【赤】・白虎・玄武【黒】)の「玄武」ですね。「玄武」は方角で言うと「北」なので「北野桜」にも通じますね。名前は「柊(ヒイラギ)」「すみれ」「森」と「植物関係」です。おもしろいですね。

さて、番組では毎回、後半になると…まあ昔の『水戸黄門』で言えば「印籠」を出して「控えおろう~!」と言うあたりの時間になると、桜は、立ち向かう相手に対して、
「私には夢があります。故郷の島に橋を架けることです」
「私には夢があります。一生信じ合える仲間を作ることです」
「私には夢があります。その仲間とたくさんの人を幸せにする建物を作ることです」
と畳みかけるのです。
く~っ、かっこいい!

でも、この、
「私には夢があります」
ってフレーズ、どこかで聞いたことがあるなあ…と思っていたら、思い出しました。
黒人差別と闘った公民権運動のリーダー「マーチン・ルーサー・キング牧師」の演説です。
1963年8月28日、黒人も白人も全ての社会階層の25万人近い人たちが、公民権とあらゆる市民を対象とした平等な保護を求めデモ行進(ワシントン大行進)行いました。参加した人たちはリンカーン記念堂にたどり着き、そこでキング牧師はリンカーン大統領の巨大な像の前で約18分の演説を行いました。この場所は、のちにトム・ハンクス主演の映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』(ロバ―ト・ゼメキス監督:1995年日本公開)で、ガンプが最愛のジェニーと再会し、記念堂前のリフレクティングプール(全長618m、幅51m)にバシャバシャと入って抱き合う有名なシーンの現場でもあります。

この年=1963年は、リンカーンが奴隷解放宣言に署名してから「100年」の節目の年でした。しかし100年経っても黒人差別の実態は変わっていなかったのです。
キング牧師は、演説の後半にこう畳みかけました。
「私には夢がある。それは、いつの日かこの国が立ち上がり『全ての人間は平等に作られているということは、自明の真実であると考える』というこの国の信条を、真の意味で実現させるという夢である。」
「私には夢がある。それは、いつの日かジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の息子たちと、かつての奴隷所有者の息子たちが兄弟として同じテーブルにつくという夢である。」
「私には夢がある。それは、いつの日か不正と抑圧の炎熱で焼けつかんばかりのミシシッピ州でさえ、自由と正義のオアシスに変身するという夢である。」
「I have a dream.(私には夢がある)」
というフレーズは「8回」繰り返されました。
脚本の遊川和彦さんは、当然、このキング牧師の演説を基に、桜のセリフを考えたのではないでしょうか。

遊川さんと言えば、2005年に同じく日本テレビで放送され、第24回向田邦子賞を受賞したドラマ『女王の教室』の中で、天海祐希さん演じる主人公の教師・阿久津真矢(あくつまや、略すと「悪魔」)にこんなセリフを言わせていました。少し長いが引用しましょう。

「愚か者や怠け者は、差別と不公平に苦しみ、賢い者や努力した者は、色々な特権を得て豊かな人生を送ることができる。それが『社会』というものです。あなたたちは、この世で人のうらやむ幸せな暮らしをできる人間が、何人いるが知ってる?たったの6%よ。この国では100人のうち6人しか、幸せになれないの。残りの94%は、毎日毎日、不満を言いながら暮らすしかないんです。
いい加減、目覚めなさい!!
『日本』という国は、そういう特権階級の人たちが楽しく幸せに暮らせるように、あなたたち凡人が、安い給料で働き、高い税金を払うことで、成り立っているんです。そういう特権階級の人たちが、あなたたちに何を望んでいるか知っている?今のまま、ずーっと愚かでいてくれれば良いの。世の中の仕組みや、不公平なんかに気付かず、テレビや漫画でも、ボーッと見て何も考えず、会社に入ったら上司の言うことをおとなしく聞いて、戦争が始まったら、真っ先に危険な所に行って、戦ってくれば良いの。」

当時は「アクマ」が言う過激なセリフが「ちょっと、浮いているなあ」と感じていたのですが、あれから14年たった「2019年の現在」、このセリフは、ちっとも浮いていないように感じます。まるで「予言の言葉」であったかのようです。当時の「6年3組」の子どもたち(小学生にあのセリフを言っていたのか!)は、今「25~26歳」になっているでしょう。どう感じているのかな?
遊川さんのドラマの女性の主人公たちは、『女王の教室』も『家政婦のミタ』もこの『同期のサクラ』も、みんな普段は能面のように無表情で、笑わないんです。まるで、ラグビー・日本代表の稲垣啓太選手のようです。何か、笑えなくなってしまった原因が、彼女たちにはあるんですよね。

遊川さんがこの『同期のサクラ』で「予言」しているのは、一体、何なのか?
「私には夢があります」と言う桜が立ち向かう「本当の敵」は誰なのか?
ドラマから目が離せませんね!

あれ?
何だか「番宣」みたいになったな。全然、そんなつもりは無かったのに。

(文:道浦 俊彦)

【執筆者プロフィール】
道浦 俊彦(みちうら・としひこ)
1961年三重県生まれ。1984年読売テレビにアナウンサーとして入社。現在は報道局専門部長で『情報ライブ ミヤネ屋』でテロップや原稿のチェックを担当するかたわら、98年から日本新聞協会新聞用語懇談会委員。著書に『「ことばの雑学」放送局』(PHP文庫)、『スープのさめない距離~辞書に載らない言い回し56』(小学館)、『最新!平成ことば事情』(ぎょうせい)など。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)では2006年版から「日本語事情」の項目を執筆している。読売テレビのホームページ上でブログ「新・ことば事情」「道浦俊彦の読書日記」を連載中。趣味は男声合唱、読書、テニス、サッカー、飲酒(ワイン他)など。スペイン好き。
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