12年間、その日生まれたばかりの赤ちゃんを取材・紹介してきたニュース番組のコーナー『めばえ』。その舞台裏に迫る!【前編】

2019.12.06

12年間、その日生まれたばかりの赤ちゃんを取材・紹介してきたニュース番組のコーナー『めばえ』。その舞台裏に迫る!【前編】
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関西地区で放送中の夕方のニュース番組『かんさい情報ネットten.』(以下、『ten.』)のエンディングでお届けしている『めばえ』というコーナーがあります。
その日に生まれた赤ちゃんとそのご家族の喜びを祝福する、およそ1分20秒のドキュメンタリーです。

『めばえ』がレギュラー企画として誕生したのは『ten.』の前身番組である『ニューススクランブル』時代の2007年のこと。発案したのは、今も『めばえ』のまとめ役を務めている林浩三ディレクター。
悲しい事件や痛ましい事故、自然災害……殺伐とした世の中だからこそ、番組の最後は誰もがホッと心温まり、笑顔になれる希望を伝えたいという想いから誕生しました。それから12年。
今やすっかり名物コーナーになり、これまで紹介した赤ちゃんは3,083人!(2019年10月25日現在)。
コーナーを支える12人以上のディレクターは、月曜から金曜まで、持ち回りで連日近畿2府4県の産婦人科や助産院などを駆け回り、赤ちゃんとその家族を取材しています。
そこで今回は、『めばえ』を担当するディレクターの座談会をお届け。
撮影での裏話や思わず涙したエピソードなどを語っていただきました。
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【メンバー】(2019年10月25日現在)
・林浩三/『めばえ』を企画・立案。現在は10人以上いるディレクターを統括する立場。これまで104人の赤ちゃんを取材。
・坂本翔子/ディレクター歴4年7カ月。涙もろく、家族の喜ぶ姿につい目頭が熱くなることも。
・澤田真優/ディレクター歴1年5カ月。就活の頃から『めばえ』に憧れ、念願のディレクターに。
・笹谷健悟/ディレクター歴4カ月。学生の頃から『めばえ』の大ファン。カラオケで『めばえ』挿入歌の『誕生日』を熱唱し、ギター、ピアノでも演奏することができる。
――やはり「その日、生まれたばかりの赤ちゃんとその家族の元へ行く」となると、心に染みる感動の瞬間に立ち会うことも多そうです。
笹谷健悟ディレクター
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笹谷健悟ディレクター

坂本:とくに印象的だったのは、51歳のパパと43歳のママの、初めての赤ちゃんを取材させていただいた時。
長くご苦労があったようで、ママがインタビューで「やっと生まれてきてくれて…」と声を詰まらせながら話してくださった時は、思わずもらい泣きしそうになりました。

澤田:赤ちゃんと対面したお兄ちゃん、お姉ちゃんの反応も胸が熱くなりますね。取材時に、幼稚園で描いたという「お母さんのおなかにいる赤ちゃん」の絵を自慢気に見せてくれたお子さんがいました。赤ちゃんと対面したとたん、大喜びしていて、「本当に楽しみにしていたんだな」とこちらまで笑顔になりましたね。

笹谷:僕は、自分と同じ干支・誕生日のお子さんを『めばえ』で取材できたことです。その日の朝、取材に行く前に母から僕が生まれてきた時の画像がメールで送られてきて、「24年前の今日、僕も同じように生まれてきたんや」と母への感謝の気持ちがあふれました。そのことを取材相手のお母さんに伝えるとすごく喜んでくださって、「笹谷さんが担当でよかった」とお礼を言われたのが今も忘れられません。

坂本:別のドキュメント番組(ten.の「令和幕開けドキュメント」2019年5月1日放送のVTRで)なんですが、今年、特別に分娩室の中を取材させてもらったことがあるんです。私は出産経験がないんですが、取材させていただいた女性の出産は、絶叫が響き渡るほど鬼気迫るもので、こちらも涙が出そうになるほどでした。だからこそ『めばえ』で出会うママや赤ちゃんって本当に尊いし、素晴らしいんだなと改めて感じるようになりました。でも、あんなに大変な出産を経て、数時間後の『めばえ』の取材時にはバッチリ化粧して備えてくださっているママもいて、すごいなと思います(笑)。

林:『めばえ』を立ち上げた頃はすっぴんのママが多かったんですが、どんどん知名度が上がっていくにつれてきちんとメイクをするママが増えました。やはり女心でしょう(笑)。
――念願の『めばえ』出演ですもんね(笑)。では、ちょっと笑ってしまうようなハプニングはありましたか?
澤田真優ディレクター
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澤田真優ディレクター

坂本:やはり、『めばえ』に出ることが決まり、はりきってくださるママは多いです。ハロウィン当日が取材だった時、ママが電話で「仮装して待ってます!」とおっしゃって、いざ行ってみると家族で仮装してくれていました。パパはすごく嫌そうだったんですが(笑)、ママに「早くかぶって!」と急かされて渋々と…。夫婦の上下関係が垣間見られておもしろかったですね。

澤田:私が取材したご家族は、G20の時期で、アメリカ・トランプ大統領が日本に到着したニュースが報じられたタイミングで陣痛が始まったという方がいました。車で病院に向かう途中、まさに交通規制が始まっていて、焦ったパパが警察官に「もうすぐ…もうすぐ生まれそうなんです!!」と、「まるでドラマのようなセリフを口走ってしまった…」と明かしてくれました(笑)。

笹谷:普段、感染症予防のためにスタッフはマスクを着用して取材を進めるんですが、小さなお兄ちゃん、お姉ちゃんの場合、警戒されてしまうことがあるんです。試しにマスクを外した途端、サービス精神いっぱいにカメラ目線をくれたり、カメラマンに抱きついてきたりと豹変して(笑)。顔がマスクで隠れていると、小さいお子さんは怖かったのかもしれませんね。
――2人目、3人目の赤ちゃんが生まれる時は、同時に小さなお兄ちゃん、お姉ちゃんが生まれる瞬間でもありますよね。そのお兄ちゃん、お姉ちゃんの反応もおもしろいのでは?
坂本翔子ディレクター
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坂本翔子ディレクター

坂本:「赤ちゃん♡」と喜ぶ子もいれば、「アイツは何や」という風に赤ちゃんを遠巻きに見ている子、現実逃避のように赤ちゃんから離れる子もいて…。

澤田:とくにお兄ちゃん、お姉ちゃんがまだ2~3歳だと、「赤ちゃんにママを取られる」と思う子もいますよね。でも、そんな子どもたちの心の揺れをあえて活かすのが『めばえ』。ヤキモチを焼いている姿もいいですし、さっきまで赤ちゃんを完全に無視していたのにチラッと盗み見している姿を「やっぱりちょっと気になってるやん…」と察してカメラマンに撮ってもらいます。

林:嘘のない、自然な家族のカタチを切り取るのが大前提ですからね。スタッフにも「仕込まないように」と教えています。パパやママの中には、「せっかく取材に来てくれてるんやから!」とお兄ちゃんやお姉ちゃんに無理やり赤ちゃんを触らせてようとする方もいるんですが、「自由にしていてくださいね」と声をかけています。
――デリケートな現場ですから、取材にもご苦労は多いでしょうね。
林浩三 統括ディレクター
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林浩三 統括ディレクター

林:スタッフに最初に教えるのはそこですね。研修でまず「このコーナーで、一番大切なことはなにか」と聞くんです。答えは赤ちゃんとママ。生命への配慮です。
撮影中に赤ちゃんやママを危ない目にあわせたり、取材がきっかけで健康を害して命の危機にさらすようなことがあったりしたら、コーナー消滅はもちろん、何よりご家族に申し訳がたちません。そういったことが起こらないよう取材マニュアルを作り、大切なことを後輩たちに教えるようにしています。
取材する側はどうしても自分本位になりがちで、「撮りたいものを撮りたい」「こんな画がほしい」という気持ちが先走ってしまうものですが、それは二の次でいい。そのことはスタッフに何度も伝えていますね。
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――では、『めばえ』の取材をしていてよかったなと思うことは?
坂本:私たちは普段、報道番組に携わっているので、子どもの虐待のニュースを取り上げて心が痛むこともあります。だからこそ、『めばえ』の取材で命の大切さを余計に感じさせてもらっています。
その後も年賀状やお手紙に同封された写真で、取材した赤ちゃんの成長を見ると「よかったなぁ」としみじみします。

笹谷:放送終了後、取材相手のご家族にお礼の電話を入れるんですが、VTRに感動されて電話口で泣きながら感謝の言葉をいただいた時は、本当にうれしいですね。

澤田:以前から赤ちゃんは大好きだったんですが、取材を通していろんな赤ちゃんに会うとそれぞれ個性があって、さらに愛おしく感じるようになりました。泣き方も、あくびの仕方も一人ひとり違いがあり、その子の特徴をしっかり出してあげようと考えるのが楽しいですね。

林:『めばえ』を立ち上げた時、「長く続けたいな」とは思っていました。10年、20年と長く続けて、赤ちゃんが成長するプロセスまで追いかけられたらいいなと思ってスタートしたものの、実際にはここまで続くとは思っていませんでした。はじめは僕ひとりでカメラ機材を持って取材に行っていましたが、今では学生の頃から『めばえ』を観ていて、『めばえ』がやりたくてテレビ業界に入ったという若いスタッフもいます。こうして繋がっていくのも、長く続けてこられたおかげ。これからもさらに長く続いてくれたらいいなと思っています。
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新しい生命の誕生をお祝いする『めばえ』。舞台裏には感動や笑顔がこぼれるエピソードだけでなく、スタッフの細やかな心遣いやご家族との心温まるコミュニケーションがありました。後編では、実際に取材現場に密着。『めばえ』が完成するまでのプロセスを追います。

後編はこちら
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