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上野パンダに赤ちゃん誕生!コロナ禍での出産の大変さをある動画から読みとる

2021.07.02

鈴木しげき
上野パンダに赤ちゃん誕生!コロナ禍での出産の大変さをある動画から読みとる
提供:アドベンチャーワールド
東京・上野動物園のジャイアントパンダ「シンシン」が6月、双子の赤ちゃんを出産した。パンダの繁殖は大変難しいことで知られている。しかも今回はコロナ禍での出産だ。

それを受け、YouTubeのある動画が再生数17万回(2021年6月現在)を突破した。それが『白浜パンダ出産の舞台ウラ…コロナ禍で大きな試練』という動画だ。

同動画は2020年11月、和歌山県白浜町のテーマパーク「アドベンチャーワールド」でのパンダの出産を記録したドキュメンタリーで、新型コロナウイルスの影響を受け、例年出産をサポートしてくれる中国人スタッフが来られない中での試練の様子が描かれている。また、パンダが陣痛に苦しむ姿など生態の記録としても、とても貴重なものだ。

この動画を観ると、4年ぶりに赤ちゃんが誕生した上野動物園の苦労が想像できるだろう。上野動物園は会見で、今回「アドベンチャーワールドさまから色々とアドバイスを頂きました」と明かしている。

同動画の取材をした松本侑子ディレクターに現場はどんな状況だったのかを聞いてみた。

【企画 : 藤生朋子 / 取材・文 : 鈴木しげき】

パンダファミリー最新特集2021!白浜パンダ出産の舞台ウラ…コロナ禍で大きな試練

日本人スタッフだけによる出産のプレッシャーとは

――松本ディレクターは、白浜のパンダの取材をずっと続けていらっしゃるそうで。

松本 : 2018年から続けています。YouTubeに読売テレビニュースのチャンネルがあるのですが、そこにあるパンダの動画シリーズは私が担当しました。

『白浜パンダ出産の舞台ウラ…コロナ禍で大きな試練』という回は、コロナで取材制限のある中、動物園のスタッフさんによる撮影の映像をお借りして、制作したものです。可能な限り、園のスタッフの方たちへインタビューなどは行いました。

――コロナ禍で中国人スタッフが来られないというのは、相当なハンデに?

松本 : 今までは必ず中国のスタッフの方たちが来て、中心になってやってくれていたので、その方たちがいないというのは大きな不安だったと思います。

白浜では2018年にメスの彩浜(さいひん)が生まれました。その時は、私も舎の中に入らせてもらいましたが、平均体重の半分以下という“超未熟児”で生まれてきて本当に命の危機でした。そんな中、頼りになったのが中国のスタッフの方たちで、彼らがいたからこそ助かったという場面がありました。

2020年の時は、もしそういう状態で生まれてきたらどう対処したらいいのか、そういった不安がありましたから、日本人スタッフの方たちで事前に入念なシミュレーションを重ねていましたね。
人形を使ったシミュレーション
提供:アドベンチャーワールド

人形を使ったシミュレーション

――上野動物園もコロナで中国人スタッフが来日できなかったようで、代わりにSNSでやりとりをしていたようです。やはり、中国の方たちは出産に慣れてるんですね。

松本 : 飼育している頭数がまったく違うんですね。私、2018、19年と中国の成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地に取材で行ってきたんですが、そこでは100頭以上のパンダが飼われていて、出産を経験する頻度が日本とはケタが違うんだなと感じました。扱い方とか、いざという時の対処パターンとか、よく知っていらっしゃいます。

――動画を見るとわかるのですが、産後、赤ちゃんの健康状態を知るためにすぐにお母さんから取り上げていますよね。お母さんは不安にならないんでしょうか?

松本 : 赤ちゃんがいないことに気づくと、心配でソワソワし始めます。あまりに取り上げている時間が長いと返してほしいと鳴いたり、暴れたりします。

2018年の彩浜の時はまさにそれで、赤ちゃんが弱っていたので、人のチカラで処置しないとどうにもなりませんでした。その間、お母さんからどうしても取り上げなければならないので鳴いたり、暴れたり・・・見ていてつらい時間ですよね。
お母さんパンダから赤ちゃんを取り上げようとしている
提供:アドベンチャーワールド

お母さんパンダから赤ちゃんを取り上げようとしている

動画では13分間で赤ちゃんの最低限の健康チェックをして返してあげています。不安にさせないようにスタッフの方たちも細心の注意を払っていらっしゃいます。



――あそこまで人間が手助けしてあげないと繁殖は難しいんですね。

松本 : よく知られたことですが、野生のパンダの赤ちゃんの生存率はとても低いんです。今回、上野動物園の場合は双子で生まれてきましたね。双子で生まれてくる確率は50%ほどですが、野生でお母さんが育児していく場合は、2頭のうちに1頭だけしか育てないんです。過酷な現実ですよね。

人間が手助けする飼育では2頭を交代でお母さんに抱っこさせて、どちらにも母乳を飲ませて2頭とも育てることが可能になります。

あと、そもそも生まれてきた赤ちゃんがとても小さいので野生では外敵の犠牲になってしまうことも多い。困難がたくさんあります。
生まれたての赤ちゃんとお母さん
提供:アドベンチャーワールド

生まれたての赤ちゃんとお母さん

――びっくりしたのが、生まれてすぐに性別はよくわからないと?

松本 : 上野動物園の双子も性別はまだわからないと報道で伝えていましたよね。小さすぎて生殖器がよく見えないんです。2020年の出産の時は、年末になって中国人スタッフの方が来日したら、やっと正しい性別が判明しました。

アドベンチャーワールドのスタッフさんたちも過去の赤ちゃんの記録写真を見て「これはオスかな?」「いや、メスだろう」などと勉強しているんですが、中国のスタッフさんはそれらの写真を見て、「これはオス」「これはメス」「この子はオス」と即座に答えられるんです。その様子を見て、日本のスタッフさんたちは「すごい!」と感心していました。これはもう経験数の違いだと思います。
中国人スタッフが性別を確認している
提供:アドベンチャーワールド

中国人スタッフが性別を確認している

世界屈指の繁殖実績を誇る白浜町の取り組みとは

――じつは、白浜アドベンチャーワールドは中国以外では世界で最も出産数が多い動物園です。なぜ白浜の繁殖はうまくいっていると思いますか?

松本 : 飼育員さんが言うには、お父さんの永明(えいめい)とお母さんの良浜(らうひん)の相性が抜群によいということです。パンダは相性をとても気にする動物で、よくなければ交尾に至りません。どうやら永明は紳士で、メスの扱い方がわかっているらしく、関係をつくるのが上手なようです。

あと、パンダと飼育員さんの信頼関係がよいのもあげられます。パンダの行動を追った日報のようなものがあって24時間カメラで記録しているんですが、そこから丁寧に分析を行っていらっしゃいます。ホルモン値を測って、「ここぞ」というタイミングで会わせてあげている。

さらに、パンダは妊娠したら食べ物の竹を選り好みするようになります。そういうことも熟知されていて、信頼関係を築くためにさまざまな工夫をされています。

――間近で見て、パンダの魅力とは?
生後2か月の赤ちゃんパンダ
提供:アドベンチャーワールド

生後2か月の赤ちゃんパンダ

松本 : なんか目の離せない動物ですよね。よく言われるのが、仕草や行動に人間っぽいところがあります。なんとも愛くるしい(笑)。

――ちょっとなまなましい話ですが、シリーズの動画を見て、陣痛や交尾の様子にもそんなところが感じられました。

松本 : 2018年に最初の取材をした時、子づくりの様子をとらえたんですが、パンダと飼育員の方たちの様子にただただ驚きました。子づくりのタイミングを見極めるのは飼育員さんの役割で、オスとメスお互いの気持ちが高まる前に2頭を一緒にしてしまうと、ケンカしてその年の交尾自体が失敗になる危険性もあります。すごく責任重大だし、やはりパンダとの関係を築けてこそできることだと思いました。

一方、パンダは本能のまま行動しているに過ぎません。それを周りで「うまくいくように」と飼育員さんが一丸となって、あわただしく動き回っています。その光景といったら、ものすごく対照的で圧倒されました。

――動画にはたくさんのコメントが書き込まれています。ディレクターとして反響は気になりますか?

松本 : とても気になります。純粋に、見た方たちがどう感じられたのか、その反響がわかるのがうれしいですね。

『コロナ禍で大きな試練』の動画については「思ってたより壮絶だった」とか「陣痛の長さにびっくり」とかコメントをいただいて、まさに私が伝えたかったことと重なりました。パンダってこんなに苦しい思いをして新しい命を産んでいるんだってことに感動したので、そんな感想を持ってもらえて、とてもうれしく思っています。

――今後もパンダの取材は続けますか?

松本 : ぜひ続けたいです。また新たな取材をしたらお届けしますので、その時はぜひご覧ください。
【松本侑子 プロフィール】
©ytv

【松本侑子 プロフィール】

読売テレビ報道局『かんさい情報ネットten.』ディレクター 。日々のニュース取材をはじめ、様々な人や場所の裏側に密着するドキュメントコーナー「ノゾキミ」を担当。和歌山のアドベンチャーワールドのパンダシリーズをはじめ、「書道パフォーマンス甲子園」シリーズなど多岐にわたるジャンルで長期取材を行う。
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