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中西正男の「そら、この芸人さん、売れるにきまってる!」【14】

「兄弟のデメリットはありません。」恩人2人が進化させた「土佐兄弟」の結束

中西正男 2020.08.09

「兄弟のデメリットはありません。」恩人2人が進化させた「土佐兄弟」の結束
©ytv
兄・土佐卓也さんと弟・土佐有輝さんのコンビ「土佐兄弟」。有輝さんの“高校生あるある”動画や“小栗旬モノマネ”などで注目を集めてもいますが、弟が光を浴びる状況にも、卓也さんは「『ウチの弟すごいでしょ』という感じで、嫉妬という感覚はないんです」と話します。兄弟ならでは本音、そして、迷いの中から導いてくれた先輩の言葉。今の思いをストレートに語りました。

―お笑いの世界に入ったきっかけは?

卓也:僕は大学を卒業して、大阪でサラリーマンをやってたんです。ただ、社会人3年目の秋に同僚とバーベキューをしていて、思いっきり転倒し前歯を折りまして…。かなり激しく損傷したので、歯の再建手術もやらないといけない。そんなこともあり、そこから2カ月ほど在宅ワークになったんです。

通勤もしないので、必然的に家にいる時間が長くなる。となると、自分の時間も増えて、お笑いのDVDを見る時間が増えたんです。

もともと子どもの頃からお笑いは好きだったんです。ただ、中学から受験して、大学まで私立の学校に行かせてもらい、一般企業に就職した。いわば、普通の道を歩んできたので「今さら芸人にはなれないよな…」という思いもずっとあったんです。

ただ、一方で、歯の痛みや仕事もままならない葛藤を忘れさせてくれるくらい、やっぱりお笑いの力をすごい。それを再認識する時間にもなりました。となると、心の奥底にしまっていた芸人への思いがまた出てくると言いますか…。

そこで期せずして背中を押してくれたのが、転倒して病院に運ばれた時に診てくださった先生の言葉でした。

「これだけ激しく歯が折れてもいるし、もし少しずれて頭にダメージが及んでいたら、命がなかったかもしれません」とおっしゃったんです。僕が幸運だったと励ます意味で言ってくださっていたのですが、それを聞いた時に「迷ってる場合じゃない。いつ死ぬかも分からないんだから、やりたいことをやった方がいい」という思いになったんです。

有輝:ただ、歯が折れて物が食べられないので、本当にガリガリで…。東京に戻ってきて「お笑いをやる」と行った時には「ウソだろ」と思いました(笑)。「誰が笑ってくれるの?」と。

卓也:歯がないし、痛いし、2カ月間、豆腐とゼリーしか食べてなかったんです…。

ただ、そんな中でも、思いだけはどんどん前のめりになって、東京に戻ってお笑いをやることだけは心に決めたんです。

そして、東京に戻る新幹線をネットで調べている時に、たまたま広告が出てきたのがワタナベエンターテインメントの養成所でした。これも縁だと思って入ることを決め、相方がいないのは不安だと思って弟を誘ったんです。

―弟さんは、誘われて、すぐに「やろう!」となりました?

有輝:僕のイメージとしては「ふっくらしてる面白いお兄ちゃん」だったのが「ガリガリの歯ナシ男」になっていて、しかも「お笑いをやろう」と言われたので、いったい「これはどうなっているんだ…」とは思いました(笑)。

ただ、実は、これがすぐに「やろう」となったんです。というのは、僕は行動力がないんです。自分でやりたいと思ってても「どうせ、失敗するだろうな…」とあまり動かないと言いますか。

でも、周りの人から「やったらいいじゃん!」と言われると、それはそれで動くというか。お笑いへの思いはあるけど、自分からは動かない。そんな中でお兄ちゃんから誘われたので「それならば…」とスッといった感じです。

卓也:本当にね、性格が真逆なんです。僕は自分で考えるとか、物を作るという作業は苦手なんですけど(笑)、人を巻き込んで行動するのは得意で。

ただ、これは組んでから痛感したんですけど、兄弟で性格が似ているところが一つあったんです。それが“これだと決めたら、とことん没頭する”ということでして。そこが似ているということは、コンビとして大きなプラスでした。
©ytv

右から兄・土佐卓也と弟・土佐有輝
―兄弟ということがプラスになる、もしくは、マイナスになることなどありますか?

有輝:相方への嫉妬心がない。それは他のコンビにはあまりないことかもしれませんね。普通のコンビなら、片方が爆笑を取ってたら「なんで、こいつばっかり」という気持ちが生まれるのかもしれませんけど、それはあまり感じたことはないですね。

卓也:まさに、これは今僕が置かれている状況なんでしょうけど、今、弟はSNSなどで話題になっている。それを目の当たりにしたら「こいつだけバズってる」みたいなことが心の澱になったりもするのかもしれませんけど、そこがないんです。妙な表現かもしれませんけど「オレの弟すごくねぇ!?」という感覚になるというか。

有輝:もし兄弟のデメリットがあるとすれば、ゆっくりしたいお正月にも相方が横に居るということですかね(笑)。

卓也:いやいや、それは兄という感覚で自分の実家に戻ってるだけで、ツッコミとしてそこにいるわけじゃないから(笑)。

―これまで先輩や周囲の人からもらった言葉で、指針になっているものなどありますか?

卓也:僕は「ロッチ」の中岡(創一)さんからいただいた言葉ですね。

現状を踏まえ、今後の動きとして、中岡さんに「今、弟がバズってるんですけど、僕はどういう感じでいくのがいいですかね」と相談したことがあったんです。

じゃ、そこで中岡さんが「お前は、大きな声でハキハキと普通のことをしゃべってたらエエねん」と言ってくださいまして。

というのは「番組などでご一緒するような方はみんな一流の人ばっかりなんやから、そうやってお前が弟の横に普通にいるだけで『ところで、お前はなんやねん?』といかようにでもうまいことイジってくださる。周りの方に身を任せたらエエねん」と。

それまでの僕は、言ってもコンビですし、弟が何かやった時には、それに対してチャチャを入れたり、ツッコミを入れたりして、僕の方にも目が行くようにしようとしてたんです。でも、弟が何かやってる時は弟のターン。そこでは出ないで、ジッとしている。そして、次に「で、横に居るキミは何なの」となった時に、初めて大きな声で思ったことを言った方がインパクトも出る。

でも、番組に出て、ずっと黙ってるというのもなかなか度胸が要ることでもあるので、なかなかできなかったんです。でも、中岡さんの言葉でそれができるようにもなった。自分ではなかなか踏み出せない一歩だったので、本当にありがたいことでした。

有輝:あと、これはこれまでどこでも言ってないことなんですけど、僕らが2年目くらいの時、番組の前説に行かせてもらったんです。スタジオの横の喫茶室みたいなところでご飯を食べていたら、事務所の先輩「ネプチューン」の名倉(潤)さんがいらっしゃいまして。

何回かご挨拶をさせてもらったことはあったんですけど、僕らのことを覚えてくださっているか、何とも微妙な感じと言いますか。

ただ、名倉さんが僕らの隣の席に座られたんです。となると、より一層、そのまま無言でいるのも違うと思って、挨拶をさせてもらった上で、アホなフリをして「名倉さん、どうやったら売れるんですかね」と聞いてみたんです。軽いコミュニケーションとしての会話みたいな感じで。

そんなトーンだったので「いきなりなんちゅうこと聞くねん!」くらいのノリで返されるのかなと思ったら、すごく真剣に考えてくださいまして。

「そうやなぁ…。どうやったら売れるかというのは難しいけど、オレはツッコミやから、ツッコミのことやったら、少しは言うたることができるかもしれんな」と。

お兄ちゃんがツッコミなので「どうしたらいいんですかね」と尋ねたら「オレが思うにはやけど、ボケを愛してあげなアカンで。オレは(原田)泰造と(堀内)健のボケを愛している。だから、すぐにつっこめるし、どれだけ何を言っても、そこに愛があるから笑ってもらいやすくなると思うねん」と。

すごく不遜な物言いになりますけど、軽いトーンで伺ったことに対して、しっかり考えて答えてくださった。それが本当に有難かったですし、そこから、実際、兄もその言葉を胸に刻んだと思いますし、ボケの僕も変わりました。

実は、それまではあまり平場ではボケたりしなかったんです。でも、名倉さんのお話からすると、僕が何を言ってもお兄ちゃんはそれを愛してくれるはずだし、その上でツッコミを入れてもくれる。だったら、もう何も臆せずにボケようと。

名倉さんはそんなことを言ったのも覚えてないくらいの感じかもしれませんけど、僕らにとってはとても大きな言葉をいただきました。

そして、僕らの会計もサッと1万円を置いてしてくださいましたし…。いや、お金をもらったから言ったわけではないんですよ(笑)。本当に大切なことを教えてもらったので、何か、口に出すのも違うかなと思って、ここまで話さずにきたんですけど、それくらい、とことんありがたいことだと思っています。

■取材後記
取材時間は約40分でした。

極めてざっくり綴ると、いつもなら取材時間の倍くらい、原稿を書くための“文字起こし”に時間を要します。

なので、今回ならば、ま、1時間半ほどでできるかなと思って文字起こしをやり始めたのですが、10分ほどの録音を文字にするのに1時間ほどかかりました。

どういうことかというと、どの話にも値打ちがあり、カットするところがないのです。普段の取材ならば「ま、ここが最終的に原稿に反映されることはないな」と見切りをつけるところが多々あり、そこは文字にすることなくスイスイ進んでいくのですが、全部が“使いどころ”なのです。

このパターンは、例えば、島田洋七さんやオール巨人さんら言葉に力がある大御所にはありがちのパターンなのですが、若手のインタビューで、この現象が発現するのはかなりのレアケースです。

養成所に入った時の手ごたえについて、兄の卓也さんが答えていました。

「面白い人もたくさんいるし、これは大変な世界だなとは思いました。ただ、一切サボらず毎日必ず努力を重ねれば、勝てないことはない。それが最初に思った感覚で、それは今に至るまで変わってないんです」

いかにお笑いと真摯に向き合い、毎日を無為にせず積み重ねてきたか。作業としては非常に大変ではありましたが…、文字起こしのスピードから、端的にそれを感じました。

執筆者プロフィール
中西 正男(なかにし まさお)
1974年生まれ。大阪府枚方市出身。立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚などを大阪を拠点に取材。桂米朝師匠に、スポーツ新聞の記者として異例のインタビューを行い、話題に。2012年9月に同社を退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属し、テレビ・ラジオなどにも活動の幅を広げる。現在、朝日放送テレビ「おはよう朝日です」、読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」などにレギュラー出演。また、Yahoo!、朝日新聞、AERA.dotなどで連載中。
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