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道浦俊彦のことばのことばかり【10】

この時期ご用心!「発疹」は「ハッシン」?「ホッシン」?

道浦俊彦 2019.08.05

「手足口病」という病気が流行しているようです。
その名の通り、手と足と口が赤く腫れて水疱(すいほう)ができ、最初の1~2日は発熱することもあるようです。
(最高でも38度程度だそうですが。)
この病気は「三大夏風邪」の一つだそうで、(私は初めて聞きましたが、あと2つは「ヘルパンギーナ」と「プール熱」)
国立感染症研究所によると、過去10年で最大規模の流行だそうです。

「風邪なんて、秋から冬に引くもの」と思っていたら、最近はエアコンの普及で室内の空気は乾燥し、冷やしすぎによる外気温と室温の差によって体に負担がかかり、自律神経の乱れから免疫力も低下して風邪を引きやすくなるのだそうです。

さて、本題に入ります。
「手足口病」に限らず、皮膚が赤く腫れる現象を、「発疹」と言いますが、この読み方は、「ハッシン」でしょうか?それとも、「ホッシン」でしょうか?
「放送で標準とする読み方例」(日本新聞協会新聞用語懇談会『新聞用語集2007年版』)によると、

①    ハッシン
②    ホッシン
(学術用語集で「医学編」では「ハッシン」。「発疹チフス」は「ホッシン~」)
と記されています。
また、『NHK日本語発音アクセント新辞典』(2016年)では、「ハッシン」(許容 ホッシン)となっています。

20年ぐらい前、「発疹」の読み方について『新明解国語辞典・第5版』で調べた際、「ホッシン」は「『ハッシン』の老人語」と出ていて、普段「ホッシン」と言っていた当時30代の私は、「『老人語』とはなんじゃ!」と思い、それ以来「ホッシン」と『老人語』には気にかけていました。

その後、2004年11月に『新明解国語辞典・第6版』が出た際に、すぐに「発疹」の読み方をチェックしてみたら、
「ホッシン」=「ハッシンの古風な表現」と「老人語」が「古風な表現」に変わっていました。現在の「第7版」も同じ表現です。

ところが、ここ数年、若いアナウンサーやデスクが、「ホッシン」と読んでいるのです。神戸の女子短大の学生に聞いてみても、皆「ホッシン」と読みました。本当に「ホッシン」は、「古風な表現」なのでしょうか?もしかしたら最近は「ハッシン」から「ホッシン」へ回帰しているのではないかという疑念を持ちました。

これについて、2015年の新聞用語懇談会放送分科会で、各局の委員に意見を聞いたところ、新聞協会の専門委員からは
「『ホツ』のほうが『ハツ』よりも古い。『発議』も、昔は『ホツギ』と言ったが、今は『ハツギ』だ。」
という意見が出ました。
また、関西テレビの委員からは、
「入社時、当時のアナウンス部長に『ハッシンと読むんだ!』と言われた。しかし先日、アナウンス部の若手3人に聞いたところ、全員『ホッシン』と答えた。」
という声もありました。
テレビ朝日の委員からも、
「20~40代後半のアナウンサーに聞いたところ、全員『ホッシン』と答えた。スタートの意味の『発進』や、メールの『発信』と音が同じなので、それを避けるために『発疹』を『ホッシン』と言うのではないか?ただ、病名では『発疹(ホッシン)チフス』『突発性発疹(ハッシン)』だ」
という声が上がりました。

さらにNHKの委員からは、
「伝統的な読み方では、大正3年(1914年)の辞書『辞海』では『ハッシン』とあり、実は『ホッシン』のほうが新しい。『発作(ホッサ)』と混同して『発疹(ハッシン)』も『ホッシン』と読むようになったのではないだろうか?平成6年(1994年)に行ったNHKの調査では、『ハッシン』=50%:『ホッシン』=47%だったが、その後『ホッシン』は増えているようだ。」
という貴重な意見も出されました。

全体としては、このところ「ホッシン」という読み方が増えているのは、間違いなさそうです。

(文:道浦 俊彦)

【執筆者プロフィール】
道浦 俊彦(みちうら・としひこ)
1961年三重県生まれ。1984年読売テレビにアナウンサーとして入社。現在は報道局専門部長で『情報ライブ ミヤネ屋』でテロップや原稿のチェックを担当するかたわら、98年から日本新聞協会新聞用語懇談会委員。著書に『「ことばの雑学」放送局』(PHP文庫)、『スープのさめない距離~辞書に載らない言い回し56』(小学館)、『最新!平成ことば事情』(ぎょうせい)など。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)では2006年版から「日本語事情」の項目を執筆している。読売テレビのホームページ上でブログ「新・ことば事情」「道浦俊彦の読書日記」を連載中。趣味は男声合唱、読書、テニス、サッカー、飲酒(ワイン他)など。スペイン好き。
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