元恋人のオトナなコンビ「荒ぶる神々」ほとばしるドラえもんへの愛

2020.04.10

馬場さおりさん(37)と田中勇紀さん(42)の男女コンビ「荒ぶる神々」。超若手が中心の小欄で取材する芸人さんの中ではかなりオトナなお二人ですが、馬場さんは「ドラえもん知識王№1決定戦」や「アメトーーク!のび太のパパママ芸人」などに出演するほどのドラえもん好き。そして、二人は元カレ・元カノという、これはこれでオトナな過去も持っています。噛めば噛むほど味が出る、幾重にも味わい深いインタビューとなりました。

<取材・文:中西 正男>

―「ドラえもん」の魅力をどう感じてらっしゃいます?

馬場:初めて読んだ漫画が「ドラえもん」だったんです。それが4歳、5歳の頃だったと思うので、今から33年、34年くらい前になるんですけど、今でもずっと面白いんです。
シンプルに、ギャグ漫画として面白いです。ギャグがキレキレですしね。「ドラえもん」の見どころ的を皆さんに聞いたら「のび太と仲間の絆」とか「冒険の中の感動」みたいなお話が出てくると思うんですけど、私は純粋に笑いの部分が好きなんです。笑える面白さ。そこが純粋にすごいなと。
一例をあげると、ドラえもんって子守りロボットなので、本来、のび太を見守るべき立場なんですけど、得てしてそうじゃないところが出てくるんです。
一度、のび太がちゃんと勉強して真っ当にテストで100点を取った回がありまして。それを意気揚々とドラえもんに報告したんです。じゃ、そこで真顔のドラえもんから「ついにカンニングしたか」と言われて。
あと、のび太が掃除をして学校の先生に誉められた時があったんですけど、それも報告したら、すごく軽い感じで「アハハ、ウソだ」と流されたり…。
「それは子守りロボットとしてダメでしょう」ということがサラッと描かれていたりするのが本当に面白いなと。

―相方さんから見て「それはやりすぎだろ」と思うようなところはありますか?

田中:ネタ合わせを僕の家ですることが結構あるんですけど、どれだけネタ合わせが佳境に入っていてもテレビで「ドラえもん」が始まると、一切やらなくなります(笑)。全く聞く気がないと言うか。それはさすがにどうにかしてほしいですけどね…。全くの機能停止。どんだけヒートアップしていても、そこで必ずゼロになります。

馬場:一週間、その放送に向けて生活してますからね(笑)。

―「ドラえもん」から得た人生の教訓的なものはありますか?

馬場:結局、のび太って、調子に乗ると痛い目に遭うんです。ちょっと話が変わるんですけど、昔、サスペンスドラマをおばあちゃんとよく見てたんです。
その中で「ゆすりをやる人は必ず殺される」というのを学びまして(笑)。それと同じで「調子に乗ると悪いことが起きる」。それを学びましたね。
あとギャグ同様、登場人物がサラッと深いこと、切れ味の鋭いことを言うんです。16巻の「宇宙ターザン」という話がありまして、最初は人気のあった役者さんが出演番組の視聴率も下がってきて落ち目になったと。そんな中、たまたまのび太が俳優さんに会うんです。
そこでのび太が言うセリフが「本当のファンなら、落ち目の時こそ応援しなきゃ」。これは大人になって読むと本当にその通りだと思いますし、それを小学生ののび太に言わせるのもすごいことだなと。たまに、核心を突くような言葉がいきなり出てくるんです。

―…なんとも立ち入ったことを恐縮ながら、男女コンビですし…、お二人の関係は?

田中:えー、シンプルに元カレと元カノのコンビです(笑)。コンビを組む前に付き合っていて、別れた後に組んだという珍しい形でして。
僕たち二人とも名古屋の出身で、劇団に所属してたんです。その劇団が2005年になくなってしまって…。残ったのが僕ら二人だけだったんです。
再び劇団をやろうとすると、準備も資金もかなり大変なことになる。なので、二人で体一つだけでできること。それは何だろうと考えて、お笑いをやってみようと。
あと、劇団をやっていた時に、一番難しかったのが笑わせることだったんです。じゃ、そこをとことんやってみようという思いもあって、上京しました。

―実際にお笑いをやってみて感じたことは?

田中:思っていたより100倍大変でした…。よく言われたのが、芝居臭いということ。劇団出身なので、コントをやるにしても演技が過剰だと。そっちに目がいって、笑いにくいと。
それがものすごく枷にはなりましたね。劇団の時には必死に身につけた技術が、まさか邪魔になるとは思わなくて。もちろん、他にもいろいろな要素はあるのかもしれませんけど、その中で対処法を二つ考えました。
一つは、自分の感覚でいうと、わざと下手にやってみる。そして、もう一つは今やってる演技を10とすると、逆にもっともっとやって50くらいの出力でやる。すると、逆に突き抜けて笑える。そちらのパターンもあります。
「荒ぶる神々」田中勇紀さんと馬場さおりさん
―改めて、またヘンな話をうかがいますが…、男女でやりづらさはないものですか?

田中:それは全くないですね。お付き合いをしていた時から、かなり年数が経ってるのもありますし。僕らより、むしろ周りが気を使うみたいなところはありますけど(笑)。でも、当人としたら、家族というか、兄妹というか、そんな感覚かなと。

馬場:最初東京に出てきた時は、お金がなくて一緒に住んでたんです。ライブでスベった時に、また同じところに帰るつらさ、逃げ場のなさみたいなものはありましたけど(笑)、気まずさは本当にないですね。

田中:ただ、僕らが「(男女としては)本当に何もないよ」といくら言っても、周りが信じてくれないところもあって…。「いや、本当にないんだよ!」と言えば言うほど「またまた~」という感じで(笑)。

―今後、目指すところは?

田中:せっかく「ドラえもん」に強いという部分があるので、これを何かしらしっかりと仕事の形にしたいなと。これからもっと深く関わっていきたいと思っています。

馬場:声優のお仕事なんて、いつかできたら、こんなにうれしいことはないですけどね。
「ドラえもん」が本当にすごいのは、年齢によって見方が変わっても、それはそれで楽しめるんです。最近はのび太のパパやママの年齢になってきているので、そちら目線になってきてますね。
のび太が家出をする回があるんですけど、その中でママが真っ暗な部屋で一人願うんです。「神さま、どうか、のび太を無事にお返しください」と。そのシーンとかは、今の年齢になると、グッときますね。
あと、好きなキャラクターも変わってくるんです。今、好きなのは8作目の映画「ドラえもん のび太と竜の騎士」(87年公開)に出てくるバンホーさんという騎士団のエライ人がいるんですけど、地位もあるし、多分、高い給料ももらっていると思いますので、バンホーさんは、かなり狙い目だなと思っています。

田中:見方が尋常じゃなくリアル…(笑)。

■取材後記
いつも小欄で取材をする芸人さんより、かなりキャリアのあるお二人。取材場所となった都内の喫茶店。会った瞬間の、それは、それは丁寧な挨拶に、キャリアというか、人間の深みが表れていました。
そして、取材を終えて原稿を書く段階になり、レコーダーを再生して改めて話を聞きなおすと、実に話が分かりやすい。正確に綴ると、話が聞き取りやすいのです。
ざわついた喫茶店の中での取材は、周りの雑音が勝ってしまい本人の声が聞き取りづらいことが多々あるのですが、さすがは劇団仕込みの発声。大きな声を張り上げるわけではないが、しっかり通る。改めてお二人のポテンシャルを感じました。
西川きよしさん、桂文枝さん、明石家さんまさんら芸人のトップの方が異口同音におっしゃることがあります。「売れるために必要なものは“運”と“きっかけ”」。
力を発揮するための“きっかけ”に出会う“運”があるように願うばかりですが、その前に、一つ謝らなければならないことがありました。
取材をしたのは3月7日土曜。待ち合わせの時間は午後4時。そこからなんだかんだと1時間ほど話を聞きました。取材が終えて挨拶をして店を出る段になったのが午後5時頃。そうなんです。「ドラえもん」の放送時間と完全にかぶっていました…。取材後、ダッシュで帰宅しても、もう間に合いません。
「ドラえもん」大好き芸人の人をよりによって「ドラえもん」の放送時間に呼び出すとは…。何とも、何とも、失礼しました。
執筆者プロフィール
中西 正男(なかにし まさお)
1974年生まれ。大阪府枚方市出身。立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚などを大阪を拠点に取材。桂米朝師匠に、スポーツ新聞の記者として異例のインタビューを行い、話題に。2012年9月に同社を退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属し、テレビ・ラジオなどにも活動の幅を広げる。現在、朝日放送テレビ「おはよう朝日です」、読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」などにレギュラー出演。また、Yahoo!、朝日新聞、AERA.dotなどで連載中。
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