角田陽一郎氏に聞くテレビのあと先(後編)〜入れ物はどう変わるか、作り方をどう変えるか〜

2021.03.25

角田陽一郎氏に聞くテレビのあと先(後編)〜入れ物はどう変わるか、作り方をどう変えるか〜
©ytv
角田陽一郎氏へのインタビュー。前編はTBS時代の番組制作者としての話を聞いた。最後に出てきた「goomo」について知る人はもう少ないだろう。TBSによる番組配信事業だ。それを2000年代に立ち上げている。いま見ると、10年ほど早かったのかもしれない。だがこの事業でビジネスに正面から向き合ったことが、新しい角田陽一郎を誕生させたのだと思う。話はその後始めた「オトナの!」から、テレビの未来像に広がっていく。
【聞き手/文:境 治】

自分でスポンサーを見つけて始めた「オトナの!」

境治(以下、S):「goomo」で事業を経験したことがその後の番組制作にも繋がっていったんですね。

角田陽一郎(以下、K):TBSから制作費を一銭ももらわないで作ったのが2012年に始めた「オトナの!」です。プロデュースしてスポンサーから制作費をもらうやり方で作りました。

S:「オトナの!」はいとうせいこうさんとユースケ・サンタマリアさんがホストで、様々な分野のアーティストを招くトーク番組でした。「2次利用」じゃなくて「0次利用」、番組を作る段階でマネタイズできている。

K:だから視聴率を気にしなくていい。自分が本当に会いたい人、話を聞きたい人を呼べました。向こうも自分が話したいことを話せるので出たがってくれる。いいことしかない。そして番組をそのままYouTubeに置きました。

S:TVerもなかった頃ですよね。番組をネットに置くことを、ずっと前からやっていた。

K:YouTubeに置くとネットワークしているローカル局から死活問題だと言われる。でも深夜枠は関東ローカルなんです。それでぼくはJNNネットワークの全局に電話してこの番組要りますか?と聞いたら要らないと言われた。だからネットに置いていいですよねと社内に説明しました。ダメだと言われていたことも、こういうところをクリアすればダメじゃなくなるわけです。
テレビ局の人間なんて、編成に企画が通ればプロデューサー、でなければただのサラリーマン。こっちの年齢が上がって編成の人間が年下になってくると、あのめんどくさいプロデューサーの番組やめようとなっちゃいます。視点を変えて、採用されるかどうかより実現するかどうかを考えた。経営的に問題なければいいわけで、この番組でこう儲かると上を説得できたので「オトナの!」は成立しました。
この番組は、自分でスポンサーを獲得したので「アイデアの産地直送」と言ってます。普通、番組は制作局で作るけれども編成局から営業局を通って広告代理店経由でスポンサーさんと繋がるので、スポンサーが青で作ってくださいと言うと青しか作れなくなる。現場で作っていて赤の方がいいとなっても、壁が多すぎて意見を聞いてもらえない。でもこれこれこういう理由で「赤」がいいですよと直接言うと実は「じゃあ赤で」と言ってくれたりするんです。なのに一度「青」って言われるとその中でやってろよというのがテレビ局。YouTuberは現場も営業も自分でやってるから好きなもの作れる。侍はスポンサーと直接話しちゃダメなんだよねと言ってたら、明治維新で侍が滅んだようなことになりかねないですね。

S:そのあとMXテレビで立ち上げたのが「オトナに!」でしたね。「に」は「2」でもある。

K:もちろんTBSの番組を他局に持っていくのはNGなので、辞めた後で立ち上げました。この話は初めて言うんですが、「オトナに!」は自分のポケットマネーで作ったんです。退職金なくなりました(笑)。

今後のテレビ局は各都道府県に1つでいい?

S:ここからはテレビの今後について聞きます。いまテレビ局は手詰まり感がありますが、問題点はどこでしょう?

K:視聴率モデルの限界だと思います。ライブかアーカイブかでいうと、テレビ番組はほとんどが収録してるからアーカイブと思ってるけど、実際はライブの価値です。一方YouTubeはアーカイブだから価値がある。YouTuberが喋ったことをいつでも何回でも見れる。テレビは金曜9時に「金スマ」を見せて、そのタイミングにCMを流す。そのビジネスが崩壊しはじめています。逆にコンテンツが面白いかどうかの価値は崩壊してないわけです。ビジネスフレームが壊れてるけどコンテンツは大丈夫。コンビーフの缶がダメになっても、中身のコンビーフは食べたい。

S:つまりコンビーフは別の入れ物に入れればいいわけですね?

K:そうです、新しいビジネスフレームを構築したい。実はそれが辞めた1番の理由でした。

S:するとこの先はどう包んで売っていけばいいでしょう?

K:各都道府県にテレビ局はひとつずつになると思います。それくらいしかもたない、けどあったほうがいいし、なくてはならない。その県にはその県の商圏があるわけですからCMを流したい企業もいるはず。ある県で作ってる番組はその県で見られるし、全国でも見られるようにすればいい。海外でも見られてもいいかもしれない。そうしたら、地元企業のビジネスチャンスが広がりますよね。

S:なるほど、今後もテレビ局は必要だけど、たくさんは要らない。

K:チャンネルはこんなにいらない。チャンネルを都道府県に1つにすれば、50個くらいでいい。その一方でYouTuberが出てきて、芸能界の集金システムは崩壊していくんですね。芸能界、放送界、広告業界三つ巴のバミューダトライアングルが、お金がただ消滅していく魔のトライアングルになる。

S:50チャンネルになる!

K:テレビ放送はネットワークでやってきましたけど、インターネットができたらそっちこそがネットワークだから移っちゃう。でも何かやりたい人の活躍の場はまだまだあるわけです。

文化資源学でテレビの作り方を変えられる?

S:いままでは地方から一度東京に出てきて東京のテレビ局に認められないと全国で放送してもらえなかった。でも地域で活動してる人がその地域のテレビ局から直接全国に放送されるかもしれないわけですね。

K:ぼくはこのことをコロナ前から言ってました。そこにコロナが来て、ぼくも東京を離れて海を見ながら働いています。家賃は3分の1です。コロナはチャンスだと思うんです。地方にそれぞれ独立して維持できる文化圏が形成できる。東京一極集中じゃなくても済むように変わるきっかけを神様がくれたんじゃないですかね。

S:逆に地方が活性化しそうですね。キー局はどうなりますかね?

K:戦国時代になるわけですからね。準キー局の方が難しいかもしれない。関西は1つじゃ少ない、でも5ついるの?そういう話になるでしょうね。最適化していくので、合従連衡してどう進むかは流れ次第です。

S:何がどうなるかわからない。

K:安定って何なのか、いいことなのか、という話です。コルクの佐渡島さんと話してたら「角田さんのアイデアを局内でハンコを押すだけに使ったらもったいない」って言われて、それも辞めるきっかけになりました。ハンコを捺すために部長として残るなら、安定ってなんだ?フリーで編集者やる方が安定じゃないか?彼はそう思ったそうです。大企業にいることが安定なのか?

S:角田さんは東京大学の大学院に通ってましたね。何を研究してるんでしたっけ?

K:文化資源学です。山を掘るのが天然資源で、文化も資源だという考え方の学問。今のテレビって頭いい人たちが「レベルの高いことやっても視聴率取れないんですよ、だから馬鹿っぽく作ってるんですよ、てへへ」と言って作ってる。でも文化資源学の授業を聞いたら考えが変わるでしょう。リテラシーを上げるべきなんです。制作者のリテラシーが上がればいままで1万部しか売れなかった学術書が5万部売れる。そうするといいものを買う経済が回るはず。そのためにぼくは学問のプロデューサーになりたい。学んだことを面白く伝えるんじゃなくて、学問自体を面白くする。そうしないとパイが増えない。

S:制作者を育て、視聴者を育てるわけですね。

K:フランス革命の啓蒙思想です。ポストコロナでそれやろうと本気で思ってます。「考えるな感じろ」って言いますけど、考えて感じちゃいけないの?両方やればいいのに。感じて考えればいいじゃない。そのために、テレビにはまだまだできることがあります。


角田氏と話していると、自分が常識に囚われていたことに気づかされる。言われてみると、そう考えるのが自然だな。そこに納得すると、ガラガラガラ〜ッと世の中全体が大きく変わる気がしてくる。そして実際、いまいろんなレイヤーで世界は大きく動いているのだ。どの道、どこにいても安定などないとしたら、変わる方向に走っていけばいい。そう思わせてくれるインタビューだった。今後の角田氏の言動に、みなさんも注目してほしい。
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