「付き人」か?「付け人」か? ~ 道浦俊彦のことばのことばかり④

2018.12.11

大相撲の貴ノ岩関が、「付け人」に暴力を振るったことが原因で「引退」を発表しました。
貴ノ岩関は去年10月、横綱・日馬富士(当時)に暴力を振るわれた「被害者」でしたが、今度は自らが「加害者」になってしまいました。元・貴乃花部屋の力士としては先日、小結・貴景勝が初優勝を果たすといううれしいニュースがありましたが、今度は困ったニュースです。元・貴乃花部屋ではことし春に、貴公俊が「付け人」に暴力を振るって問題になったばかりですが、こうなると「暴力問題」は貴ノ岩関だけではなく、元貴乃花部屋、ひいては相撲界全体の問題として改めて考えなくてはならないでしょう。

さて、今回被害者となったのは、
「付け人」
です。関取一人につき2~3人が世話係として付くそうですが、言葉の問題としては「付け人か?引き人か?」が紛らわしいです。

今から8年前(2010年6月)、読売テレビのホームページのブログ「平成ことば事情4032」で「付き人か?付け人か?」について書きました。その際は「野球賭博問題」に揺れる大相撲界を巡って、「野球賭博 白鵬の付け人 聴取」という新聞見出しが出たことを基に書いていました。そして、「け」か?「き」か?どっちが正しいのか『精選版日本国語辞典』を引いたところ、

*「付け人」=(1)側近としてつけておく人。監督や保護、身の回りの世話などのためにつけてある人。付き添い。つきびと。(2)江戸時代、幕府から親藩に、また大名の本家から分家に、監督などのために付けておいた家老職。また、その職にある人。付け家老。(3)侠客(きょうかく)などを応援する人。
用例は(1)が1771年の浄瑠璃、(2)も1739年の浄瑠璃。江戸時代中期のもの。

*「付き人」=付き添って身の回りの世話をする人。つきそい。かしずき。もりやく。
用例は1792年の人情本、そして1894(明治27)年、高山樗牛の小説『滝口入道』でした。

この時の「情報ライブ ミヤネ屋」(6月24日放送)では、「付け人」で放送しました。

そして今年も「平成ことば事情6866」で「付き人と付け人」というタイトルで書きました。これは貴乃花部屋の双子関取の兄・貴公俊の「付け人」への暴行問題に関連して、2018年4月4日付の読売新聞夕刊で、相撲に詳しい落語家の桂文福さんが、「『付け人』『付き人』どう違う?」(コラム『桂文福の一番太鼓』)というタイトルで書かれていたのをご紹介したものです。

文福さんによると、
「我々、芸能界は『付き人』。この師匠、この先生に憧れて弟子になりたい、付いて修業、勉強したいから『付き人』です。相撲界は、親方から『お前、この関取に付け!!』と言われる。従って若い関取にベテランの幕下以下の兄弟子が付く場合も多い。その『付け人』が『何くそ!!俺も関取に出世するぞ』と気持ちを燃えさせる効果もあるし、若い関取に付いて立ち居振る舞いを指導することもあるんですね。」
とのことでした。

今回の貴ノ岩関のニュースでは、私が見た限りでは、「ミヤネ屋」をはじめNHK・日本テレビ・フジテレビも「付け人」で放送していました。
「付け人」から「ツキ」が離れて「(負の)ツケ」がたまることは避けたいですね。

(文:道浦 俊彦)

【執筆者プロフィール】
道浦 俊彦(みちうら・としひこ)
1961年三重県生まれ。1984年読売テレビにアナウンサーとして入社。現在は報道局専門部長で『情報ライブ ミヤネ屋』でテロップや原稿のチェックを担当するかたわら、98年から日本新聞協会新聞用語懇談会委員。著書に『「ことばの雑学」放送局』(PHP文庫)、『スープのさめない距離~辞書に載らない言い回し56』(小学館)、『最新!平成ことば事情』(ぎょうせい)など。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)では2006年版から「日本語事情」の項目を執筆している。読売テレビのホームページ上でブログ「平成ことば事情」「道浦俊彦の読書日記」を連載中。趣味は男声合唱、読書、テニス、サッカー、飲酒(ワイン他)など。スペイン好き。
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