読売テレビがお届けするテレビのウラガワ

【連載】放送作家・鈴木しげきの「テレビを読む」

芸人さんは持続可能な仕事に変わりつつある

2022.07.07

鈴木しげき
芸人さんは持続可能な仕事に変わりつつある
©ytv
松本人志さんのモノマネをするJPさんが取材でこんなことを言っていた。
「僕自身は昔から言ってることは変わりませんけど、注目されるようになってから同じことを言ったらものすごくウケるようになりました」
そう、売れると何もかもが変わる。これが芸能の世界らしい。しかし、最近、「売れる」の定義が変ってきたように思う。

テレビに出る=「売れる」を利用して多様な活動が可能に

かつてお笑い界の頂点にいる人たちを天下人のように例える時代があった。タモリさん、ビートたけしさん、明石家さんまさんのお笑いビッグ3だ。激しい下剋上を勝ち抜いて、誰もがトップと認めるスターである。

その頃、芸人さんの多くはこんなコースに乗ろうとしていた。テレビに出る→MCになる→その番組が人気になる→他にも看板レギュラーをたくさん持つ。これをみんなで目指していたのだ。その結果、熾烈な序列争いが起き、弾き飛ばされる者や力尽きる者、中には勢いよく登場したものの急激に飽きられ、“一発屋”と呼ばれて散っていく者もいた。

しかしここ10年くらいだろうか。これを不毛と考える芸人さんが増えてきたように思う。もちろん今でも、テレビに出る→MCになる→その番組が人気になる……この出世コースは健在だが、誰も彼もがそこを目指す必要はなくなった。

お笑いトリオ・ジェラードンはテレビにも出演するが、YouTubeが大人気だ(2022年7月現在の登録者数は74万人以上)。今の若手芸人たちはYouTubeにライブでやったネタをあげたり、自分たちの趣味を生かしたYouTubeっぽい企画をやって上手に稼ぎをつくっているが、ジェラードンの場合はそれともちょっと違う。YouTubeの特性を理解した上で、それ用のネタをつくっているのだ。

YouTubeの再生回数を稼ぐコツは、タイトルとサムネイルと言われている。これが目を引けば、ほぼ成功で、あとは再生をクリックしてくれれば再生回数が増え、それ自体が信頼となり、好転のスパイラルへ。うまく行けば、長きに渡って“お金を生む”動画ができるわけだが、ジェラードンはこれを早い段階から理解していたように思う。

もし時間があるのなら、ちょっと『ジェラードンチャンネル』を検索して、並ぶサムネイルをザァっと見てほしい。検索しました? ね、笑うでしょ(笑)?

かつて舞台を主戦場としていた芸人さんがテレビに合わせて芸のスタイルを変えたように、YouTubeに合わせてネタづくりを変えた例と言えるだろう。もちろん、彼らは舞台やライブにも出るし、テレビやラジオにも出る。立派な売れっ子だ。

最近では個人事務所で活動しているコンビも少なくない。ラランドやさらば青春の光などは、多様な活動で生きていける今だからこそ、大手芸能プロダクションではできない“小回り”を強みとしている。さらば青春の光の森田哲矢さんは「3日後、スケジュール空いてます?」とプロデューサーから聞かれ、「なんとかします」と答えてテレビに出たと某番組で言っていた。大手事務所なら“貸し”になるところを個人事務所ならではのやりくりで応えてみせたのだろう。こんな活動の仕方、10年前では考えられなかった。彼らもまた立派な売れっ子だ。

今年、『M-1グランプリ2019』で優勝した漫才コンビ・ミルクボーイがネット記事で「消えた!」と書かれたことがあった。これに対し、ミルクボーイ本人は否定し、関西の舞台・テレビ・ラジオでしっかり活動していると訴えた。その通りだ。東京のテレビで見なくなったからといって終わったかのように言うのは古い価値に縛られすぎている。むしろ、彼らこそ劇場でいぶし銀の漫才道へ突き進んでいると見るべきだ。彼らもまた売れっ子なのだ。

ダンディ坂野、カンニング竹山、小島よしお……“一発屋”を多く抱えているサンミュージックというプロダクションは、むしろそこを利用してタレントさんを上手くマネージメントしている。ダンディさんはCMの売れっ子だし、竹山さんはコメンテーターとして売れっ子だし、小島よしおさんは子どもたちの教育系タレントとして売れている。

みんな、テレビに出たことを利用して、その後も特徴や長所を生かした活動で“食っていける”時代になったのだ。芸人が サステナブル(=持続可能)な職業になったと言っていいだろう。

スーパースターのオーラや凄みは減っていくかもしれないけれど…

確かに、スーパースターとしてまばゆいオーラをまとった人や、芸人としての凄みを感じさせる人は芸能界から減っていくのかもしれない。が、テレビに出ている・出ていないだけでその人をスポイルさせるより、よっぽど健全な世界に変わってきているのではないか。

かつて、有吉弘行さんが自身の地獄時代を自虐的にネタにしながら、「世間がコイツは一発屋だと認めたら、もうどうしようもない。抜け出せないから」と言っていたが、今だとそうでもない。むしろ、そこをきっかけに何かが始められる(しかしその地獄から抜け出し、一発逆転をした有吉さんはスゴイ!)。

私は若い頃、ヨシモトの劇場の座付き作家をしていたが、その時に日の目を見ないで辞めていく芸人を無数に見てきた。苦楽をともにした仲間が去っていくのはなかなかつらい光景だった。だから思う。とにかく芸人さんには一回売れてほしいと。今なら売れちゃえば、あとは何とかなる。時代は変わった。

「売れる」は運次第!?その可能性をあげる方法とは

では、どうやったら売れるのか? 売れる方法はさまざまになったわけだが、今も売れる方法を見つけるのはもちろん簡単ではない。ひとまずは、『おもしろ荘』のような若手枠のテレビに出る作戦を立てちゃえばいいのに、とは思う。しかしこれも向き・不向きが大いにある。

ビートたけしさんは「売れる売れないは運だ」と言っている。コメディアンではないが、ミュージシャンの山下達郎さんも「この曲が売れるか売れないかは運でしかない」と語っている。いくぶん謙遜もあると思うが、それくらいにわからない世界だということだろう。自分と同じくらいの実力なのに世の出られないライバルをたくさん見てきただろうし、会心の出来と思った楽曲がそれほどセールスをつくれなかった経験はたくさんしてきたに違いない。このあたりが芸能という世界のおもしろさと怖さだ。

となると、その「運」をなんとかコントロールできないか? と考える人がいてもおかしくない。実際に「運を操っていた」と言われるのが萩本欽一さんだ。欽ちゃんの多くの著書を調べればわかるのだが、やたらタイトルに「運」という言葉が入っている。欽ちゃんはずっと苦労してきた人や稽古を真面目にやっている人には“運が溜まっている”と考え、その運を自分の番組で開花してもらおうとそういう人ばかりをキャスティングしていた。また、スタッフに最近、離婚した者がいるなら、そういうディレクターにこそ大事な回を担当させたというのだ。私生活では不運だから、仕事ではツキが来るはずだ、と。

ようは、誰もが持っている運を「売れる」ために使いなさいってことなんだろう。『M-1グランプリ2021』王者の錦鯉を見ていたら、欽ちゃんの言っていることは当たっている気がしてくる。

しかしこれも運が巡ってきたとはいえるが、運をコントロールしたわけではなさそうだ。やはり、よくわからん、が答えだ。そんな中、ただひとつだけ売れる可能性を維持する方法がある。「辞めない」ことだ。今日より明日の方がつらくなる可能性もあるけれど、もしかしたら明日売れるかもしれないのだから、とにかく辞めないことだ。

芸人は持続可能な職業になりつつある。今の時代、スーパースターのオーラや凄みを見せるよりも、続けている姿を見せることが芸人の存在意義になってきたのかもしれない。個人的にジョイマンがんばれ(笑)。最後まで読んでくれてありがとう。オリゴ糖。

【文:鈴木 しげき】

執筆者プロフィール
放送作家として『ダウンタウンDX』『志村けんのバカ殿様』などを担当。また脚本家として映画『ブルーハーツが聴こえる』連ドラ『黒猫、ときどき花屋』などを執筆。放送作家&ライター集団『リーゼント』主宰。
この記事を共有する

連載記事

人気タグ