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指南役のテレ美学②「テレビはお祭り論」

2018.03.06

先の2月5日(現地時間4日)、アメリカで『第52回スーパーボウル』が開催された。NBCによる全米テレビ中継の平均視聴率は47.4%。前年よりわずかに下がったものの、ほぼアメリカの半数の人が見た計算になる。これは大変な数字だ。

ところが、である。このスーパーボウル、以前は40%台そこそこの視聴率だったんですね。40%台後半にハネ上がったのは2010年から。そして以後、ずっとそれをキープしている。現代人の嗜好の多様化で“テレビ離れ”が叫ばれる昨今、むしろ逆行する現象だ。これは一体、どういうことか。

SNSとテレビの親和性

考えられることは1つしかない。「SNS」の普及だ。2009年6月に米『TIME』誌の表紙に「Twitter」が登場したり、翌10年9月に「Facebook」の誕生を描いた映画『ソーシャル・ネットワーク』が公開されたり、2010年代――市場にSNSが一気に浸透したからである。

その結果、何が起きたか? 離れたユーザー同士で思いや行動を“シェア”する喜びが生まれたんですね。そして、真っ先にその恩恵にあずかったのが、意外にも旧来のメディアであるテレビだったと。確かに、同じ時間に同じ感動を共有できる媒体として、これほど適したものはない。しかも、母数が大きければ大きいほどSNSはバズりやすいので、テレビはドンピシャ。そう、SNSとテレビは極めて親和性が高いんです。

かくして、SNSが普及した2010年代、スーパーボウルは視聴率を40%台後半に乗せたのである。

『箱根駅伝』も視聴率は上昇傾向

その種の現象は、何もアメリカに限らない。日本でスーパーボウルに最も近いスポーツイベントと言えば――これはもう、日本テレビ系で毎年中継される『箱根駅伝』を置いて他にないでしょう。今や日本のお正月の風物詩。この日のためにオンエアされる“箱根仕様”のCMも、スーパーボウルで流れる特別仕様のCMを連想させる。

その箱根駅伝、青山学院大がV4を飾った今年の視聴率は、往路が歴代1位の29.4%、復路が歴代3位の29.7%だった。30%近い視聴率にも驚くが、テレビ離れが叫ばれる昨今、歴代1位に3位と、むしろ数字が上向きなのに驚く。これもスーパーボウル同様、SNS効果でしょう。何せ、レースが行われている間、Twitterのタイムラインはほぼ「箱根」一色。みんなお祭りに乗り遅れまいと、同中継にチャンネルを合わせたのだ。

『紅白』はもっと視聴率を取っていい

そうそう、毎年、高視聴率を取ると言えば、あの番組も忘れてはいけない。『NHK紅白歌合戦』である。ところが、こちらは「箱根」と比べて、もう一つ手放しで喜べない。昨年は、午後9時からの後半(第2部)の視聴率が39.4%。これは40%を超えた一昨年の2部より0.8ポイント低く、歴代ワースト3位だったんですね。内容的には一昨年のゴジラ騒動よりは改善したと思うけど――この世界は数字が唯一の評価基準。後味はどうもよろしくない。

もちろん、「紅白」が年間最高視聴率番組であることには変わりなく、それは誇れるものだ。だが、米スーパーボウルや箱根駅伝の近年の活躍ぶりを見るに、本当はもっと数字の取れる――それこそ50%も夢じゃないコンテンツかもしれない。そこに至らないのは、細かな内容云々より、何か決定的な要素が欠けているからじゃないだろうか(種明かしは本コラムの最後に)。

テレビはお祭りメディア

少々、前置きが長くなったが、今回の話は、そんな風にSNSが可視化してくれた地上波テレビの“強み”である。それは、「今この瞬間、全国の人たちと同じ番組を見ている喜び」――この感覚こそが、テレビに人々が群がる理由、テレビの一丁目一番地なんですね。つまり、お祭り視聴だ。

そう、お祭り――。
ともすれば近年、「タイムシフト視聴」が叫ばれ、視聴率の測定法も変わりつつあるけど、テレビの原点はやっぱりリアルタイムのお祭り視聴――これを忘れちゃいけない。ほら、散々DVDで見たジブリ映画でも、改めて「金曜ロードショー」で放映されると、思わず見てしまうでしょ。あれがテレビの強み。みんなお祭りに参加して「バルス!」とつぶやきたいから、わざわざリアルタイムで視聴するんです。

お祭りが生んだ巨大マーケット

そんなお祭り視聴は、テレビに何をもたらしたか。
巨大なマーケットだ。テレビの強みは、その圧倒的な市場規模にある。他のメディア(新聞や出版、ラジオ、映画、音楽市場等々)じゃ到底、追いつけないレベル。それこそ桁が2つくらい違う。
つまり――単純に「好き」とか「いい番組」とかの個人の嗜好を飛び越えて、まるでお祭りに吸い寄せられるようにフラフラと思わず見てしまう。これこそが、テレビの強さの秘密なのだ。

思えば、1953年に日本でテレビ放送が始まって以来、テレビはずっとお祭り続きだった。力道山のプロレス中継は駅前の街頭テレビに1万人もの観客を集め、バラエティ番組から次々と流行語が生まれ、歌番組から新しいスターが誕生し、人気ドラマが放映された翌日の会社や学校は、その話題でもちきりだった。少なくとも昭和の時代までは、人々はテレビを通じて同じ感動を共有していた。

そう、同じ感動――。昭和の時代、テレビは一家に1台だった。その1台を巡り、両親と子供たち、どうかしたら祖父母まで同じ番組を見ていた。子供番組だろうと、時代劇だろうと、お笑い番組だろうと、みんなして同じ番組を見ていた。

そう、老若男女みんな――これがお祭り視聴の正体だ。

テレビのパーソナル化が招いた落とし穴

だが、平成の世になると、テレビは一部屋に1台の時代になる。そうなると、家族が各々見る番組はバラバラになった。作り手も自然、ターゲットに届きやすい番組作りへと変化した。連ドラは若者向けに特化し、夕方の時間帯は主婦層をターゲットにワイド・ニュースが氾濫し、ゴールデンの浅い時間帯は高齢者向けの医療情報バラエティが増えた。気が付けば、家族間でテレビの話題が減り、学校や職場でもテレビの話をする機会がめっきり減った。そして――テレビの視聴率は下降した。

そう、テレビのパーソナル化によって、近年、テレビは老若男女が見るメディアから、ターゲットが喜ぶメディアへ変貌したんです。昔は子供番組と言っても、ある程度大人も見ることを考慮して作られたし、初期のウルトラシリーズがいまだに高い人気を誇るのはそういうことだ。時代劇も、昭和の時代は若者も視聴することを考慮して、それなりに“攻め”の姿勢で作られた。それが平成になるとマンネリズムに陥り、高齢者向けに40代の由美かおるの入浴シーンが重宝がられるようになったのだ。

なぜディズニーランドは人気があるか

ターゲットに照準を合わせた番組作りは、一見すると正しいように思える。だが、テレビというメディアにとって、それは魔法を解く呪文になりかねない。

先の言葉を思い出してほしい。テレビの強みはお祭り視聴である。つまり、老若男女に見てもらうこと。単純に「好き」とか「いい番組」とかの次元を超えて、お祭りに引き寄せられるようにフラフラと見てしまう――だから、他のメディアとは比較にならない巨大マーケットを獲得できたのだ。

東京ディズニーランドを例にとろう。アレは、特定のターゲットを対象にしたテーマパークじゃない。老若男女が楽しめる作りになっている。とはいえ、当たり障りのない凡庸なアトラクションじゃない。子供も、ティーンエイジャーも、家族連れも、老夫婦も、みんな楽しめる空間だ。つまり――質の高いエンタテインメントは、年齢や性別を超えて、老若男女に広く愛されるのだ。

かつての昭和のテレビもそうだった。一家に1台のテレビで、家族全員が同じ番組を見る――すると、作り手も自ずと老若男女が楽しめる番組作りを心掛けた。子供番組だからと言って手抜きはしないし、時代劇だってチャレンジ心を忘れない。そう、かつてのテレビはディズニーランドそのものだった。

「紅白」に足りないところ

そして話は、冒頭の「紅白」に戻る。なぜ、同番組は米スーパーボウルや箱根駅伝のように、SNSの追い風で視聴率を伸ばせないのか。

――もう、答えはお分かりですね。そう、今の「紅白」が老若男女に向けて作られていないから。
思い返せば、「紅白」の視聴率が初めて50%を切ったのは、平成元年のこと。その年、同番組に何があったかというと――初めて“2部制”になったんです。1部は若手歌手中心、2部は中堅からベテランまでと棲み分けされ、視聴ターゲットも若者と高齢者に分散された。その結果――今日に至るまで「紅白」の視聴率は長期低落傾向が続いているんです。

繰り返すが、テレビが高い視聴率をとるためには、単純に「好き」とか「いい番組」とかの個人の嗜好を越えて、いかにお祭りを演出できるかにかかっている。それが他のメディアと比べて、テレビが圧倒的な巨大マーケットを獲得した理由。つまり、テレビにとって視聴ターゲットを絞ることは、マーケットを狭める――視聴率を落とすことに他ならないのだ。

『ポプテピピック』は何が凄いか

最後に、ちょっと視点を変えて、最近のバズってる番組の話を。
――ご存知、アニメの『ポプテピピック』だ。もう、色々な人が論評してるので、今さら説明するまでもないですね。地上波キー局のアニメでもないのに、放送時にはTwitterのタイムラインを占拠して、毎回トレンド入り。何が凄いって、普通、ドラマやアニメはタイムシフト視聴が半分近くを占めるのに、同アニメに限っては、やたらリアルタイム視聴が多いこと。つまり――みんな、お祭りに乗り遅れたくないのだ。

なぜ、『ポプテピピック』はお祭りを作れたか?
それは、地上波キー局で放送しない代わりに、TOKYO MX1やBS11といった放送局を始め、AbemaTVやAmazonビデオ、Hulu、ニコニコ動画、dTV、GYAO!などの配信サイトでも一斉に視聴できるから。毎週土曜深夜25時の新作を視聴できる放送や配信サイトは実に10以上。つまり、徹底的に“リアルタイム視聴”の間口を広げた戦略だ。

マーケティングで番組を作らない

いや、それだけじゃない。同アニメの場合、とにかくタブーがないのだ。昨今のテレビ界を縛るコンプライアンスなんて、どこ吹く風。いきなり違うアニメを始めたり、声優だけ変えて同じ内容を2度放送したり、所かまわず中指を立てたり――もう、やりたい放題。その辺りは、米アニメの『ザ・シンプソンズ』や『サウスパーク』の世界観に近い。

そして――そのタブーなきクリエイティブの結果、同アニメは、子供から大人まで幅広い世代が楽しんでいる。それはひとえに、『ポプテピピック』が誰に照準を合わせることなく、老若男女に向けて作られているから。早い話が、自分たちが「面白い!」と思う番組を作っているのだ。

そう、この姿勢がテレビにとって一番大事なこと。
作り手が徹底的に面白い番組にこだわり、妥協しない。ターゲットなんて考えない。つまり、マーケティングで番組を作らない。本当に面白ければ、視聴者の側が勝手に食らいついて、「この祭りに乗り遅れたくない!」とリアルタイムで見てくれる。

そうなれば、しめたもの。
【文:指南役】

執筆者プロフィール
メディアプランナー。代表・草場滋。フジテレビ『逃走中』の企画原案ほか、映画『バブルへGO‼タイムマシンはドラム式』(監督・馬場康夫)の原作協力、『テレビは余命7年』(大和書房)、『情報は集めるな!』(マガジンハウス)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社新書)などメディアを横断して活動中。「日経エンタテインメント!」誌に連載中の「テレビ証券」は18年目。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。
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