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指南役のテレ美学③「ニュースをお茶の間が作る時代」

2018.09.12

最近、テレビのニュースを見ていて、ニュース映像にこんなクレジットが付いているのをよく目にしません?
――視聴者提供。

そう、これらは自然災害や事件・事故などの決定的瞬間(スクープ)に遭遇した一般の人々が、その模様をスマホなどで撮影したもの。大抵、ツイッターなどのSNSに投稿して拡散され、それを見たテレビ局が本人の承諾を得て、使わせてもらっているものだ。

ほら、ツイッターのリプライ欄で、よくこんなやりとりを見かけません?
「突然の連絡申し訳ありません。××テレビの報道局の者です。現在安全な場所にいらっしゃいますでしょうか。ご投稿の内容についてお伺いしたいことがございます。当アカウントをフォローしていただき、DMにてご連絡させていただきたいと思います。ご検討宜しくお願い致します。」

まるでテンプレがあるように、各局とも似たような文面なのが面白い。いや、何も僕はそれを批判しようとは思っていない。むしろ新しいニュースの時代が到来したと大歓迎している。

ニュースの概念が変わった

皆さん、そもそもニュースって、どうやって作られているかご存知です?
まず、テレビ局にはニュース全般を取り仕切る報道局という部局があります。それは大きく、政治部・社会部・経済部と3つの班に分けられ、それぞれ政治のニュース、事件・事故などのニュース、経済や企業に関するニュースを取り扱います。

で、普段、彼ら報道記者たちはどこにいるかというと、政治部なら国会議事堂、社会部なら警視庁、経済部なら東京証券取引所に、それぞれ「記者クラブ」なるものがあって、そこに常駐してネタを仕入れている。記者というと、スクープを狙って、政治家に夜討ち朝駆けしたり、事件現場に張り込んだりするイメージがあるけど、実際は記者クラブのデスクに常駐して、毎日そこへ届くニュースを伝えるのがメイン。だから、ニュースの映像は国会内の様子だったり、警察署へ護送される犯人だったり、東証の株価ボードだったりと、大体お決まりのパターン。つまり――ニュースの多くは、国会と警視庁と東証のたった3ヶ所で作られているんです。

ところが――ここからが本題。近年、その構図が大きく変わりつつある。
冒頭でも述べたように、一般人がスマホなどで撮影したスクープ動画を元に、ニュースが作られるケースが増えてきたのだ。例えば、竜巻が発生した瞬間の映像だったり、大雨でマンホールから水が噴水のように吹き上がる様子だったり、道路が陥没する決定的瞬間だったり――それらのスクープ映像を元に、ニュースが作られるようになったのだ。

一億総カメラマンの時代

そんな“スマホ発”のスクープ動画の何が凄いって、“絵力”が半端ないこと。
そう、絵力――。なんたって決定的瞬間だから、ぶっちゃけ余計な言葉などいらず、映像だけでお茶の間を惹きつけるのだ。
テレビとは究極に言えば、“今この瞬間、視聴者が最も見たい映像を流すメディア”だから、それは実にテレビ的である。

一方、報道のプロのカメラマンが撮る映像は、どうしても後追いになる。何か事件や事故が発生して、急いで現場に駆けつけて撮影しても、交通事故なら、せいぜい大破したクルマが撮れるくらいだし、火事なら焼け跡の映像だ。

そう――そもそも一般人がスマホで撮るスクープ動画と、プロがプロの機材で撮影するクオリティの高い映像とは別ものなのだ。決定的瞬間はプロのカメラマンでも容易に撮れない。いや、昨日スマホでスクープを撮った一般人でも、二度スクープに遭遇するのはまず無理だ。
要は、スクープ動画とは、スマホの普及で一億総カメラマンの時代になったから、安定して量産されるようになったということ――。

撮影者に謝礼は支払われるべきか

さて、そんな風に一億総カメラマンの時代になり、スクープ動画が飛躍的に増え、毎日、安定して供給される代物となった。
――となれば、これをテレビ局がニュース作りのシステム(ルーティン)に組み入れ、生かさない手はない。ニュース新時代の到来と言ってもいい。

ところが、である。
そんな風にスマホ発のスクープ動画がニュースに使われる度に、繰り返し、問題になることがある。撮影者への謝礼だ。
原則、テレビ局側のスタンスとしては、報道用の素材には謝礼は支払わない慣習になっている。あくまで「協力」をお願いするスタンスだ。これは各局共通である。そもそも撮影者がSNSに上げている時点で無料公開されており、パブリックなものという概念なのだろう。

だが――中にはこの考えに納得できず、謝礼が支払われないのなら、使用許可を出さないという撮影者もいる。その気持ちも分からないではない。何せ、プロの報道カメラマンはちゃんとテレビ局から報酬をもらっているのだから。
だが、そうやって世紀のスクープ映像がメディアに取り上げられず、闇に埋もれてしまうのは、実に残念なことである。

では、どうしたらいいのか。

ケネディ暗殺のスクープ映像

1つ、ヒントになる事例がある。
かつて、合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディがダラスで暗殺された時、その決定的瞬間を8ミリカメラで撮影した一人のアマチュアカメラマンがいた。名をエイブラハム・ザプルーダーと言う。
後に、そのフィルムは「ザプルーダー・フィルム」と呼ばれ、彼は「ライフ誌」に15万ドルで売却した。現在、僕らがテレビなどで目にするJFK暗殺の映像は、大抵コレだ。当時の15万ドルは日本円にして5,400万円。今の物価に換算すると、約10倍の5億円になる。

そう、5億円――。30秒にも満たない動画が5億円である。ハリウッド映画で歴代トップの制作費と言われる「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」ですら、341億円である。同映画は169分間だから――秒単価で言えば、ダントツでザプルーダー・フィルムが世界一高い動画になる。

視聴者提供から記名へ

1つ提案。
まず、「視聴者提供」というクレジットをやめたらどうだろう。
そもそも、外出先で決定的瞬間に出会えた人物を「視聴者」呼ばわりするのに違和感がある。彼らは家から外に出たからこそ、そのスクープに出会えたのだ。
だから、きちんと実名を表記するか、もしくはSNSなどで用いるハンドルネームを記したらどうだろう。「映像提供・×××子」とか。何より、その映像の著作権は撮影者本人にあるから、本来なら記名がスジである。

僕は――実は報酬のあるなしより、この“名前表記”こそが、撮影者たちがゴネる元凶になっていると思う。前述のJFK暗殺のフィルムは、今でも「ザプルーダー・フィルム」と呼ばれ、ちゃんと撮影者へのリスペクトが感じられる。日本でも、スマホのスクープ動画は「山本スクープ」とか「みゆき動画」とか呼ばれるべきではないだろうか――。

報酬はYouTube方式で

そして2つ目――報酬について。
これについては、僕は額面云々より、ルールを明確化すべきだと思う。テレビ局からの打診にゴネている撮影者は、普段、テレビ局がニュース素材を外部に貸し出す際にお金をもらっている理不尽さに怒っているのであって、額面云々で腹を立てているワケじゃない。

例えば、YouTube方式はどうだろう。今やテレビ局はニュースをネットでも配信しているので、単純にその再生回数に単価をかけて、報酬を支払う。民放連あたりで話し合って、一律のルールを決めれば、僕は容易に解決する問題だと思う。仮に1再生0.1円とすれば、50万再生で5万円。額面として十分だと思うし、何より大事なのはルールが明確であること。そして撮影者の名前が映像にクレジットされることである。

ニュース新時代へ

僕は、ニュースの未来は明るいと思う。
一億総カメラマンが日々、スクープ映像を安定して量産し、それをテレビ局がルールに基づいて借用して、撮影者の名前を表記し、再生回数に従って報酬を支払う――。

いつの日か、そんな良好な関係が構築されたら、もはやニュースはテレビ局からの一方通行の代物ではなく、お茶の間との共同作業になる。テレビは真のインタラクティブ・メディアへと進化し、若者のテレビ離れにもブレーキがかかるかもしれない。何せ、若者こそスマホの使い手。明日のスクープ映像の名カメラマンになるかもしれないのだ。

そう、明日のスクープを撮るのは、あなたかもしれない。
【文:指南役】

執筆者プロフィール
メディアプランナー。代表・草場滋。フジテレビ『逃走中』の企画原案ほか、映画『バブルへGO‼タイムマシンはドラム式』(監督・馬場康夫)の原作協力、『テレビは余命7年』(大和書房)、『情報は集めるな!』(マガジンハウス)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社新書)などメディアを横断して活動中。「日経エンタテインメント!」誌に連載中の「テレビ証券」は18年目。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。
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