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【連載】放送作家・鈴木しげきの「テレビを読む」

話題のドキュメント『わが子を看取る』がYouTubeにアップされたワケとは

2021.02.08

鈴木しげき
話題のドキュメント『わが子を看取る』がYouTubeにアップされたワケとは
©ytv
YouTubeで717万回再生(2021年2月現在)されている話題の動画がある。『わが子を看取る』だ。がんと闘う4歳の女の子とその家族を追ったテレビドキュメンタリーで、2018年に夕方のニュース番組やNNNドキュメント・YTVドキュメントで放送され、大きな反響を呼んだ「家族と命の記録」だ。

余命3か月――。神戸にある“おうち診療所”を舞台に、取材班は、家族の協力を得て幼い子の看取りまでの葛藤と苦悩、その果ての決断をリアルに記録している。なぜこのテレビドキュメンタリーが今、YouTubeにアップされたのか? そこにはコロナの影響があるという。

本編の取材ディレクターである横須賀ゆきの記者(読売テレビ)に話を聞いてみた。

【取材・文/鈴木しげき】

わが子を看取る

――2018年に放送されたものがなぜ今YouTubeに?

横須賀 : コロナの感染拡大によって、病気と闘う子どもたちへの影響が出ています。高齢者に比べて子どもの患者は絶対数が少ないので、どうしても後回しになってしまいがちな現実があります。AYA世代(思春期~30代)の病棟で一時的な閉鎖があったり、面会の制限も厳しくなったり。

子どもたちにとって家族の存在は“薬”ですし、病院や施設でできた友だちとの“絆”は病に立ち向かう上で不可欠なものです。それらが制限されると孤独になってしまい、立ち向かう気力がなくなってしまいます。

小児医療に携わる医師や看護師の方からも危惧する声が出ていて、私としては何か広く訴える方法はないだろうかと思っていました。それで、家族との生活を描いた本作をYouTubeにアップしてみたいと考えました。

――局内ではどんな調整を?

横須賀 : 読売テレビでは以前から、小児医療の充実を目指して、現場を取材するシリーズを放送してきたので、それを手がけてきた同僚の記者に声をかけました。様々な視点から描いた作品を発信することが重要だと考えました。

そこでデジタル戦略部という部署に相談したら、「だったら『♯小さな命を見つめて』として順次あげていこう」という展開になりました。『わが子を看取る』はその中のひとつです。

――YouTubeでの反響はとても大きいですね。

横須賀 : 本当に驚きました。患者のご家族や医療関係者に温かい想いを寄せてくださるコメントが多く、感無量です。ほかにも「何気ない日常や家族を大切にしたい」「生きる力になった」、また、これから医療系の仕事を目指す学生さんにも届いたようで「こういう医療を目指したい」との声がたくさんあがっていて、嬉しくなりました。

やはり、地上波とネットでは視聴している年齢層に違いがあるようで、若い世代に届いている点で、発信できる媒体が増えたのは可能性の広がりを感じます。

――コメント欄にさまざまな感想や意見が寄せられますが、不安はありませんでしたか?

横須賀 : 正直、最初アップする際はありました。ダイレクトなコメントは時に人を傷つけるものも含まれるリスクがありますから。けど、ひとつひとつ読ませていただきましたが、本当に温かくて感謝しかありません。取材に協力いただいたご家族や、医療施設のみなさんの励みにもなっていると伺って、YouTubeにあげてよかったとホッとしています。
横須賀ゆきの記者
©ytv

横須賀ゆきの記者

――当初、この取材は何をきっかけに始まったんですか?

横須賀 : キャスター時代に産科・小児科医療が抱える課題の取材を始めてから日本の医療の現状を取材する中で、“おうち診療所”――正式には「チャイルド・ケモ・ハウス」と言いますが、その施設を立ち上げた楠木重範医師と、がんと闘う米田一華ちゃん(4歳)のご家族と出会ったことがきっかけです。

一華ちゃんはずっと大病院で治療を受けてきて、家族バラバラの生活をしなければなりませんでした。医学の進歩で小児がんが治る確率はあがっていますが、その分、闘病期間が長くなる中で、どうしても感染症対策や病院の管理運営上、親や兄弟姉妹との面会は制限されてしまいます。その環境下で、子どもたちは、痛みや寂しさに泣きながら必死に耐えて病と闘っています。

その環境を変えたいと誕生したのが「チャイルド・ケモ・ハウス」で、大病院とおうちの中間に位置する診療所とイメージしていただければと思います。

――実際に取材されて“おうち診療所”はどんなところでしたか?

横須賀 : この診療所では、手術などの高度な医療は受けられませんが、感染症対策に力を入れて、子どもたちは家族と一緒に暮らしながら治療を受けることができます。お母さんお父さんがつくった料理を食べて、一緒にお風呂に入り、一緒に眠る。それをサポートする医師や看護師は、24時間体制で患者だけでなく家族ごと支えています。

こうした環境があることで、兄弟姉妹や友だちと遊んで成長できるので、子どもたちに笑顔が戻って、親御さんにも余裕が生まれるんです。

一華ちゃんも広いプレイルームで妹さんと一緒にかけっこしたり、遊んだり。おかげで体力もついて、身体的にも精神的にも元気に過ごす時間が増えましたね。
おうちのような病室
©ytv

おうちのような病室

――このような施設はまだまだ少ないですよね。

横須賀 : 少しずつ増えてきてはいますが、不足しています。手厚いサポートをするということは、つまりマンパワーもコストもかかります。

加えて、こうした施設は高度医療を行う大病院との連携が必須で、医療関係者はもちろん、社会の理解や協力なくしては進みません。例えば、2015年に、この診療所の“おうち”のような空間が“病室”として公に認められモデルケースとなりましたが、この際も世間の方々の後押しが大きかったです。子どもたちが孤独や不安を感じないよう、子どもらしく成長できるように、取材活動を続け発信していくことが大切だと考えています。

――この取材で心がけたことはありますか。

横須賀 : 一華ちゃんのご家族には「長期入院する子どもたちの環境改善」や「がんや難病の子どもへの偏見をなくしたい」そんな想いがあって、取材を受けてくださることになりました。ですから、私たちの取材によってご家族で一緒に過ごす貴重な時間を奪ってはならないと心に留めて、「途中で少しでもご負担に感じることがあれば遠慮なくおっしゃってください。取材を控えます」とお伝えしました。その上で医師・看護師の方々とも話し合いを重ね、コンセンサスをはかりながら進めたつもりです。

「小児医療の充実」をテーマに10年以上一緒に取り組んでその機微を理解してくれているカメラマンやエディターの存在も大きいです。

――一華ちゃんのご家族はYouTubeへのアップに対してどのようにおっしゃっていますか?

横須賀 :「一華にまた会えて嬉しい」と。「一華を失ったことは本当に辛く苦しく、思いを馳せるばかりですが、一緒に暮らすことができた日々を大切にこれからも一華と一緒に家族で生きていきます」そうおっしゃって下さっています。ごきょうだいも、一華ちゃんとずっと一緒にいると思っているそうです。
©ytv

――映像が残り、いつでも観られる。反響の声も届きやすくなった。テレビの特集などのつくり方に変化はありますか?

横須賀 : 視聴者に事実を正確に分かりやすく伝える。そのために質の高い映像取材と構成を目指す。このことに変わりはありませんが、より広い世界へ発信できること、加えて繰り返し視聴いただけること、それは私たち制作者にとって、お伝えしたいことをより多くの方に届けられる可能性が広がります。細部までこだわって制作しているので、テレビ放送とネット配信両方で動画をじっくりご覧いただきたいです。

今回のPV数とコメント数には本当に驚いています。中でも「チャイルド・ケモ・ハウス」にたくさんの方から寄付が寄せられていると伺って、さらに嬉しく思いました。

みなさんが丁寧にコメントを寄せてくださることは、制作者にとっても大きな励みになります。同時に、新たな制作のヒントにも。今後も、報道部の仲間たちが制作した動画がアップされていきますので、ぜひご覧ください。
<横須賀ゆきの プロフィール>
©ytv

<横須賀ゆきの プロフィール>

読売テレビ『ニューススクランブル』元キャスター、神戸支局長、政治行政・大阪府警キャップを経て、現在、取材陣頭兼災害デスク。10年以上小児医療の充実を目指す特集やドキュメンタリーを制作。2019年『家族の絆を守る小児医療体制の充実』で民間放送連盟賞「放送と公共性」部門で最優秀受賞。
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