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放送作家・鈴木しげきの「テレビを読む」

喜劇王・志村けんのテレビ制作者としての凄味とは

鈴木しげき 2020.09.24

喜劇王・志村けんのテレビ制作者としての凄味とは
©ytv
志村けんさんが他界したことはいまだに信じられない。
私は志村さんの番組で10年以上コントを書いてきました。『バカ殿様』での時代物コント、深夜枠の家族コメディーやショートコントなど何本書いたかは自分でもわかりませんが、とても濃密な仕事だったと記憶しています。なにせ、会議にあの志村けんがいるのです。コントの王様に「こんなコント考えてきたのですが、どうでしょう?」と見せるわけですから、これはもう緊張以外の何物でもありません。ホントに吐きそうでした(笑)。そしてそれは最後まで変わることなく、慣れることはありませんでした。それほどコントの現場の志村さんには凄味が漂っていたのです。

番組の中心にいたのが志村けんだった

私が担当していたのは、優香さんやダチョウ倶楽部らを共演者にしていた頃のコントです。志村さんに最初に会ったのは25年くらい前。すでに志村さんに対する世間の評価は「ドキュメント的な笑いやトークが全盛期でもコントにこだわる職人」といった感じで、ご本人もその自覚は大変強くお持ちだったと思います。

志村さんとは旅番組のシリーズでもご一緒しましたが、こちらの打ち合わせでは少しリラックスした雰囲気があり、志村さん自身も旅を楽しんでいる感じが見受けられました。地方の人たちとふれあうのがお好きでしたからね。しかし、コント番組で会う志村さんはやっぱり“重い”のです。

千鳥の大悟さんが「普段の志村さんは声が小さくて何を言ってるのかわからない時がある」とあちこちのテレビで発言していますが、これはもう“志村さんあるある”で交流のあった方たちは共感しまくりだと思います。

コント会議でも志村さんが構想しているコントを語りだす時があり、そんな時は我々スタッフは一言も聞き逃すまいと耳をすませるのですが、やはり「え、今、なんて言ったんですか!?」と聞き取れない時がありました。もちろん「もう一回お願いします」なんてことは言えるはずはなく、会議後に「あそこの部分、なんて言ってたの?」と他のスタッフに確認しても「ごめん、聞き取れなかった」なんてことがしょっちゅうでした。

それは志村さんから出題された穴埋め問題のようでした。こちらで補って台本にしていくしかありません。志村けんならどう考えるか? をこちらも考える。正解すればホッと胸を撫でおろし、違っていれば「こんなこと言ってないよ!」と叱られる。コント番組というのは、それくらいワントップにスタッフが染まっていかなきゃ上手くいかないものだと教えられました。

と、ここまで読んでくださって気づかれたと思います。コントにおいて志村さんは作・演出・主演すべてをこなしていることを。会議ではコントを考え、衣装・セット・小道具などをチェックし、収録ではカメラさん音声さんに指示も出す。そうなんです、志村けんさんが喜劇王であることは言うまでもありませんが、同時に偉大なテレビマンでもあったのです。

テレビスタッフの力を集結させるテレビコントというジャンル

初めて『バカ殿様』のスタジオセットを見た時は驚きました。お城や時代物の建物がドーンドーンドーンと建っているのです。そしてそのどれもがとても丁寧に作られていて、関わる多くのスタッフがいっさい手を抜いていないのがわかりました。周到に準備を重ね、莫大な予算をかけてセットを組んだところで、いよいよ志村けんが登場し、躍動とともに爆笑を生み出す。これは覚悟がなければできない仕事だと思いました。
もちろん、スタジオの志村さんはあの白塗りの顔ですよ(笑)。けど凄味にあふれていましたね。

志村さんのコントは、スタッフの力を集結させたうえで最大限に発揮されるタイプのコントだと思います。私は、志村さんの番組でコントを書く以前、若手芸人がライブをする劇場の座付き作家をしていました。そこでのコントというのはセットなどあるはずはなく、芸人さんが“レジがあるテイ”でコンビニ店員を演じたり、“車があるテイ”でドライブデートを演じたりするものです。しかし志村さんのところでコントを考えるというのはこれとはまったく違ったものでした。それは「テレビとは何か?」を追究する作業だったとも言えます。

テレビマンとしての経験値の高さ

「俺はこういうのやらないから」
あるコント番組で集められた作家たちのコント案を読んで、突然、志村さんが言ったセリフです。作家の中には初めて志村さんにコントを提案する人もいました。その人の案を指して「俺はこういうのやらない」と言ったのです。それは、いきなり変な状況から始まる発想一発で進むコントでした。読んでみたら面白い。けど、やらないという。

志村さんは一貫して、コントは誰でも理解できる状況から始めるべきだと考えていたように思います。そこからどんどんおかしくなって、ありえないことが起きるのは構わない。でも最初から変なのはイヤだ――。

それはきっと子どもであろうがお年寄りであろうが、どんな世代の視聴者も引き入れるためにそうしていたんだと思います。『全員集合』『ドリフ大爆笑』『加トケン』『だいじょうだぁ』と高視聴率番組をつくってきたコメディアンです。日本中を笑わせるスケール感をごく自然にお持ちでした。
最近のテレビは視聴ターゲットを絞り、その層にウケていればOKとなりつつありますが、とはいえテレビ、家族で楽しめるような番組はずっとあってほしいと思います。

意外かもしれませんが、志村さんはあまり笑いのないコントも意図的に入れていました。その理由は推察するしかありませんが、きっとこんなことかと思います。面白いコントだけを厳選して連発していっても、それは面白さの高さが一定になってしまうだけ。ならば、その合間に「あれ? こんなのも入るんだ?」という変化球を挟む。すると、その後の面白さがまた新鮮に感じられる。

テレビというのは、レギュラーなら毎週放送しなければなりません。特にバラエティーは調子がよければ続き、最終回は設定されていません。となると、いかに飽きさせないかがポイントです。志村さんくらいになってくるとそれを乗り切る“あの手この手”を無限に持っていました。

また、マンネリとトレンドのバランスも絶妙だったと思います。テレビというのは習慣性で観ることが多いので、ある程度のマンネリは安心感になります。が、それだけだと「またコレかよー」となるので、トレンドを入れる。よく知られたことですが志村さんは若い女性が好きで、またよくモテましたから、その交流から流行りものは熟知していらっしゃいましたね。SNSなどイチ早く使いこなされていました。

あと、女性のかわいらしさをよくご存知な方でした。コントを演じる以上、アイドルや女優さんでも変なメイクをしたり、大量の水をかぶったりするわけですが、どこかキュートに映るように設定していたと思います。他では見られないその人の魅力を引き出すのが上手な方でした。
また、そういう笑いは自分ではできないので、ゲストにやってもらうことで笑いの幅を広くしていたのかもしれません。

挙げればキリはないのですが、志村さんの中に蓄積されたテレビのノウハウは膨大で、私などが理解できたのはほんの一部に過ぎないでしょう。ただハッキリと言えることは、志村さんはテレビを知り尽くしていたということです。

テレビドラマでの存在感!そして――

「俳優業に興味がない」
志村さんはずっとこう言ってきました。ドリフターズのリーダー・いかりや長介さんが俳優として新境地を開き、話題を集めていた頃は、あちこちでそんな質問を受けたのでしょう。ですからピシャリとそう答えていました。けど、これは額面通りに受け取ってはいけないかなと個人的には思っています。世間は、志村さんといかりやさんの関係をよく知っていますからね。もう何年も顔をあわせていないとか(あくまで当時の噂です)。ですから先の発言は、世間に話題を提供することを意識した、志村さん流のリップサービスでは?

むしろ根底では、尊敬するいかりやさんが俳優として活躍されているなら、自分もタイミングが来たらいかりやさん以上にいい仕事をしたい……そんなふうに思われていたのではないかと想像します。勝手な推測ですが。

志村さんはトーク番組にも出ないと言われていましたが、ある時期からゲストとして顔を出すようになり、あっいう間にトーク番組にも対応していきましたよね。その後、素のパーソナリティー性を活かして『天才!志村どうぶつ園』をヒットさせたのも対応能力の高さを感じます。
俳優業、やらないわけがないと思うのです。
ですから朝ドラに出ると知った時は「待ってました!」と大興奮しました。
それなのに、です。

今、テレビはソーシャルディスタンスをとり、アクリル板が立ち、スタジオのキャスト数が決められているのでリモートでやりとりをしている。そんなテレビの状況を志村さんが見たら、どんなことを考えるだろう。きっと、この状況でも笑いをつくりだそうとしたんだと思います。

志村さんは世界に笑いを届け、同時にテレビを面白くするヒントもふりまいてくださった。私はわずか10数年ですが、ご一緒できてたくさんのヒントをいただけたと思っています。
志村けんならどう考えるか?
この問いをこれからもずっと考えていくつもりです。

【文:鈴木 しげき】

執筆者プロフィール
放送作家として『志村けんのバカ殿様』『ダウンタウンDX』などを担当。また脚本家として映画『ブルーハーツが聴こえる』連ドラ『黒猫、ときどき花屋』などを執筆。放送作家&ライター集団『リーゼント』主宰。
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