ドキュメント『こどもホスピス~娘と生きる最期の時間~』がコロナ禍での家族のつながりを問う

2021.03.10

ドキュメント『こどもホスピス~娘と生きる最期の時間~』がコロナ禍での家族のつながりを問う
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コロナ禍の今、YouTubeで580万回再生(2021年3月現在)されている動画がある。『こどもホスピス~娘と生きる最期の時間~』だ。

こどもホスピスとは終末期の病気の子どもの緩和ケアなどを行う施設で、一般的に小児病棟では感染症の予防などから幼い兄弟姉妹の面会を禁止しているが、こどもホスピスではそれが許されている。また、親御さんが手料理をふるまうことも可能なのだ。

そんなホスピスで、小児がんを患う6歳の女の子とその家族の日々を追ったのがこの動画だ。もともとは2013年にテレビ放送されたもの。それが今、YouTubeにアップされたのは、コロナ禍で家族とはどんな存在なのかを改めて問いかけてみたかったからだという。

本編の取材ディレクターである指宿文さん(読売テレビ)に話を聞いてみた。

【企画 : 藤生朋子/取材・文 : 鈴木しげき】

こどもホスピス~娘と生きる最期の時間~

――取材を通して、家族とはどんな存在だと感じましたか?

指宿 : この取材は2012年に始めました。淀川のこどもホスピスは当時、全国初の施設で、今はそういった施設が全国に広がっています。動画に出てくる葵ちゃん(6歳)は病院で余命宣告を受けてから、こどもホスピスに移り、そこで過ごすことで4ケ月ほど長く生きることができました。

家族と過ごすことの喜び、穏やかに暮らせる安心感。そういったものを引き出すチカラを家族は持っているんじゃないかと感じました。

当時、お母さんは葵ちゃんに付き添って過ごすことはできても、お父さんは仕事がありますし、ご兄弟は学校に通っていたので地元での生活というのも避けては通れません。そんな中で、お父さんの仕事のお休みや、お兄ちゃんの学校がない時に、安心して家族みんなで過ごせる。これは、こどもホスピスならではだと思いました。
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――今、YouTubeにあげることについてご家族にはどんな説明を?

指宿 : コロナ禍ということで 小児医療の現場で、家族と過ごせないお子さんのケースが増えています。葵ちゃんと同じような状況が生まれている中で、葵ちゃんの様子に励まされる人や、そこから何かを感じ取ってくださる人がいらっしゃるかもしれないと考えました。

そこで、家族が一緒に過ごすことがどれだけ病気の子供にとって力になるのか、葵ちゃんのご家族の姿を通してもう一度知ってもらいたいと思うのですが、いかがですか? と問い合わせをさせていただきました。

――ご家族はなんと?

指宿 : お母さんから「どなたかのお役に立てるのではあれば」とご了承いただきました。今回はYouTubeなので直接コメントが寄せられるわけですけど、そこも了承いただけて感謝しています。

当初はどこか否定的なコメントが出ないかと不安でしたが、「励まされた」とか「医療関係の仕事に就きたいので勉強を頑張ろうと思った」とか、いろんなお立場で前向きなコメントを寄せていただけて、本当にうれしく思っています。

こどもホスピスの鍋谷まこと院長も「学生さんも見てくださっているんですか。それはいいことですね」とおっしゃってくださっています。
指宿文記者
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指宿文記者

――そもそも、この取材は何をきっかけに始まったものなんですか?

指宿 : 全国初の施設だったので、開院の時から鍋谷院長に取材をお願いしていました。とてもデリケートな取材になるのはわかっていたので、無理かもしれないとは思っていたのですが、ご了承いただける家族がいらっしゃるかも、と連絡があり、お会いして話を進めさせていただきました。

実際の取材では、できる限り、葵ちゃんとご家族の時間を邪魔したくない。何かを変えてしまうとか、空気を変えてしまうとか、流れを変えてしまうとか、そういったことはしたくなかったので、私たちはできる限り“無”になりきることを心がけました。

ご家族の時間にそっとカメラが寄り添う。そのことをカメラマンと一緒に考えて、あの場にいました。

――こどもホスピスのお医者さんや看護師の方たちの大変さはどう感じましたか?

指宿 : 大変さを出さないようにしていらしたと思います。24時間つきっきりで、どんなタイミングで容体が変化するかわからない中、その異変に気付くのはやはりプロの方たちです。

大変なのはもちろんですが、普段、葵ちゃんと接する時は、やさしいお姉さんだったり、お母さんに近い親戚のような存在だったり、大変さを表に出さないというのが大変なんだろうと思いました。ご家族の不安に常に寄り添っていらっしゃって、その配慮や気遣いはすごいものがあると感じました。

――こどもホスピスではご家族同士で交流があるんですね。

指宿 : 普通の病院ですと、余命宣告を受けた後でも、治療を受けてこれから元気になっていく子と同じ病棟にいなければなりません。隣のベッドで寝ている子がこれからも生きていくわけです。そういった子のお母さんと自分の気持ちが一緒になれるかというと、やはりつらい部分はあったと葵ちゃんのお母さんがおっしゃっていました。

そんな中、余命宣告されている状況を理解してくれるお母さんがいるのは支えになりますし、励みにもなります。そこで、ホスピスで出会ったご家族同士で交流が持たれています。すごく強いつながりになっていると感じました。
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――家族のチカラってすごいですね!

指宿 : 病気を抱えた子どもにとって家族がどれだけ大事なのか、自分なりに想像はできていたつもりですが、それがより強く感じられるようになったと思います。

自分の子どもの時もそうですけど、ちょっとした病気の時に背中やお腹をさする、手を握る、家族がそばにいるだけでとても安心したり、落ち着いたりする。取材を通じて家族のチカラをより感じることができました。

どんなにつらくても家族の温かさがあれば頑張ろうとしますよね。特に小さい子にはそれが強くあるんだと実感しました。

――ネットでの反響が大きいですね。

指宿 : 8年前の現実ですが、今の人にも届く取材をさせていただけたことはありがたいことですし、なにより葵ちゃんとご家族には今、改めて感謝申し上げます。
<指宿文(いぶすきあや)プロフィール>
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<指宿文(いぶすきあや)プロフィール>

2000年に読売テレビ入社。報道記者として神戸支局、大阪府警で取材を行う傍らでドキュメントを制作。2児の母。
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