読売テレビがお届けする、テレビを楽しむ読み物メディア

『部長 風花凜子の恋』脚本・坪田文に聞く -『コウノドリ』『プリキュア』…話題作を次々手掛ける

2018.07.06

7月5日、スペシャルドラマ『部長 風花凜子の恋』前編が放送されました。同作は、「島耕作シリーズ35周年のスピンオフ企画」である上に、「りょう 7年ぶりにドラマ主演」が5月10日のYahoo!トップにピックアップされるなど話題性十分。

さらに、脚本をドラマ『コウノドリ』、映画『家に帰ると妻が必ず死んだフリをしています。』、アニメ『プリキュア』シリーズらの実績を持つ坪田文さんが手がけたことが、業界内で話題となっていました。

ドラマ解説者として、作品・脚本家の両方に興味を抱いた私は、放送前に撮影現場を訪れ、福田浩之プロデューサー同席のもとにインタビューをさせてもらうことになりました。その内容は、後編の見どころから、現在の連ドラ事情、「若手脚本家が少ない」という問題点まで、幅広いものになったのです。

【聞き手・文:木村 隆志(テレビ・ドラマ解説者)】

凜子も島耕作も正義の味方ではない

前編では、島耕作が会長を務める大手電機メーカー『テコット』で執行役員候補に登り詰めた女性部長・風花凜子(りょう)が一大プロジェクトのリーダーに就任。ライバル・速水貴文(丸山智己)の罠や、部下・吉田俊也(竜星涼)の危機に向き合う姿が描かれました。

なかでも凜子を象徴するエピソードとして坪田さんが挙げたのは、須田洋二郎(川原和久)のパワハラに苦しむ俊也が無断欠勤してしまったあと、会社に出勤してきたシーン。凜子は俊也を厳しく追い込む須田に、「部下に仕事でのミスを指摘するのは必要な事。けれど、人格や人生を否定するのは私たちの仕事じゃない」「それはパワハラです。ううん。そんな言葉で包んでは駄目ね。須田さんがやってるのは言葉の暴力よ」と言い切りました。

さらに凜子は、「今の状況を作ってしまったのは私の不甲斐なさです。みんな、ごめんなさい」と頭を下げつつ、部屋を出ていった須田に穏やかな言葉をかけて寄り添いました。そこには「他人に厳しい」、最近の風潮に対する坪田さんの思いがあったのです。

坪田「このところ、社会全体が“総必殺仕事人”みたいになっているじゃないですか。『ちょっとそれは疲れるな』『もっとやわらかく生きようよ』と感じていたんです。だから、凜子は心のやわらかい人にして、きちんと理論的に話しながら、優しさも見せるシーンを入れました」
 (1177)

風花凜子(りょう)が率いるプロジェクトチームは、様々な問題に直面する。
視聴者は単純に“凜子=正義の味方”と見がちですが、坪田さんに言わせると「そうではない」とのこと。

坪田「凜子も島耕作も正義の味方というより、『一人の女や男だからいいんじゃないかな』と思っています。正義の味方とヒーローは違う気がしていて、二人とも『正しい、正しくない』で判断しないと思うんですよね。心に寄り添い、適切に処置するというか」

“正義の味方ではないヒーロー”は、凜子だけではなく、坪田さんが手がける他作品のキャラクターにも通じるようです。

坪田「『コウノドリ』のサクラ先生もプリキュアも同じで、誰かを断ずることは決して魅力的とは思わないので、できるだけやりたくないんですよ。それよりも、『きちんと心の揺れが合って、失敗する人を描きたい』と思っています。だから凜子は失敗もしますし、ドラマのテーマである『目の前にいる人を大切にする』というシーンは後編もたくさんあるので楽しみにしていてください」

実際、後編の台本を読ませてもらいましたが、前編と同じように、勧善懲悪で視聴者をスカッとさせるだけでなく、その後にハートフルなシーンがありました。
 (1173)

「部長 風花凜子の恋」脚本を担当した坪田文さん

『おっさんずラブ』に通じるリアリティ

悪を成敗することのみが目的のドラマが多い中、当作のベクトルは明らかに異なります。かつて坪田さんは、『半沢直樹』で脚本協力として悪役の造形も手伝っていました。しかし、今作の悪は、それらのキャラクターとは大きく異なるようです。

坪田「本当に悪い人もいると思うんですけど、『須田はそうじゃないのかな』と思いますし、『凜子が人を罰するのかな?』という疑問もありました。パワハラをした須田が退職や左遷に追い込まれて『やったやった!』と喜ぶような話にしたくなかったし、そういうヒロインにしたくなかったんです」

福田「今、時代劇で言う悪代官役って、かつてのように自分のことを悪代官だと思っていないですし、人間として描くのが難しくなってきています」

坪田「『人間多面性だな』と思います。悪代官だって、『家では奥さんに優しい』とか、あるかもしれないですよね。私は『おっさんずラブ』が好きだったんですけど、何がいいかって、みんな真剣で悪い人がいないじゃないですか。そのほうがリアリティはあると思うし、応援したくなりますよね」

福田「けっきょく今回のドラマは前後編ともに、『今の社会にあるハラスメント問題に通じるのかな』と思うんですよ」

坪田「ドラマを見た人が、『もしかしたら俺がやっていることってパワハラ?』と気づいたり、『俺も変われるのかな』とか『気をつけよう』と感じたり。あるいは、パワハラを受けている人も、『あなたの人格が否定されているわけではないし、あなたの問題じゃないんだよ』と気づくきっかけになったらと思いました。パワハラは、あくまで須田個人の問題ですから」

前編では、そのパワハラを受ける俊也の描写はリアリティたっぷり。坪田さんいわく「モデルの男性がいる」ようです。

坪田「俊也のセリフは、モデルの男性に聞いて書きましたし、『今まで上司に言われて嫌なことだったリスト』を作るなど綿密に取材しました(笑)。後編もセクハラ問題が深刻化していきますが、それぞれのキャラクターに救いはあります。深夜の放送なので、『ビールを飲みながら見て元気になれるものがいいな』と思って書きました。安心して見てください」

『島耕作』『コウノドリ』原作者の共通点

2人に話を聞いていて、一つ驚かされたことがありました。当作は「弘兼憲史さんの漫画と同時の制作スタート」という異例の制作体制であり、限りなくオリジナル脚本に近かったのです。

福田「原作というよりコラボレーションだと思っています。通常のように、漫画を読んだ上で作る形ではないですし、主人公の名前が一緒というだけで、キャラクターも違いますから」

坪田「弘兼先生は人間として大きいんですよ。こちらがプロット(あらすじ)を出すときも、『何か言われるかな……』と思っていたら、『面白いです。島耕作になってます』と言ってくださいました。お墨付きをいただけたことで自信が持てましたし、本当に懐が広い方で、何度確認の質問をしても『坪田さんの好きなように』と(笑)」
 (1174)

「島耕作シリーズ」原作者の弘兼憲史さんと
では、同じ漫画原作の『コウノドリ』はどうだったのでしょうか?

坪田「ヒット作ですし、プレッシャーがすごかったんですけど、鈴木ユウ先生が『自由に書いていいよ』と優しかったんです。原作も連載中で、鈴木先生と同時に書いていく話数もあったんですけど、『今日からオレのことはユウちゃんでいい。“つぼちゃん、ユウちゃん”でいこう』と言ってくださった事もあって。その言葉が嬉しくて、とても励まされました」

『島耕作』シリーズと『コウノドリ』が多くの人々から支持されているのは、原作者の懐の深さによるものかもしれません。もちろん、弘兼憲史さんや鈴木ユウさんのように、すべての原作者がドラマ化や脚本家にこれほど理解があるわけではないでしょう。その点、坪田さんは自分なりの対応法を持っていました。

坪田「原作の先生とは、なるべく心を近づけられる様に頑張ろうとは思っています。脚本家が『ドラマはドラマだから』と思ってしまうとうまくいかないし、『自分の作品をどう扱われてしまうのだろう』と不安ですよね。私は原作を大切にしつつ、変えるところは『どう思いますか?』と尋ねるなど、当たり前のことをきちんとやるように心がけています」

10周年でも、まだ「若手脚本家」の現実

現在ドラマの脚本家は大半が40代以上であり、「プライムタイム(19~23時)の平均年齢は50代」とも言われています。30代の坪田さんに、この現状について尋ねると、思った以上のリアクションがありました。

坪田「それが一番言いたいことかもしれません。この先、脚本家がいなくなったらヤバイと思いますし、『なりたい若い子がいたら、ツイッターでもいいから話しかけてくれ』と思うくらいです。私は24歳から脚本をやっていて、今年10周年なんですけど、いつまでたっても若手なんですよ(笑)」

福田「若手脚本家の起用には、『企画が通るか、通らないか』という現実があるのだと思います。プロデューサーとしては起用したいけど、『企画を通すために戦って通せるか』どうか。『本当にやりたいものに挑戦して、そのためのプレゼンができるか』が大事なのかもしれません」

坪田「劇団の人は、『自分のやりたいことをやる』というのが基本的に多いと思うんです。が、ドラマはプロデューサーのやりたいことがあって、脚本家は『それを面白くしよう』と思えるかどうかが大切かなと思います。気持ちがないのに受けてしまうと、たいてい不幸なことになるので、そういう人は監督兼脚本で自分の世界を表現した方がいい気はしますね。私は学生のころから映像志向が強かったですし、皆で作品を作るのが好きだったので。そういう人は向いているかな?と思いますね」
 (1175)

読売テレビの福田浩之プロデューサー(左)と坪田さん

日テレ系ヒット作に通じる物語

今回のインタビューで、もう1つ坪田さんが声を大にしていたのは、脚本家の活動ジャンル。

坪田「今、『映画、ドラマ、アニメを書く』という人はあまりいない気がするので、『もっとジャンル間がシームレスになったらいいな』と感じています。舞台と映像は少し違いを感じますが、映像はどのジャンルもそこまで変わらないので、脚本家の行き来はもっとあっていいと思うんですよ。たとえば、ドラマの脚本家が子どもたちに上質なものを見せてあげてほしいし、アニメの脚本家にも面白いアイディアを持っている人が大勢いますから」

最後の質問は、ズバリ『部長 風花凜子の恋』の連ドラ化。ヒロインが仕事とプライベートに奮闘する物語は、『働きマン』『anego』『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』『正義のセ』など、多くの日本テレビ系連ドラで描かれてきた歴史がありますが、坪田さんと福田さんはどう考えているのでしょうか。

坪田「私としては、ぜひやりたいです。凜子だけでなく周囲のキャラクターも好きで、弘兼先生も好きなので、一緒に作れるとうれしいです。また同じメンバーで作りたいと思っているので、よろしくお願いします」

福田「ドラマの内容としては、連ドラとしてもいいんですよね。いろいろ考えていけたら、と思っています」

坪田「だからTVerでいいので、ぜひ見てほしいですね。前編を見ていない人も、『テレビをつけるのが面倒くさい』と言う人も見られますから」

ドラマ解説者として、地上波すべての連ドラを視聴している立場から言わせていただくと……公私ともに魅力あふれるヒロイン、人間味あふれる周囲のキャラ、職場の身近な問題、リアルとエンタメのバランスなど、当作はお世辞抜きで「連ドラにステップアップできるコンテンツ」と感じました。

前編の最後で、恋人・高澤光太郎(平山浩行)から衝撃の事実を告げられた凜子。さらに後編では、部下の箕輪ゆりかがセクハラで窮地に追い込まれ、凜子自身も大ピンチを迎えます。どんな言葉と行動で解決していくのか、後編の放送は7月12日、注目してみてはいかがでしょうか。
【プロフィール】
坪田文 脚本家。1983年7月7日生まれ、岡山県出身。ドラマ、映画、アニメ、舞台とジャンルを問わず手掛ける。主な作品に、「映画 家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」(18)「コウノドリ」(15/TBS)とその第2シリーズ(17/TBS)。大人気シリーズの「HUGっと!プリキュア」(18/ABC/EX)、舞台「銀河鉄道999 ~GALAXY OPERA~ 」などがある。

木村隆志 コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(2台での同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。
リンク
この記事を共有する