【気象予報士という職業】蓬莱大介氏の場合【後編】 「3分の天気予報に準備は4時間かかります」

2022.01.31

【気象予報士という職業】蓬莱大介氏の場合【後編】 「3分の天気予報に準備は4時間かかります」
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大雪、台風、地震など、ますます気象情報の重要性が高まる今、気象予報士とお天気キャスターという仕事について改めて聞く蓬莱大介氏インタビュー。

気象予報士を目指したきっかけや気象予報士試験の実際などについて語っていただいた前編に引き続き、この後編では、テレビで気象情報を伝える苦労や楽しさ、また理想とする天気予報についても聞いた。

【取材・文 井出尚志】
--初めてのテレビ出演はいつ、何という番組だったんですか。

最初は、まだ読売テレビのお天気キャスターに就任する前の2010年9月です。裏方の仕事をしている時に『朝生ワイド す・またん!』という番組に呼ばれて、その時に接近していた台風の解説をしました。

--いかがでしたか。

その時の司会が辛坊治郎さんと森たけしさんだったんですけど、聞かれたことに頭が真っ白になってしまって。辛坊さんが「こうだよね」みたいなことをおっしゃったんですけど、「…ちょっと何を言っているかわかんないです」とサンドウィッチマンさんの漫才のネタをリアルに言ってしまったんです。プロデューサーから「お前、専門家だろ!」とメチャクチャ怒られて、出禁になりました(笑)。10年たってようやく、たまにスタジオに呼んでもらるようになりました。

--10年って長いですね。

そうですね。
今なら宮根さんにだいぶ鍛えられたので、何かしら返答はできると思います。笑
10年ぶりの「朝生ワイドす・またん!」出演!
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10年ぶりの「朝生ワイドす・またん!」出演!

ーー『す・またん』にもお天気キャスターがいたと思うんですが、その時は何で蓬莱さんが呼ばれたんですか。

その時間に気象予報士の資格を持った人間が僕しかいなかったので、裏方だった気象予報士の僕に解説してほしいと。それで急遽「3分ぐらい解説してくれ」と言われてやったんですけど、しくじってしまいました。

--それは緊張から?

そうですねぇ。プレッシャーと知識不足がありました。それ以降は、毎日業務が終わった後に気象解説の練習をして、2011年3月に読売テレビの気象キャスターのオーディションに合格しました。2011年3月28日に『かんさい情報ネットten.』という番組に初めて出演して。『ミヤネ屋』は同じ年の台風の時に、臨時の気象解説で呼んで頂き、宮根さんにいじられたり、返したりしているうちに、いつの間にかレギュラー出演になって、今に至ります。

--そうするとお天気キャスターとしてテレビにご出演されるようになって10年以上ですね。お天気を伝える難しさはどこにありますか。

いっぱいありますけど、やっぱり僕の場合は宮根(誠司)さんとの掛け合いですかね(笑)。関西の番組って、「蓬莱さん、3分しゃべってください」っていうふうに時間だけ決まってるんですよ。で、中身はフリーで、どういう順番で、天気をどう伝えるかは僕が決めるんです。でも、それを宮根さんと事前に打ち合わせしたりリハーサルをすることはないんです。

だから、本番で何を聞かれるかわからないので、聞かれたことに答えられなかったことがたびたびありました。最初はアタフタしてましたけど、おかげで事前に勉強することが多くなりました。宮根さんのツッコミがあったおかげで勉強するモチベーションになったので、それは良かったです。当時はしんどかったですけど(笑)
こっちが予想だにしない質問やツッコミがきたときは、「すみません、持ち帰らせて下さい!」という営業マンみたいな言い訳をして、後ほど調べて伝えるようにしています。
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--生放送ですから時間が短くなって、せっかく用意したこともカットせざるを得ないみたいなことも多いと思うんですが。

それは多いですね。天気予報の時間が3分とするじゃないですか。その時間内でどう天気図を解説して、どういう順番で伝えるかを考えて、ただ天気図を見せるだけではわかりづらいですから、矢印を入れたり、文字を入れたり、いろんな加工をするんですよ。そんなことをやっていると、天気図を解析する時間も含めて、だいたい準備に4時間ぐらいかかります。どんなふうに伝えるか、言葉選びにも思いを込めてますし。

--というと?

例えば台風でも「大型の台風」と「超大型の台風」にはちゃんと言葉の定義がありますし、「強い雨」「激しい雨」「非常に激しい雨」も「何ミリから何ミリまで」と全部言葉の定義が決まっています。また、「雨が降りますよ」だけではなく、「桜の満開の時期に降る雨を桜流しといいます」という風に季節の言葉も交えつつ。どういう言葉を使うかにこだわりがあります。

台風など災害級の気象状況では、ただ情報を伝えるだけにならないように意識しています。「予想雨量のその数字の意味する所」をどう伝えれば、煽りすぎず、かつ他人事だと思われず、こちらの危機感が伝わるか。視聴者がその情報を得て「いかに行動に移して」くれるか。言ったつもりではなく、責任を持って伝える。誰かの命が守れるように、3分なら3分の中にギュッと凝縮して、心を込めて日々お伝えしています。

--準備にかかった4時間分の思いが3分に詰まってるんですね。

天気ってみんなのものなんですよね。誰かが憂鬱に感じる雨だって、例えば農家の方にとっては恵みの雨だったりするわけで。だから「明日の天気は明日しかない」「誰かにとっては大切な1日」を意識しつつ、天気を伝えるようにしています。

というのも、いろんな人からお手紙をもらうんですよ。以前、心臓病のお子さんから手紙をもらって、今でも交流があるんですけど、ドナー待ちで病室から出られず、ずっと窓の外を見てるんです。その子はもともと外で遊ぶのが好きで、天気にも興味があるんですね。だから、「明日も今日と同じで晴れです」じゃなくて、もうちょっと何か言い方はないかなと。「天気は外に出る人のためだけじゃない」ということにも気づかされました。

--素朴な疑問なんですが、気象予報士の方って基本的に同じ気象データを見て天気を予想されると思うんですね。データをどう分析するかは、気象予報士の方によってけっこう違いが出るものなんですか。

さっき(前編)も申し上げたように、天気予報のデータはスーパーコンピュータが、今観測された空気がどう動いていくか、物理の法則などを使って計算するんですね。でも、そもそも100%観測できるわけじゃないので、ある程度のブレ幅があるんですよ。例えば、海の上には雨量計など置けません。気象衛星で観測します。陸地の観測地点を増やせば、その分計算量が多くなり時間がかかる。また、コンピュータには地形のデータが入っていて、それが再現されていますが、完璧じゃないんです。
2019年密着取材の時。OAに向けて準備中の蓬莱さん
©ytv

2019年密着取材の時。OAに向けて準備中の蓬莱さん


今は、スパコンと人間のハイブリッドで天気予報をしている感じですね。僕の場合は、関西を拠点に天気予報をしていますので、関西に長年いて天気予報をしているからこそ、コンピュータが計算できない地形や風向きパターンを知って、そこを補完していく。その土地に根ざした気象予報士が重要かと思います。

--そうすると経験値はけっこう大きなものですよね。

と思います。だからこそ「キャスターやるのには経験が10年いるよ」と最初に言われたんでしょうね。それに10年かかってようやく気づきました(笑)。
いまだにわからないことも多いですし。パターン通りにならないですし(笑)。10年目からがようやくスタートです。

--天気予報の時間が3分って、個人的には短いんじゃないかと思うんですが、視聴者にとってはあのぐらいがちょうどいいんでしょうか。テレビの天気予報の理想的な形はどんなものですか。

番組にはいろいろなニュースがあって、だいたい天気予報っていちばん最後じゃないですか。で、いろいろなニュースが押せば押すほど、3分が2分半になったり、2分になったり、それこそ30秒になったりして時間調整に使われるんですよ。でも、今は異常気象も多いですし、いつまでもそれでいいのかな、というのは正直あります。天気予報は情報番組のおまけではないと思っています。

--もしかしたら番組の頭でもいいのかもしれないというか。

ある程度のキャリアを積んだ気象キャスターなら、時間さえあれば、上手い下手ってそんなに変わらないと思うんですよ。解説しなければならない時に、3分しかないから説明を端折らざるを得なくなると思うんです。でも、ちゃんと必要な時に尺(時間)を5分、6分に増やしてもらえれば、予想の根拠やブレ幅も含め、丁寧に解説できるんじゃないかと。変な言い方ですが、番組の言いなりではなくて、気象キャスターと番組制作側とのコミュニケーションと信頼がすごく重要なのかなと。

実は今、読売テレビでは、そこがうまく出来つつあって。例えば、天気予報で雨雲予想の動きって見るじゃないですか。あれ、1回だけじゃなくて、もう1回ぐらい見たいと思いません?

--そうですね。今、スマホアプリなんかだと何回も見られて、自分が今いる場所だと何分後に雨が降るとか、かなり正確にわかりますよね。

テレビでも時間さえあれば2回は動かせるんですよ。時間ごとの雨雲予想なんて1回動きを見ただけじゃプロでも見落としますよ。
読売テレビに関しては、できる限り雨雲予想は2回見せるようにしています。1回目は、ポイントを指摘しながら動かして。2回目は、視聴者に自分の場所だけ見ておいてもらって、時間の経過は僕が読み上げていく。そうすることで、見ている人の視線があっちこっち行かなくて理解しやすいんじゃないかと。
雨雲の動きの速度も遅く設定します。
これを2020年くらいから番組スタッフと相談しながら実践して以来、視聴者から反響が多く、やって良かったなと思いました。

ということで、「毎回天気コーナーは3分」と決めるんじゃなくて、大雨の時は3分じゃ足りないんですよ。気象庁からの防災情報も複雑化して増えていますし。

--蓬莱さんとしては、もっともっとテレビの天気予報を改善していきたいし、その余地はまだまだあるという感じなんですね。

そうですね。テレビの報道気象に関しては、時には番組スタッフとぶつかりながらも、気象情報の重要性を理解してもらう、そのためのコミュニケーションをとるということですね。「尺(時間)ください。他のコーナー押さないで時間を守って下さい。」そんなことを言うと、「こいつ、うっとうしいな」ってクビ切られるリスクもあるんですよ。僕も雇われの身ですから(笑)。けども、時にそこを恐れずにやっていかないといけません。昔よりも今は、極端な気象現象が毎年発生していますので。天気予報の重要性は高まっているんです。制作側もプロ、こちらも気象のプロとして、時には戦ったり協力したりしながら、視聴者のためにもっと良くしていきたいと思っています。実際、まだまだやれることは多いと思います。
プロフィール
蓬莱大介(ほうらい・だいすけ)
気象予報士・防災士。1982年兵庫県明石市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2011年読売テレビ気象キャスター就任。 現在、読売テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」「かんさい情報ネットten.」「ウェークアップ」にレギュラー出演中。読売新聞(全国版)で連載記事「空を見上げて」を執筆。
著書 「クレヨン天気ずかん」(2016年主婦と生活社)
「空がおしえてくれること」(2019年 幻冬舎)
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