解説者・桂 朋生に聞く! 『鳥人間コンテスト』を120%おもしろく視聴するポイント 〜人力プロペラ機部門編〜

2023.08.29

解説者・桂 朋生に聞く! 『鳥人間コンテスト』を120%おもしろく視聴するポイント 〜人力プロペラ機部門編〜
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7月29日(土)・30日(日)に開催され、今回で記念すべき第45回を迎える『Iwataniスペシャル 鳥人間コンテスト2023』。(2023年8月30日(水)夜7時〜9時 読売テレビ・日本テレビ系全国ネットで放送)

今年は、出場チームメンバーや応援団の人数制限を4年ぶりに撤廃するなど、コロナ禍前の状態に完全復活。2日間とも天候に恵まれたものの、予測不能な風が吹くなか、新たな歴史を刻む偉大な記録が次々と誕生した。

MCのナインティナイン・矢部浩之、実況の羽鳥慎一ら出演者も大興奮した今大会。「読みテレ」では、元東北大学Windnauts機体設計担当、特設スタジオにて解説を行う桂 朋生さんに、前回大会に引き続き、感動の大会をさらに楽しく深く視聴するためのポイントを聞いた。
昨年は滑空機部門の話を中心に教えてもらったが、今年はとんでもないドラマチックな結末が待っていた人力プロペラ機部門を深掘りしてもらった。
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――改めて今年の人力プロペラ機部門はどうでしたか?
桂:全体的には厳しい大会だったと思います。晴れているので一見すごくいいコンディションに見えましたが、雲のない晴れというのは、陸上で上昇気流が起き、湖からそこに向かって風が吹き、その風が湖の真ん中に落ちてくるという、そんな風の動き方になるんです。湖の真ん中から風が噴き出してくるようなコンディションになり、強い向かい風が吹いてしまっていたので、かなり難しいコンディションだったと思います。

――確かに皆さん風に苦戦しているように見えました。
桂:ジグザグに飛んでしまっている機体もありましたが、強い向かい風というのは、例えるなら上り坂みたいなもの。自転車で急な上り坂をまっすぐ登っていくと、バランスを崩してこけてしまいますよね? それを防ぐためにジグザグに登って斜度を緩めるような動きをしますが、それと同じで、強い向かい風に食らいつくとパタンと倒されるような飛び方になるので、ジグザグに飛びながら距離を伸ばしていったんですよね。このコンディションでも、うまく風に立ち向かっていたと思います。

――パキッと折れてしまった機体もありました。
桂:風が厳しかったことに起因するパイロットの操縦ミスもありますが、今年の機体の傾向として、強度や固さが足りなかったことも一因だと思います。渡邊さん(BIRDMAN HOUSE伊賀のパイロット)の影響もおそらく色濃くあって、軽量化というところをすごく攻めていましたが、うまく設計・製作しないと軽くすることで機体が柔らかくなってしまうんです。そうなると、机上では想定しきれない問題が2つ起きます。1つは操縦がしにくくなってしまって、コントロールが難しくなってしまい、飛びにくい飛行機になってしまうこと。2つめは機体の柔らかさによって変形が大きくなり、設計した際とは異なる力のかかり方になってしまって、最悪は破損してしまうことです。
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――ただ軽くするだけではダメだと?
桂:たくさんテストフライトして、それでも大丈夫だった、本番も飛べた、という実績を重ねて少しずつ軽くしていくのが基本です。結局、飛びやすい飛行機というのは、乱暴に言うと、「軽くて、固くて、滑らかな飛行機」なんです。ただ、それを全て成り立たせるのはなかなか難しいんです。固さを維持しながら軽くできるかと言うところの勝負で、今年は軽さを攻めすぎた機体が多かった印象です。短い距離で落ちてしまった機体は、風の影響というよりは、好記録を求めて攻め込んだがゆえの着水、というのが多かったのかなと思います。

――逆に長く飛んだ機体は、飛行時の姿がとても美しかった印象です。
桂:大暴れしている飛行機を見て、「風が大変ですね」と伝えるのは簡単なのですが、レベルの高いことをしている飛行機は、こともなげに飛ぶんですよ。渡邊さんも強い向かい風を受けながらでもピターっと飛びますし、「東北大学Windnauts」「東京工業大学Meister」や「東京都立大学 鳥人間部T-MIT」も、機体の翼のソリ、重心位置、パイロットの操縦がしっかりとされていました。レベルの高いことをしていればしているほど、簡単に見えちゃうんですね。

――人力プロペラ機で好記録を出すために一番重要なことはなんでしょうか?
桂:人力プロペラ機っていかにパイロットをラクに飛ばせるかということを競っているんです。夢のない話になってしまいますが(笑)、全力で飛んでいる姿を見られるから熱い戦いではあるのですが、あそこでやっていることというのは“どれだけラクに飛ばせるかコンテスト”なんです。

――具体的にどのようにラクに飛ばせるのでしょうか?
桂:まずは低いパワーで速い速度で飛ぶ、パイロットが操縦しやすい高性能な飛行機を作ることで、結局それが前述した「軽くて、固くて、滑らかな飛行機」ということ。軽いというのは必要なパワーの低さに繋がり、固いというのは操縦への反応の良さに繋がり、滑らかというのは空気抵抗が少ないということに繋がります。

――パイロットの技術も重要ですよね?
桂:パイロットがラクに飛ぶためには、まず脚を鍛えて、必要な筋力を付けること。プロペラ機で距離を延ばすためには、1時間以上の間、飛ぶために必要なパワーを維持する必要がありますから、その時の負荷を全力走でなくテンポ走でジョギングレベルに感じるまで鍛えなければいけません。逆にラクに飛ぶためには、人力プロペラ機を短時間飛ばすくらいなら体力的にはラクと感じられるまで鍛えなければならないということ。同じく重要なのが操縦で、操縦を誤って機体が大きくバランスを崩したとします。そこから立て直すのに必要なパワーって、本来飛ぶパワーの倍は食ってしまうんです。いわゆる無酸素運動のような状態で、これを繰り返すとどれだけ鍛えたパイロットでも長くは飛び続けられません。これを避けるために、操縦を先読み先読みすることが大切。これも先ほど話した、こともなげに飛ぶということで、周りから見たら何も起きていない姿勢を保ち続ける操縦が大事なんですね。
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――人力プロペラ機をこぐのって、実際どれほどのパワーが必要なのでしょうか。
桂:登り坂をずっと自転車で登っていると思ってもらえればイメージしやすいかと思います。試しにジムに行って、自転車のマシーンで250ワットという負荷に設定してもらえれば体感してもらえます。全く鍛えていない方だと、おそらく5分ほどが限界だと思います。

――飛行機について詳しくない視聴者が、飛ぶ前に強いチームがわかるポイントはあるのでしょうか?
桂:プラットホーム上の機体がテレビでも映ると思いますが、直線のところは直線、曲面のところは硬そうに見える、翼は鏡のように光を反射し、発泡スチロールで造っているんだけど、プラスチックに見えるような、そんな美しい機体は強いですね。
また、準備でドタバタしていないチームも力があります。パイロットが乗り込んだあと、ドアを閉める、発進するという一連の流れがあるのですが、もうここに来るまでに人力プロペラ機だと何十回とテストフライトをこなしてきています。強いチームは場所がプラットホームに変わるだけで、黙々とさっさと終わらせるんです。
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――プラットホーム上で落ち着いているか否かでもわかると?
桂:プラットホーム上で機体の隙間を埋めていたり、テープで無理やりどこかを引っ張っていたりだとか、そういったチームはぶっつけに近い形で来ていることが多いですね。琵琶湖ってやっぱり準備不足なものは全部露呈しちゃうんです。あの上で落ち着いているということは、それだけ場数を踏んできているということ。「強いチームは喋らない」これは滑空機でもプロペラ機でも同じです。黙々と作業しているチームが強いということが一番わかりやすいですね。

――プラットホームでは機体とチームの落ち着きに注目ということですね! では、ボートに乗ってプロペラ機を追うサポート役の方は、どういった仕事をしているのでしょうか?
桂:パイロットが必死にこいでいると、計器類を見る余裕がなくなってくるんです。サポート役はあまり細かな指示は出しませんが、「進路ずれているよ」「高度高いよ」とか、コックピット内の情報だけではどうしても足りない情報をサポートしてあげる役割を担います。追い風の情報だったり、こっちに行かないほうがいいなとか、パイロットが気づいてなさそうな情報をおぎなうことで、パイロットに間違った判断をさせないということですね。また、サポート役は設計者という形が多いのですが、当然結びつきも強く、精神的にも助かると思います。
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――パイロットとサポートのやり取りも魅力の一つだと思います。それでは最後に、鳥人間コンテストのここに注目してほしいポイントをお聞かせください。
桂:出場している人って本当におバカで(笑)、ただ飛ばしたい人、ただ飛びたい人たちが集まっているんです。いろいろなものを背負って出場していると思いますが、原点にあるのは飛ばせたい、飛びたいなんですよね。とにかくそれに尽きるので、ちょっとふざけたチームに見えても、実はものすごい真剣ですし、「そこに山があるから」と言った人とまさに同じ気持ちで出場しています。ドーンとすぐ着水したり、何十キロも飛んだり、差がすごくわかりやすくて、どうしても結果が本気度の差に見えちゃうんです。でも、失敗も攻めた結果だったり、思わぬ失敗だったりするだけ。みんな同じ熱量を持っているので、結果だけでなく、そういったことも知って見てほしいと思います。
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エントリーしたのは「人力プロペラ機部門」で13機、「滑空機部門」で17機。両日とも天候には恵まれたが、予測不能な風が吹いた今年の琵琶湖。その風を見事に味方につけ、奇跡のビッグフライトまで飛び出した今年の『鳥人間コンテスト』。

今年の人力プロペラ機部門は、機体の美しさはもちろん、パイロットの脚力の強さ、プラットホーム上での落ち着き、サポート役のアドバイスにも注目して放送を見れば、さらに面白さ倍増間違いなし!

『Iwataniスペシャル 鳥人間コンテスト2023』は8月30日(水)夜7時〜(読売テレビ・日本テレビ系 全国ネット)で放送される。
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