指南役のテレ美学①「テレビってなんだろうって、改めて考える」

2017.11.30

皆さん、最近、テレビ見てます?
――こう聞くと、大抵の人は「うーん、見てないかなぁ。最近はYouTubeか、Huluで外国ドラマばかり見てる気がする」なんて答えたりする。
でも、ちょっと待った。そもそもテレビってなんだろう?

テレビ――テレ・ビジョン。「テレ」とはギリシャ語で「遠く」の意味、「ビジョン」は「映像」だ。つまり、テレビとは「遠くの映像」ということになる。遠くから不特定多数に向けて発信された映像を家庭のテレビで受信して見る――確かにその通りだ。
その理論で行くと、映画館でスクリーンにその場で投影して見る「映画」はテレビじゃないし、「録画」した番組を見る行為も、一旦取り込んだ映像をその場で再生しているだけなのでテレビじゃない。

じゃあ、YouTubeはどうだろう。
アレは誰かが不特定多数に向けてYouTubeにアップロードした映像を、パソコンやタブレット端末で見るもの。要するにネット経由で遠くの映像を見ていることになる。
Huluはネット配信サービスだ。これもネットを介して遠くの映像を見ていることには違いない。
もう一度、テレビの語源を思い出す。テレ(遠くの)・ビジョン(映像)。ならば、これらYouTubeやHuluも、立派な「テレビ」じゃないだろうか。

もはや「地上波」の概念がないアメリカのテレビ

今年、アメリカのテレビ界の権威、エミー賞において、ドラマ部門で初めてネット配信系のドラマが最も優れたドラマに贈られる「作品賞」を受賞した。Huluの『ハンドメイド・テール/侍女の物語』だ。ちなみに、作品賞にノミネートされた7本のうち、地上波の4大ネットワーク(NBC、CBS、ABC、FOX)のドラマは1つしかなかった。いや、2006年のFOXの『24 -TWENTY FOUR-』を最後に、エミー賞はAMCやHBOなどのケーブルテレビの独擅場で、もはや地上波テレビの権威はない。つまり――アメリカではとっくに「テレビ=放送局から送信される番組」という概念が崩れ、ケーブルテレビだろうと、ネット配信だろうと、全部「テレビ」なのだ。

SNSで知って2秒後には見られたAbemaTV

思えば、先日、インターネットテレビのAbemaTVが配信した『72時間ホンネテレビ』が大反響だった。「新しい地図」として船出した稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんの門出の番組だ。3日間の総視聴数は7400万超え。もちろん、ネットテレビ史上、最高記録だ。この番組の何が画期的かって、配信中の画面をスマホで“スクショ(スクリーンショット)”して、SNSで自由に使ってよかったこと。そのため、Twitterのタイムライン上には公の場で21年ぶりに再会した森且行さんとの4ショットが氾濫した。

元来、テレビは著作権にはうるさい。原則、無断で撮影してアップロードするのはNGである。でも、AbemaTVはそれを許した。いわゆる“発想の転換”だ。かつて音楽イベントは総じて撮影NGだったが、近年、外国のフェスが演奏中の撮影を許可して、それがSNSで拡散され、宣伝になると気づいた結果――今や日本国内のフェスも撮影がOKになった。

AbemaTVの強みは、外出先でもスマホから簡単にアクセスできることにある。同社の藤田晋社長はその開局にあたり、実に準備の4分の3をプロダクトクオリティに費やしたという。いわゆる操作性だ。レスポンスの速度を上げ、アプリを開いたユーザーがストレスを感じないように、と。おかげで人々はTwitterで同番組の森くんとの再会を知ると、その場でAbemaTVのアプリを開いて、2秒後にはそのシーンを見ることができた。

とはいえ――同番組の視聴数を安定的に押し上げたのは、Amazonの「fire TV stick」などで、お茶の間のテレビで見た人たちだという。それはテレビにセットするだけでAmazonビデオを始め、HuluやNetflix、YouTube、AbemaTVなどを大画面で楽しめる装置。こうなると、もはや地上波のテレビを見ている感覚と何ら変わりない。

「インスタ映え」とテレビ局員の心理は同じ

「テレビ離れ」が叫ばれて久しい。でも、本当にそうだろうか。例えば、SNSで正味30秒程度の動物のおもしろ動画がよくバズることがある。あれだって、テレビである。不特定多数に向けた、テレ(遠くの)・ビジョン(映像)だ。

僕の知人に、5歳の息子を持つ女性編集者がいる。彼女曰く、息子はYouTubeが大好きだという。生まれた時からタブレット端末が身近にある彼らネイティブ世代は、もはやそれがテレビなのだ。ちなみに、彼が一番夢中になる“番組”は、地上波の子供番組をアップロードしたものではなく、日本の小学生の男の子がアップロードしたウルトラマンの人形遊びだと。小学生の男子が不特定多数に向けてアップした動画を、遠く離れた5歳児が見る。今はそういう時代なのだ。

そう、テレビの定義が広がった今――テレビの“送り手”の定義も広がった。今や1億総テレビマン時代と言っていい。昨今、「インスタ映え」という言葉が爆発的に流行しているが、あれだってテレビマンの心理と大差ない。要は、いい絵を押さえて、それを不特定多数の人に見てもらいたい――という心理。これは地上波のテレビ局員の心理と全く同じである。

人類史上最もテレビに接近した時代

テレビって、なんだろう。
それはお茶の間の大画面テレビで見る放送ばかりじゃなく、ネットを介してパソコンやスマホ、タブレット端末などで見る、不特定多数へ向けた動画も含まれる。そして今や、視聴者の側も、時に動画の送り手になる。皆、視聴者であり、同時に番組(動画)の送り手――テレビマンでもあるのだ。

ひと昔前、活字離れが叫ばれたことがあった。しかし、SNS時代が到来すると、人々は日々、活字を追うようになった。恐らく、現代の僕らは人類史上最も活字に触れている。

同様に――僕らは今、隙あらば動画を見ている。Twitterでおもしろ動画を見つけたら、嬉々としてそれを拡散している。時には自ら動画を撮影して、不特定多数に向けてSNS上にアップすることもある。そして、遠くの誰かがそれを見て、面白がって更に拡散してくれる。

そう、現代は「テレビ離れ」なんかじゃない。人類史上、これほどテレビに接近した時代もない。
いわば、テレビ蜜月時代。
世のテレビマンたちよ、この風は逆風じゃない。追い風なのだ。
【文:指南役】

執筆者プロフィール
メディアプランナー。代表・草場滋。フジテレビ『逃走中』の企画原案ほか、映画『バブルへGO‼タイムマシンはドラム式』(監督・馬場康夫)の原作協力、『テレビは余命7年』(大和書房)、『情報は集めるな!』(マガジンハウス)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社新書)などメディアを横断して活動中。「日経エンタテインメント!」誌に連載中の「テレビ証券」は18年目。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。
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