影山貴彦のウエストサイドTV 第37回 《ニュースに間(ま)を》

きっと年齢を重ねたせいだと思うのですが、世の中のスピードが速いなあ、ついていくのが大変だなあ、と感じることが時折出てきました。現代のメディア研究を生業にしている身としては、まだまだ老け込むわけにはいきません。必死でさまざまな媒体に触れ、考え、発信するように努めているところです。とはいえ、関西人特有のキャラクターのせっかちさは、実に自分の性分にぴったり合うのですから不思議です。関西以外のどこに出かけても、「なんだかのんびりしているなあ」と思ってしまうのですから。
 
テレビ番組のスピード感も年々増しているように感じます。頭で理解できるスピードを画面の展開が上回る、なんてことも出てきました。やばいやばい!体力だけでなく、頭の若返りへの鍛錬が、ボチボチ自分にも必要な時かもしれませんね。

スピード感という話とは、少しずれるかもしれませんが、皆さんがテレビをご覧になっていて、重いニュースから急に明るさを前面に押し出したニュース展開となり、戸惑った経験はないでしょうか?正直なところ、今社会で起こるニュースは、暗く重いものが多数を占めています。そんなニュースばかりだと気分も滅入ります。テレビ局の作り手側が明るい話題を挿入したくなる気持ちは十分理解できます。

ただ、気になるのはタイミングなのです。ついさっきまで眉間に皺を寄せて重々しく伝えていたキャスターが、急に明るい表情を作って、「さあ〇〇の話題です!」と喋り出されると、少なからずこちらは心の整理がつかないのです。

ほんの少しでいいのです。本のページをめくるように、重い話題から軽く明るい話題に転じるときには、放送の上で少しばかりの工夫が欲しいのです。民間放送の場合はコマーシャルを挿入するという形が定番ですが、いつもその手法が取れるとは限りません。NHKはご存じのとおりコマーシャルは入りません。ニュースの質が大きく変わるときは、わずかばかりでいいので、「精神的な息継ぎ」が出来る間(ま)を設けて欲しいのです。

場合によっては落ち着いた音楽を短く挟むという手法もあるでしょう。視聴者に考える時間を与えるような、少しばかり無音の時間を設けるのも効果的かもしれません。その場合は、画面構成に一工夫あるといいかなと思います。

ほぼ24時間の放送を切れ目なく続けているテレビですが、番組の中でも、ちょっとした「隙間」を作ることは、私たちの頭を切り替える上で大いに役に立つはず、と考えているところです。 


執筆者プロフィール
影山貴彦
同志社女子大学メディア創造学科教授
(メディアエンターテインメント)
コラムニスト
元毎日放送(MBS)プロデューサー・名誉職員
ABCラジオ番組審議会委員長
毎日新聞等にコラム連載中
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」、
「おっさん力(ぢから)」など