「おもしろ荘2019」で準優勝『セルライトスパ』 アクシデントも味方につける的確な"お笑い力"

2019.08.10

売れっ子への登竜門と言われ、毎年元日未明に放送される「ぐるナイ おもしろ荘」。ここで今年準優勝したコンビが「セルライトスパ」でした。また、ボケの大須賀健剛さんは「R-1ぐらんぷり2019」でも準優勝。ラジオや情報番組のレギュラーもゲットし、まさに今、人気者への一歩を踏み出しています。1月にはツッコミの肥後裕之さんに第一子となる長女が誕生し、昨年8月に長女を授かった大須賀さんともどもパパ芸人にもなりました。公私ともに充実の二人ですが、さらなる飛躍を確信するハプニングもあり、盛りだくさんのインタビューとなりました。


―最近はかなり忙しくなってきました?

肥後:本当にありがたいことに、最近はほとんど休みがない状況でして。去年まではだいたい週に3日くらい休みがある感じだったんですけど、4月から毎週水曜日にコーナーを持たせてもらったABCテレビ「キャスト」のロケもあって、ほぼ毎日お仕事をさせてもらっています。

大須賀:これまで定期的にロケをさせてもらう機会はなかったので、思いのほか、日焼けが止まらないです(笑)。ネタに影響が出るんじゃないかと思うくらいに。日焼けが説得力を生む漁師さんのコントとかだったらいいんですけど、なかなかその設定もないですしね(笑)。どちらかというとボソボソとボケる人間がテリテリに焼けているのも、妙な違和感が出るかもしれませんけど、うれしい悩みです。

―今のレギュラーで言うと?

肥後:カチッとしたレギュラーで言うと、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」の木曜日、先ほどの「キャスト」。

大須賀:あとは、単発でいろいろな番組に呼んでいただく機会も今年になってかなり増えているところです。

肥後:ものすごくイヤらしい話ですけど、先月、なんと、給料の額、ベストを更新しました。いや、本当にイヤらしい話でしたね(笑)。ただ、僕が一番気にあるのが大須賀はいくらもらっているんだろうなと。「R-1」で準優勝もしてるし、音楽サイトの仕事も大須賀単独でやっているので、今ピンの仕事が大須賀は週に2つ、3つくらいはあるんです。

―実際、単独でのお仕事も多いんですか?

大須賀:いや、ま、確かにピンでお仕事をさせてもらうことはありますけど、なかなか入り組んだ仕事も多いですからね。僕らがホームグラウンドにしている大阪の「よしもと漫才劇場」の公演で、モノマネの企画を僕が発起人としてやったりとか。

肥後:西田敏行さんのモノマネをする「ダブルアート」の真べぇさんとかと、上沼恵美子さんのモノマネで話題にもなっている「天才ピアニスト」のますみちゃんとかとね。

大須賀:その中で、僕だけがモノマネが不得意というか、全然できないんですけど、それがオチというか、アクセント役になっているというか。「お前は全然できてないやないか!」という感じで。正直、僕じゃなくてもいいんですけど、ただ、これは僕が発起人というか、発案でやっているイベントなです。

―なぜモノマネが得意ではない大須賀さんが発起人を?

大須賀:できないけど、モノマネが好きなんです。僕がモノマネに包まれたかっただけなんですけど(笑)。「大須賀モノマネ倶楽部」というイベントを何回か5年くらい前にやったりもしていて。

肥後:確かに、モノマネの仕事をしている時は本当に楽しそうな顔になるもんね。

大須賀:僕の中で、絶対にウケる3つの鉄板カテゴリーがあって、それが“ハプニング”、“ドッキリ”、“モノマネ”なんです。その中で、舞台で安定してできるのがモノマネだったので、これを自分発信でやったら、間違いなく面白くなるだろうなと。ま、自分はできないんですけどね(笑)。

―確かに、ハプニングとドッキリは舞台でいきなりやるのは難しいですもんね。

大須賀:ハプニングは「おじいちゃんの入れ歯がいきなり外れた」とかなので、絶対に面白いけど、偶発的なことだから人工的には作れない。ドッキリは仕掛けを作ってやるものだから、仕掛けを作れば作れるけど、舞台上でやるのは難しい。じゃ、安定的にでるのは何なのか。モノマネだなと。

肥後:清水アキラさんとかがモノマネ論を語るのは分かるけど、モノマネができない大須賀が語るモノマネ論、これは需要があるのか…。

大須賀:ま、モノマネ、僕もやるのはやるんですよ!じゃ、文字だけではなかなか伝わらないでしょうけど(笑)、一つ参考までに。「M-1グランプリ2016」の敗者復活戦で感想を求められた時の女子レスリングの浜口京子さん。「あのね~、あの~、明星さん…、あ、霜降り明星さんの短パンの方の人のおしゃべりとか、動きがぁ、楽しかったぁ」。以上です。

肥後:お前、バカにしてるやろ!浜口京子さん、どう思ってんねん。

―これは、もう、ものまねじゃなく、揶揄ですかね(笑)。モノマネという薄皮一枚でくるんだ。

大須賀:いやいや、あくまでもモノマネですから!

―まさに今年いろいろと動きのあったお二人ですが、あと5か月弱。今年中にやりたいことはありますか?

肥後:それは「Ⅿ-1」優勝です。ここは二人とも一致していると思います。

大須賀:僕は「R-1」の準備です。来年に向けて。もちろんコンビ“も”頑張りますけど。

肥後:いやいや、コンビが二の次みたいな感じはやめてよ!

大須賀:基本的にネタは僕が作っているので、頭の中にネタの設定が思い浮かんだら、まず考えるのは「それが一人でできるのかどうか」。一人でできるなら「R-1」用に練り上げていって「これは二人いないと難しい」となるものは、コンビの方にまわしたいと思います。

肥後:製造過程でどうしても出てくる“割れおかき”をコンビにまわすみたいなこと、やめてよ!きちんとしたおかきをちょうだい!

―当然ながら「M-1」制覇のためには、相当の準備が必要にはなってきますよね。

大須賀:ま、これは正直な話、単純にネタを考える時間を増やしています。例えば、オリンピック選手は24時間のうちに18時間くらいは競技のことを考えているだろうし、寝るのも競技のために寝ているんだろうし。それくらい、全てをかけないと勝てない。なので、正直、寝る時も罪悪感というか「ここで寝て『Ⅿ-1』に勝てるのか」という思いは毎晩のように感じてはいます。

―こんなことをナニな話なんですが、互いに相方の「ココはすごい!」と思うところをうかがえますか?

大須賀:とにかくハートが強い!どれだけスベッても、どれだけ侮辱されても全く引き下がらない。後退のスイッチがない。そこがすごいなと…。いや、破壊はされてるんですよ、しっかりと。ただ、骨だけでも前に進むんです(笑)

肥後:最近はそういう状況で、汗すらかかなくなりました…。ま、これは進化なのか、退化なのかは分かりませんけど。

大須賀:いや、進化じゃないですかね。ロボと化すための(笑)。

―“進化”を示すエピソードなんて、ありますかね?

大須賀:つい最近、Youtubeで「毎日クリームパンを食べる動画」をアップすることを(肥後が)やったんです。食リポ的なことをするわけでもなく、ただただ自宅でクリームパンを食べるサマを流すという動画だったんですけど、そこのコメント欄に考えうる限りの罵詈雑言が並びまして…。それでも、日々クリームパンを食べ続けてましたからね…。僕なら初日でダウンしてます。

肥後:いや、始まりはラジオの中で生まれたノリみたいなものだったんですけど、誰もやっていないことをやる。そして、やっていく中で見えてくるものがあるのではということで続けてたんですけどね。

―実際、見えてきたものは?

肥後:まだ今はそれに出会えてないので、次はまた別の食べ物でやってみようかなと。

大須賀:ここが、もう、僕では絶対にできないところです(笑)。また次も、くじけることなく、このパターンでやるなんて…。

肥後:逆に、大須賀がすごいところは媚びないところです。誰にでも平等というか。相手が誰であっても、対応が同じというか。それはすごいと思います。人として。あと、芸人としては、お笑い能力がすごい。これは本当にありがたいことです。だから、僕もコンビということで後輩にもナメられにくい。これはうれしいことです!

大須賀:いや、ナメられているところ、見ますけどね…。

肥後:これが「セルライトスパ」の一員じゃなかったら、もっとナメられてますから!あー、よかった!本当に良い相方です。


■取材後記
「芸人さんが売れるために大切なこと。それは“かわいげ”である」。これは前回連載「からし蓮根」のお二人の原稿にも綴りました。

「セルライトスパ」にも強烈なまでのかわいげを感じていましたし、だからこそ、この連載でも取り上げました。ただ、今回の取材でも、これでもかとそこを感じました。

インタビューを終え、写真撮影にうつるタイミングでした。席を立った瞬間、肥後さんの前に置いてあった紙コップに肥後さんの手が当たり、お茶をこぼしてしまいました。

結構な量が入っていたので、コップから流れ出たお茶がそこそこの波のようになって、僕が置いていた取材ノートの方に押し寄せてきた。

「大切なノートを濡らしてはいけない!」。とっさに思った肥後さんは波の方に右手を差し出してお茶をせき止めつつ、ワイパーのようにお茶を払おうとしたのですが、よく見ると、近くに撮影用のデジカメも置いてある。ワイパーのように一気にお茶を払ったら、今度はカメラにお茶がかかってしまう。

この間、0コンマ何秒の判断でしたが、そこで折衷案として肥後さんが瞬時にとった策が、指を熊手のように立てて、波の方向を変えるという策。ワイパーほど一気にお茶の波をどこかにぶっかけるということはないはず!という判断だったのでしょうが、液体を熊手状の手で移動させようとしたところで効果はなく、ほぼほぼお茶はそのまま流れました。

幸い、ノートにまでお茶が及ぶことはなく、肥後さんの指先がお茶で濡れて、このプチ騒動は終了したのですが、それを見た大須賀さんがこれまた瞬時に言いました。

「やっぱり、とっさのアクシデントは面白いですね」

ドッと大きな笑いが生まれました。

作っても作れない本当のかわいげと、的確なお笑い力。

こぼして、せき止め損ねて、つっこまれる。時間にして5秒もなかったと思いますが、この5秒にも、売れるための要素がギュッとつまっていました。
執筆者プロフィール
中西 正男(なかにし まさお)
1974年生まれ。大阪府枚方市出身。立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚などを大阪を拠点に取材。桂米朝師匠に、スポーツ新聞の記者として異例のインタビューを行い、話題に。2012年9月に同社を退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属し、テレビ・ラジオなどにも活動の幅を広げる。現在、朝日放送テレビ「おはよう朝日です」、読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」などにレギュラー出演。また、Yahoo!、朝日新聞、AERA.dotなどで連載中。
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