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『どっちの料理ショー』WEB版での復活の裏には、プロたちの情熱とこだわりがあった。

境治 2020.11.28

『どっちの料理ショー』WEB版での復活の裏には、プロたちの情熱とこだわりがあった。
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『どっちの料理ショー』と聞けば、あの料理対決番組ねとすぐに思い出す人は多いだろう。読売テレビ制作で1997年から2006年まで9年間、全国ネットで放送されていた。2つの料理のうち「どっちを食べたいか」の対決を、毎回日本中の人びとが楽しんできた。

この『どっちの料理ショー』がWEB限定版で復活したことが話題だ。15分の短い尺の中にあの対決の面白さを凝縮したコンテンツが見逃し配信サービスの中で視聴できる。キリンビール提供のスポンサードコンテンツであることも含めて新しい仕組みの配信だ。これまでにない取組みには、乗り越えるべき壁がありドラマが生まれる。『どっちの料理ショー』復活の裏にはどんなドラマがあったのか。読売テレビの二人のテレビマンに話を聞いた。
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二人のテレビマンの熱い議論から生まれた

まず営業局東京営業部の佐藤航氏がきっかけを語ってくれた。
「今年のゴールデンウィークの前に広告代理店さんから、コロナで苦境に立つ飲食店を応援するコンテンツを、飲料メーカーさん提供で『どっちの料理ショー』として作れないかと相談を受けました。そこでこの番組の制作に携わってきた中村に相談したのです。」

中村元信氏は元々は制作局所属だったが、いまは営業局の営業企画部専門部長の肩書で、企画や制作が絡む営業案件について相談にのり、クリエイティブ寄りの業務を担当している。日ごろからこういった相談には慣れている中村氏だが、今回の件は簡単に引き受けるわけにはいかなかったという。
「私にとって『どっちの料理ショー』は立ち上げから終了まで携わってきた思い入れある番組です。一本作るのにどれだけの時間と情熱が必要かも、よくわかっています。放送時に番組のファンで見ていました、そのコンテンツを使いたいですと言われても、いやそれは大変だぞと思いました。」

制作での経験を生かして企業の依頼に応えてきた中村氏であっても、どんな中身に仕上げて企業に渡せばいいのか、簡単には返答できなかった。
「どっちが食べたいかを悩んでもらうために時間をかけてロケして編集してと、長年やってきた人間からすると、そうそう簡単に形にはできない、これは難題だなあと思いました。」

なかなか即答してもらえない中村氏に対し、この件をなんとか実現したい佐藤氏は「めちゃくちゃ議論しました」と言う。
「制作陣が相当な手間ひまをかけて作っていたからこそ、あれだけ愛される番組になっていた、ということはわかっています。自分も3年間大阪で情報番組のディレクターをやっていたので制作現場の大変さは理解しているつもりです。でも、今回相談を持ちかけてくれたのは代理店さんの若い面々です。コロナの大変な時期に、子どもの頃に見て面白かった『どっちの料理ショー』の力で飲食店応援ができないか、というまっすぐな気持ちにはなんとかして応えたい。中村とは常日頃からいろんな話をしてきた間柄ですが、この企画を形にしたいということについては、いつも以上の想いで訴えました。」

そう熱く語る佐藤氏に対し、中村氏も否定しない。
「その通りなんですよ(笑)。気軽な気持ちで頼むんじゃないと言ったら『どっちの料理ショー』が若い子たちにもいかに印象的に伝わっていたか、いまもなお生かせるコンテンツではないのかと力説されて、そこまで言うならよしやろう、やるんなら思いきりやろうと決心しました。」
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必要な要素に絞りに絞って作り込んだ

実は二人は、佐藤氏が制作に配属された3年間を挟んで、数年間に渡ってコミュニケーションしてきた間柄だ。年齢は中村氏のほうがひと回りほど上だが、もともと企画志向の強い営業マンだった佐藤氏は、中村氏に時に企画書や台本を自ら作って意見を求めたりしていたという。営業職こそクリエイティブセンスを。制作職こそビジネスマインドを。営業と制作がクロスオーバーする中で新しい何かを生み出したいという想いを二人で以前から共有しあっていたからこそ、佐藤氏の熱に中村氏が動かされた。

中村氏は進める決心をすると、コンテンツの中身を具体的に検討しはじめる。その際に悩んだのは、何をそぎ落としどこに絞るか、だったと言う。
「『どっちの料理ショー』の面白さのポイントはいくつかあると思います。おいしそうだというのもあるし、人が対決し悔しがるのもある。WEBで流す時に新しい番組として何が必要で何が必要じゃないかをものすごく考えました。もちろんタレントさんの要素も大事でしたが、WEBにふさわしい15分程度の長さで作る時にはむしろ、おいしそうな料理の絵動画で見る人がどっちがいいか迷うような、そんな見せ方の番組に特化するのがベストだと思いました。」

そして中村氏は、これなら自分自身も納得できるという企画を作った。その企画を『どっちの料理ショー』の制作会社ハウフルスに相談したところ、快諾を得て、プロデューサー、ディレクター、カメラマン、照明、音効、ナレーターと当時のすべてのスタッフが勢ぞろいしてくれたという。
「みなさんぼくと同年代、でもみなさん現役です!」

自分にはハウフルスのスピリットが擦り込まれていると言う中村氏は、ベテランが全員そろってもらえたことが嬉しそうだ。長年一緒に制作してきた中村氏の心意気に応えてくれたのだ。ここでも熱が伝わった。料理が本当においしそうな出来上がりに、話を持ちかけてくれた代理店もスポンサーも大いに満足する内容になったそうだ。
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テレビ番組にはIP化できる可能性がある

この例に限らず、テレビ番組をWEBでショートコンテンツ化し、企業に提供してもらう事例がポツリポツリと生まれている。電波だけでなくネットでも売り物を作れるかが、今後のテレビビジネスの成長性を握っているのだ。
佐藤氏も「テレビ局の営業もCM枠だけ売っていればいい時代ではないと思います」と言う。「私自身、部署や会社など垣根を越える挑戦を自分に課すようになりました。そんな姿勢の中で出会う〝パートナー″たちと、共に汗をかきながら生み出すコンテンツが世の人の心に届くことで、また次のチャンスが生まれてくると思うのです。今回は、『どっちの料理ショー』という一度は終了した番組で「時間の垣根」を越える要素も含んでいるかと(笑。 往年のタイトルをリブランディングしたことで、多くの人に喜んでもらえることを切に願っています!」

過去の番組をネットでよみがえらせ企業の提供を受けられたことは、すべてのテレビ局にとっても大きなヒントになりそうだ。「IP(知的財産)」の重要性が言われて久しいが、アニメやキャラクターにとらわれがちだ。実は番組そのものがIPとして活用できる可能性がある、そのことを『どっちの料理ショー』のWEB化が示してくれた。そしてそれを具体化するのに必要なのは、情熱やこだわりであることもお二人の話からよくわかった。ネットの時代になっても大切なのは「人」なのだと思った。

【文:境 治】
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