“危険タックル”に揺れた年…メディアで働くアメフトOBが伝えたいこと

2018.11.14

ことしも秋の深まりとともに、アメリカンフットボール日本一を目指す学生・社会人のリーグ戦も熱を帯びてきた。11月に入ると強豪チーム同士の直接対決、好カードが目白押し。観衆も増え、盛り上がりを見せている。
だが、ことしは大学アメフトをめぐる雰囲気が例年とは異なっている。春から初夏にかけ“反則タックル問題”が社会で騒がれた。大学側の対応の遅れも重なりメディアに扱われる期間が長びくほど競技のイメージは傷つき、ついには「あんな危ないスポーツ…」と世間一般や、選手の周辺からまでもささやかれた。アメフトを知っている者が見れば、あの反則は競技そのものの流れで発生したのではないことは明確だ。アメフトそのものの安全性とは別次元の問題のはずなのだが、社会的反響の大きさもあり、秋の熱戦を包む空気もどこかすっきりしない。

「そんな今だからこそ、自らアメフトに打ち込みのめりこんだその魅力を正しく広く伝えたい…」
現在、メディアに携わる「アメフトOB」3人に、フィールドを見つめる熱い思いを直撃してみた。

【取材/文:山本 一宗(読売テレビ)】
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「わずか7試合+αに1年費やす、その熱量を伝えたい」

NFLやNBA、MLBなどの試合生中継での軽快な実況。現地のコメントを頭の中で瞬時に翻訳し、豊富な知識をベースにそれらをかみ砕いて視聴者に伝える……近藤祐司さんは、独自のスタイルでアメリカンスポーツを魅力豊かにカッコよく伝える日本唯一のアンカーだ。
近藤 祐司さん(スポーツアンカー・立命館大学卒)
その原点は、小学校時代を過ごしたアメリカにあった。「ARMY NAVY GAME(陸軍士官学校と海軍兵学校のライバル対決)をテレビで見て、なんだこれは!と衝撃を受け」高校時代に自らの意志でアメリカへ留学して競技をスタート。卒業後は帰国し故郷・京都の立命館大学へと進んだ。そこで出会ったのが、同じようにアメリカで高校時代を過ごした同級生・河口正史さん。2人でチームを大改革したそうだ。「下級生なのに、根性的で理不尽な練習を『こんなんやっても意味ない!』とか言ったりしてアメリカ式の中身のある練習内容に変えていきました」。先輩たちからは相当抵抗があったというが、その改革が3年の時に実を結ぶ。大学初の甲子園ボウル出場を果たし、法政大学を下して日本一に輝いたのだ。立命館大学が毎年優勝争いに加わるようになったその礎は、近藤さんが築いたと言っても過言ではない。

そんな近藤さんに“反則タックル問題”はどう映ったのだろうか。「指揮命令系統がしっかりしている組織が、間違った方向にいくとああなるんだと感じた。日大からすると、関学は負けたくない相手だからこそあそこまでやってしまったのでは」。
それほど“かける”ものが多いのがアメフトの魅力でもあると語る近藤さんに、いま伝える側として大切なものを聞いてみた。「秋シーズンの本番リーグ戦7試合のために、信じられないほどの熱量を費やすのがアメフト。練習で流した汗、涙、血や情熱が試合で凝縮されていて、その熱量は他のスポーツとはくらべものにならないほど多いんです。さらに、激しさや体力だけでなく知力を駆使する、体力で劣っていても頭を使えば勝てる、そんな面白さを伝えたいですね」。
かつて、初の栄光への道程を切り開いた“熱量と知力”は今でもまったく変わらない。近藤さんはそんな熱い思いで、実況席からフィールドを見つめている。
立命館大学時代の近藤選手

「スポットライトが当たらない選手の思いを伝えたい」

今でも語り継がれる名勝負がある。95年関西学生リーグ最終戦・全勝同士の京大-立命戦は、圧倒的な攻撃力を誇る立命に対し京大が魂のこもった守備で対抗。終盤の猛攻までエンドゾーンを死守し続けた京大が下馬評を覆し7-3で勝利した試合。この時、最終学年だったのが篠原さんだ。本職のOL(オフェンスライン)では控えで、スペシャルチームにすべてをかけていたという篠原さんは、甲子園ボウル(対法政大学)で“勲章”を手にする。キックオフカバーで、右の外から2番目から走っていくのが篠原さんの役目だった。「最初のキックオフで少し外めのコースで走っていくと、分析通り完全にフリーになれました。初めてリターナーの選手に突き刺さるタックルができました」。試合の流れをつくる大きなプレーだった。「試合後にOLの後輩たちが胴上げしてくれたんです。いまでも後輩があの試合開始のキックオフの話をしてくれる。僕のたった1プレー、しかもキッキングゲームでの1プレーを覚えていてくれるのが、ほんとにうれしいです」。
篠原 大輔さん(朝日新聞「4years.」編集長・京都大学卒)
朝日新聞のスポーツ記者になった篠原さんがいちばん大切にしているのは、自分のような注目を浴びることが少ない選手ひとりひとりにある「思い」に触れることだという。「いわゆるスター選手は、僕じゃない人が書いてくれる。僕が記事に書かないと絶対に世に出ないような選手のストーリーやバックグラウンドを書きたい」。そんな気持ちを抱き続けてきた篠原さんは、ことし10月、大学スポーツに特化したメディア「4years.」を立ち上げ、編集長に就任した。そこで初めて公開した記念すべき最初の記事が、今季リーグ戦に不出場の日本大学の記事だった。

どのメディアよりも最初からタックル問題を見つめ続けてきた篠原さんは、“あの日”をこう振り返る。「3度反則をやったのに咎める人がいなくて、テントから彼のすごい泣き声が聞こえて、4年生ひとりだけがなぐさめていて……。すごい違和感があった」。現役当時の水野弥一監督から「リスペクトすべき」と教えられたライバル校の問題だけに、今でも重い気持ちが離れないという。「日大というチームの雰囲気のなかで『やりません』とは言えなかったんだろうと思う。指導者が伸びてほしいと思う選手に厳しく接することはあります。『こんなプレーをしてこい』と要求することもあると思う。それにしたって、ルールの範囲内での話です」。取材を重ね、日大選手の気持ちにも度々触れてきた篠原さんは、自分だからこそできることがあると言う。「どんな立場にあっても、選手は必死にアメフトに取り組んでます。レギュラーでなくても、あの甲子園ボウルでの僕のようにたった一瞬でも輝くために、やってるんです。アメフトはチームの総力で戦うスポーツだ、ということを伝えるのが自分にできることです」。競技の奥深さをひとりでも多くの読者へ……。「4years.」初代編集長は、きょうもやさしい眼差しで選手たちの動きを追っている。
95年・甲子園ボウル優勝で胴上げされる篠原選手

「プレーの中の献身さ、本物の強さを伝えたい」

中学時代から大学までの10年間に加え、社会人になってさらに11年。「小さな巨人」と言われ日本を代表するランニングバックとして四半世紀近く第一線で活躍し続けてきた花房さん。「アメフト中継などアマチュアスポーツに目を向けてくれたテレビでその素晴らしさを伝えたい」と読売テレビに入社したが2014年までは営業一筋。スポーツの現場に移ったのは37歳のときだった。「正直『遅っ!』と思ったが、逆にこの年齢でチャンスをもらえて会社には感謝している」と、多くの競技の番組や中継をプロデュースする日々を送っている。
花房 政寿さん(読売テレビスポーツ担当プロデューサー・関西学院大学卒)
体格的に恵まれた方ではないことがバネになった。身長163センチ、足の速さも一番ではなかったからこそ、人一倍トレーニングに励んだ。大学4年の時には、陸上部の合宿にも自主参加した。それらを通して、練習の大切さはもちろん、チームの一員としての意識の持ち方が大きく変わったという。「体が大きくても小さくても、それぞれ役割がある。自分がボールを持って進むときには他の10人の犠牲がある。自分が進んでラインの選手たちが喜んでいる姿を見ていると、自分のことじゃなくても自分のことのように喜んだりできるようになった。ひとつの目標に向かって同じ感情で動ける、それはアメフトで学んだいちばん大きなことでした」。

アメフトをプレーすることが人間教育につながっている……そう感じているからこそ、日大の問題は残念だと感じている。「選手と指導者がコミュニケーションを間違えるとこういうことが起きてしまう。指導者がレールを敷く部分と選手が自分たちでやる部分を読み違えたのでは。選手がどうなりたいかをサポートする体制がないと、強くなりようがない」。と同時に「世間では両論があるけど、タックルした選手が復帰したことは個人的には喜ばしいと思う。彼が頑張ることがチームやアメフト界のためにもなるし、そういう理解をしてもらうために、中継などを通じてしっかり競技の本質を伝えていきたい」と語る。

さらに花房さんがアメフトを通じて考えるのは「強い組織のあり方」だという。「勝った負けたの評価もあるが、それ以上に勝敗に左右されずに高いレベルの組織作りに取り組んでいるチームが本当に“強い”と思う。仕事で監督や選手を取材していると、強いチームにしか口にできない言葉や雰囲気がある。チームで互いがモチベーションを上げて切磋琢磨し、全員がフルスロットルで動く。そんなチームが目指す“強さ”を画面を通して伝えたい」。プレーの奥にある本当の強さ…アメフトのイメージを少しでもいい方向に上げるために、伝える側で新たな試みをはじめている。
社会人・アサヒビールシルバースター時代のの花房選手
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競技経験者である3人が異口同音に語るのは「アメフトはさまざまな魅力にあふれたスポーツだ」ということだ。ヘルメットの下にある選手の素顔や決意、ベンチやスポッターにいるコーチ・スタッフの情熱や努力……。11月、12月とビッグゲームが続くアメフトシーズンのクライマックス、試合の経過結果だけでなく、3人が伝える「思い」に触れていただければ、アメフトが戦術や心理面の駆け引きに人間ドラマが重なる、実に奥深いスポーツであることをわかっていただけるはずだ。

あすリートチャンネル  
読売テレビのスポーツ番組「あすリート」(毎週土曜日午前11時35分~放送)から立ち上がった、関西を中心としたスポーツ動画チャンネルです。アスリートの動画ニュースやライブ中継を配信中で、11月18日(日)関西学生アメフトリーグの最終週、注目の関学-立命も生配信予定です。「あすリートチャンネル」は、読売テレビ(ytv)とリコネクトテレビジョン(rtv)が共同で運営しています。
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