大阪人は乗せ上手 影山貴彦のウエストサイドTV 第43回

 先日、山下達郎さんのライブに足を運んできました。圧巻の3時間でした。プロとして、観客を心ゆくまで満足させようとする熱き思いがヒシヒシと伝わってきて、「あ~、自分も達郎さんを見習って頑張らなきゃ!」との思いを新たにしたのでした。ただ、この種の思いは、なかなか持続しにくいのが難点ではあるのですが。

 曲の合間のMCで、「大阪のお客さんは本当に最高です!」と達郎さんが言いました。そんな風に言われて嫌な気持ちになる人はいないでしょう。その後、ホールがさらなる盛り上がりを見せたのは言うまでもありません。リップサービスの部分がないとは申しません。ですが私の知る限り、彼はお世辞を並べ立てるような人ではありません。本音をストレートに表現されるイメージがあります。だからこそ、観客たちは余計に喜んだのだと思います。

 そういえば、こんなエピソードがありました。もう25年ほど前になりますが、三谷幸喜さん作の「笑の大学」を観に行った時のことです。西村雅彦さん、近藤芳正さんの2人芝居で、エンターテインメント研究を専門とする私にとって、バイブルといっても過言でない作品です。笑うこと、人を楽しませることの尊さを考えさせてくれる名作で、後に映画化もされました。

 お芝居が終わると同時に、ホールは割れんばかりの拍手に包まれました。千秋楽だったこともあり、全く鳴り止む気配がありません。恐縮してお辞儀を繰り返していた西村さんと近藤さんでしたが、お客さんの熱に押される形で、ついに西村さんが喋り始めました。

 「お、大阪のお客さんは本当に最高で、笑う時には思いっきり笑ってくれて、しっかり見て欲しいときには、すごく真剣に見てくれて、、、最高です。本当にありがとうございました」
 西村さんの目は涙であふれていました。しっかり、もらい泣きしてしまった私です。

 エンターテインメントって、ライブって、本当にいいもんだなあ、と改めてその時思ったのでした。もちろん、全国に素晴らしいお客さんは大勢いらっしゃると思います。何も大阪に限ったことではありません。ただひとつ言えるのは、大阪の人たちは、「楽しむ」ことに関して長けた人が多いということを日々暮らしていて実感しています。「ウエストサイド」的な物言いになっていたらすみません。(笑)

 それはともかく。コロナがしっかり大人しくなってくれるまでには、もう少し時間はかかりそうですが、エンターテインメントが社会に果たす役割はとてつもなく大きいと、今回のことで私たちは改めて気づいたのではないかと思っています。



執筆者プロフィール
影山貴彦
同志社女子大学メディア創造学科教授
(メディアエンターテインメント)
コラムニスト
元毎日放送(MBS)プロデューサー・名誉職員
ABCラジオ番組審議会委員長
毎日新聞等にコラム連載中
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」、
「おっさん力(ぢから)」など