ドラマ解説者・木村隆志(後編)〜今のテレビには多様性が決定的に欠けている〜

2018.04.17

ドラマ解説者・木村隆志へのインタビュー、後編をお届けする。今のテレビについての問題点を聞いてみたら、出てくる出てくる!遠慮会釈のない指摘が次々に口から出てきた。だが読んでいけば、決して今のテレビを貶しているわけではなく、むしろ愛しているからこそこうあって欲しいという思いがあるのを誰もが感じるだろう。それに、テレビを徹底的に見ているからこそ言えることばかりだ。テレビが好きなあなた、そしてひょっとしてテレビの世界に生きているあなたには、きっと共感できるし励ましにもなる言葉だろう。木村さんの話に、ぜひじっくり耳を傾けて欲しい。

【聞き手/文:境 治】

テレビドラマは若い人の方を向いていない

-テレビについての思い、提言をうかがいたいのですが、ドラマの主人公の年齢に注目したコメントを読みました。

例えば秋ドラマ(2017年10月クール)はプライムタイムのもので主人公の年齢が44歳ぐらいでした。その年齢の人たちがやるということは、内容も骨太だったり、重いものが多くて。それでは若い人は見ないですよね。冬ドラマ(2018年1月クール)は打って変わって、若い人たちが中心でした。それが本来普通だと思うんですよ。

-そういう指摘をするのは、やっぱり木村さんも若い人に見てもらわなくていいの?と考えているからですね。

そうです。ものすごく大事なことです。このままでは動画配信サービスに全部取られてしまいますよ。実は若い子たちは課金するのにそんなに抵抗はないですし。
-それは、テレビ局に警鐘を鳴らす意味でおっしゃってるわけですね? 純粋にドラマ好きの目線でいくと配信に面白いのが揃っていればいいという考え方もあります。

テレビの多様性を自ら捨てていっていいのかと。このままではビジネスが先細りになっていくだけですから。配信サービスはお金を稼ぐシステムがいろいろありますよね。会費を集めるとか、世界にも売れるとか。このままでは、テレビ放送が主ではなくて従の方になってしまいかねません。
そんなことをいろんなテレビ局でチラチラお話していると、現場の方々もそう感じてるようです。でも一向に動いていかないから「あんたが言ってよ」と頼まれてしまう。「僕らは言えないからもっと言ってやって」と。

-どこの業界でも社内の声に耳を貸さないのに、外の人が言うと影響する傾向はありますね。

外からの客観的な意見にはものすごく反応するところがありますね。提言という意味では別のところでも書きましたが、一話完結型のドラマ。そればかりになっていることも言いたいですね。世の中にも気づいてほしいです。視聴者の皆さんにも気づいてもらって、「そうだそうだと言ってもらったら何か変わらないかな」という思いもあります。
「もういいよ、このタイプのドラマは」という声がもっとあがってほしい。殺人事件を昼から夜までずっと放送しているなんて、不倫報道より問題なんじゃないかと(笑)

生番組がなくなり編集力だけで見せている

-最近よく「テレビはつまらなくなった」と言われますがどう思われますか。

ぼくは面白いと思います。ただ、つまらないものが目立っています。今、音楽にしても、みんながいいと言ってるものでないと買わないですよね。レコメンドの時代なので、つまらないものの悪目立ちが多すぎて、余計につまらないと言われている気がします。

-低視聴率報道もそうですね。

そうそう!「視聴率が低い」って書かれていると、「つまらないのだろう」と思われてしまいます。もう一つ、日々感じているのは、もっと面白くできるのに、という番組。それが自主規制で自らつまらなくしています。面白さにリミットをかけているという点では、ドラマもしかり、バラエティーはもっとそう感じます。
作り手のポテンシャルは間違いなくあるわけですから、アマゾン(プライム・ビデオ)で配信している「ドキュメンタル」なんかも本当はできるわけですよね。それがテレビでは、作り手の能力にもリミットがかかっているので、本来、番組が面白くなり、スキルも伸びていくはずなのに、全然そうなりません。いま、編集能力ばかり上がってるじゃないですか。

-あー、それ感じます。ホントにそうですねえ。

ゴールデンタイムの番組では情報を詰め込むだけ詰め込んで、それが成功していますから。「金スマ」で久米宏さんが生番組をやらないとだめだと話をされていました。久米宏という「生の申し子」みたいな人が、メインは収録でもいいだろうけど生放送がなさすぎて良くないと。
番組で「危険なチャレンジ!」みたいなことを言っても今の視聴者は「でも計算してやってるわけだよね」とわかってしまう。ビデオをスタジオで見てるそのタレントが怪我してないですしね。そういう演出なんかも、もう先読みされてがっかりされてしまう。もったいないです。

-テレビにはライブ感がもっと必要だということでしょうか。

さっきのドラマの話と一緒で、バランスが悪すぎだと思うんですよ。いろんなものがあって初めてそれぞれが面白いわけで。生放送があって収録ものが面白い。編集を重ねて究極に詰め込んだ収録もののバラエティを3本連続で流す、っていう戦略は正直ニッチなビジネスになっていると思うんです。

-なるほど、ニッチになっちゃうってことですね。

中高年イコールニッチ、ということもないんでしょうけど、結果的にそうなっています。視聴率のいい局がそういうやり方をすると、みんな追随しちゃっていますからね。違う方向に行こうとしても他局の真似をした番組になって。内容がそんなに悪くなくても、真似している時点で根本が間違ってると思うんですよ。

「第0印象」を良くしていくべき

-もうひとつお聞きしたいのが、例えば「保毛尾田保毛男」の件が叩かれましたけどモラルが今こ非常に問われるようになっています。木村さんはどう思われますか。
テレビ局は防御力がなさすぎると思うんです。BPOも含めてやられっぱなし。クライシスコミュニケーションというやつですね。テレビ局はもっと専門家つけてやらないと危ないのではと思います。
視聴率報道に対しても無防備すぎます。例えば、平昌オリンピックでドラマの視聴率が下がったという記事がありましたが、録画ですごく見られています。そういうことをもっと発信してフォローすればいいのにと思うんですよ。リスクのかけ方とフォローの仕方、上の人のケツのまくり方。バラエティーは特に台本通りやらなきゃいけなくなって、アドリブを入れようという意欲が以前よりも失われていて、あれでは芸人さんが育たない。全員がコンプライアンスを気にしていますよね。
-フジテレビも防御力がなさすぎたので今こうなっているんじゃないかという気もしますが。

アクシデントやミスに鈍感ですよね。誰がどう動くかが明確でないから、タイミング悪く謝罪したりしますし。テレビは無防備だったことを今こそ何とかしないと、クレーマーの攻撃から逃れられず、ますます表現の幅が狭くなってしまう気がします。「この表現は適切なのか、行き過ぎなのか」という冷静な議論に持ち込めなければ、今後も苦しい状況は続くでしょう。


-ネット世論にどう対処していけばいいんでしょう。

特に視聴率に対する防御力が全くなくて、月9なんてそれで潰されているところがありますよね。放送前から「次の月9、それで大丈夫か」という記事が上がったりして。「第0印象」で失敗とみなされてしまいます。まだ見てもないのに、見る前にネットで潰されちゃうケースが、すごく多いですね。

-第一印象じゃなくて「第0印象」!これは面白い言葉ですね!

人間関係のコンサルでよく「第0印象」から良くしていきましょうというんですよ。会う前のメールのやりとりとか。たまたま遠くで見たりとか。会ってみて話す前から気をつけましょうと。そういう考え方でいうと、テレビ番組は損をしています。

-第0次印象をテレビ局側がもっとコントロールするとしたら積極的に情報を出すべきなのか、閉ざすべきなのかどっちでしょう。

僕は出す方だと思っています。出さないと、ページビュー狙いのネガティブな妄想記事がネット上で飛び交いますから。ネット媒体は悪口ベースの方がページビューは伸びるので、そういう確信犯的な記事が増えてしまうんです。彼らの好きなようにさせないためには、たっぷり情報を出してネガティブな妄想記事を書けないようにするべきだと思うんですよ。読む人にも、ネガティブな妄想記事の間違いが分かるようにしていった方がいいですね。
それから、ネット上の批判の傾向からすると、ドラマは「なるべく叩かれにくい人を主演にするしかない」というのが現状です。その点、月9の次は長澤まさみさん主演で、古沢良太さん脚本なので「叩いた奴がおかしい」という空気になるはずなので、ほぼ大丈夫でしょう。イメージを回復するまでは、そういう感じでやっていくしかないのかもしれません。
それと、「電波ジャック」とか「情報キャラバン」とか言いますけど、メインの役者さんたちが番宣のために番組を回るじゃないですか。あれはもう視聴者が食傷気味です。現場でも、不自然な企画を差し込まなければいけないなど、扱いに困るケースも多いと聞きますし。視聴率に繋がる役者さんならいいけど、そういう大物が少ない時代ですし、ありがたみもなくなってきていますよね。必然性がない企画をやったり、とってつけたような質問をしたり。これらも「テレビはつまらない」「視聴者のことを考えていない」と言われる理由の1つと見ています。

テレビは一部の視聴者だけを切り取っている?

-最後に、テレビ関係者に特に言いたいことをぜひ。

もう一度、かつての多様性を持ちませんか?これに尽きると思います。視聴率だけを追いかけて、自分たちでニッチな方に行っているので、再びマーケットを広げるべきではないでしょうか。
健康、生活、旅、クイズ、これだけゴールデンタイムに似たタイプのバラエティばかり揃えて、この先どうなってしまうのかと感じています。音楽番組も駆逐されてミュージックステーション1本だけかろうじて残っていますけど、アニメも6時台7時台にほとんどなくなってしまいました。いろんな層の視聴者を切り捨てて、テレビから多様性が失われていることに悲しさを感じます。
AbemaTVの多様さはすごいですよ。ニッチな将棋とかまで扱ってるじゃないですか。ニッチを押さえながら、バラエティやドラマなどの王道を埋めていこうと、つまり逆を行ってるんですよね。
その点、テレビ局は一部の視聴者だけを切り取っている気がします。ドラマも、バラエティーもそうですし、生活情報番組ばかりになって、私の周りにいる10代の中高生や大学生たちは、「見る番組がない」と言っていますから。20代のOLも「見るのは一部のドラマくらい」という人が多いようです。
若い人にリサーチすると「TVer以外では見ない」という声をよく聞きますし、でもAmazonプライムの中で地上波のドラマを見てたりするんですよ。「これTVドラマだったの?」と言っています。大晦日の「笑ってはいけない」でさえ知らなくて「Huluで見て知った」という学生もいました。
逆に動画配信サービスは広く視聴者を拾っていて、若い人向けに昔の「あいのり」のような恋愛バラエティをいろいろ作ってますよね。しかも、そういう番組を300円とか650円とか払って見る。意外とお金を使ってくれるんです。
多様性さえ捨てなければ、若い人もついてくる。特にドラマはそう思います。自分たちで線を引かないで欲しい。一度多様性を失ってしまうと、もう戻れないことの深刻さを一度考えてもらえたら、と思っています。
にこやかに話す中に鋭利に本質を突く言葉が次々に飛び出した。多様性・編集力・第0印象。いずれも、いまのテレビ界に必要な指摘だと思う。多大な時間をテレビ視聴に費やす木村氏だからこそ、切っ先鋭く言えるのだろう。だが不思議と、そんな辛辣なことを言っていても、彼の周りに漂う空気は穏やかだ。誰しもその言葉を、すーっと受けとめるのではないだろうか。テレビを愛するからこそテレビを憂える木村氏の情報発信から、今後も目が離せない。
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