影山貴彦のウエストサイドTV 第50回「土曜はダメよ!」の看板「小枝不動産」

バカリズム脚本、安藤サクラさん主演で大いに話題になったドラマ「ブラッシュアップライフ」でのメインテーマは、「ささやかな幸せ」の大切さだったと思います。主人公たちの他愛もない会話に多くの視聴者が共感したわけですが、なんでもない日々が普通に営まれることのかけがえのなさを私たちはここ数年のコロナ禍で実感したといえるでしょう。
 
お気に入りのテレビ番組をまったり見る楽しみも、まさに「ささやかな幸せ」に違いありません。今、必ずしもテレビはリアルタイムで見るものとは限らなくなってきましたが、それでも、決まった曜日・時間にいつものように放送される番組に触れ、安心感を得られるという経験は誰にもあるはずです。

私の場合、そんな番組をひとつ挙げるとすれば、読売テレビの人気番組「発見!仰天!!プレミアもん!!!土曜はダメよ!」でしょうか。土曜日の夕方4時からの放送という、なんとも言えない幸せを感じる「ゆる~い」時間にふさわしい、とても「ゆる~い」番組で、放送開始から今年で20年を迎える長寿人気を誇っています。この番組が、今とは全然違う曜日・時間帯に放送されていたら、視聴者に異なった印象を与えていたのではないでしょうか。放送曜日あるいは時間帯は、テレビにとって大切な要素だと思います。

司会は藤井隆さんが務め、YOUさん、桂小枝さん、フットボールアワーのお二人らがレギュラーを務めるバラエティ番組です。藤井さんとYOUさんは、この番組を通じてとても親しい関係を築いたことは、業界内でもよく知られています。番組全編に感じられる脱力感を備えた心地良さがたまらず、番組スタート当初から大ファンの私です。

人気コーナーはいくつかありますが、番組の看板コーナーは、なんといっても桂小枝さんが進行する「ギョーテン!住宅情報!!小枝不動産」でしょう。私もかつて小枝さんの番組のプロデューサーとしてご一緒していましたが、なんともいえぬふんわりした空気感が大いに魅力的な方です。看板コーナーだけあって、1時間の番組のうちおよそ半分が「小枝不動産」で占められています。

毎回、不動産屋さんからのイチオシ物件を紹介するコーナーで、関西に限らず、時には遠方の物件を紹介することもあるのですが、ポイントは必ずしもいわゆる高級物件や憧れの家・マンションを取り上げるのではなく、「なにこれ?」といった別の意味での興味が募る物件を小枝さんが、独特の名調子で紹介するのです。最初に必ずキャッチコピーがついていて、たとえば4月29日放送分のコピーは、「底が知れない家」でした。想像力を掻き立てられます。小枝さんはどんな物件でも褒めるというのも特徴で、「いくらなんでも・・」と視聴者が感じた物件も、何かしら理由を絞り出し讃えるのです。もちろん見る側もそのあたりの塩梅は良く分かった上で、小枝劇場を楽しむという流れです。今や小枝さんのライフワークとなってきた「小枝不動産」を擁する「土曜はダメよ!」、お勧めです。



執筆者プロフィール
影山貴彦
同志社女子大学メディア創造学科教授
(メディアエンターテインメント)
コラムニスト
元毎日放送(MBS)プロデューサー・名誉職員
ABCラジオ番組審議会委員長
毎日新聞等にコラム連載中
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」、
「おっさん力(ぢから)」など