「地上波で放送不可能!」の意味。テレビとネットはライバル?

2017.11.15

はじめまして。テレビ番組の解説やコラム執筆などをしている木村隆志と申します。

小学生のころから毎日23時半まで見ていたほどのテレビっ子として育ちました。大人になってからも、仕事で撮影現場を取材するようになり、ますますテレビ好きに……。30代半ばを過ぎてからは、ついに「テレビ解説者」なる肩書きを名乗ってしまいました。

ひたすらテレビを見ながら、取材したり、コラムを書いたり、ときどき番組に出してもらったり。そんな日々の中、『読みテレ』編集部から「書いてみて」というお誘いを受けました。お題は、「テレビとネット」。1本目ですし、ちょっとマジメに書いてみようと思います。

「高級車を次々にぶっ壊す」過激さが売り

「地上波で放送不可能!」「出演者、全員、命懸け」「デンジャーテイメント」。こんなフレーズに見覚えはないでしょうか?

これらはAmazonプライム・ビデオの番組『戦闘車』のCMで流れたフレーズ。同番組は、浜田雅功さんが「お前ら全員、殺す!」と叫び、戦いがはじまると、さまざまなメーカーの高級車を次々にぶっ壊していく、という過激さで話題を集めています。

「こんなことやってクレームは来ないの?」「車のスポンサーとか大丈夫なの?」なんて思うのは地上波のテレビマンのみ。スタッフもキャストも、ちゅうちょなくムチャクチャなことをやっているのです。

「何とまあ、新しい!」と感じそうになりつつも、「あれ? 待てよ。この感じ、どこかで見たような……」と考えること1分弱。「1980年代の番組ってこういうイメージだったな」と思い出しました。

たとえば、テリー伊藤さんが企画や演出を手がけた『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』などなど。タレントたちが体を張り、ロケにお金をかけ、「テレビ画面の中でしか見られない」番組が放送されていました。つまり、『戦闘車』は「“現在の”地上波で放送不可能!」ということになります。

テレビとネットの自然な棲み分け

視聴者の中には、「『地上波では見られない』を売りにした動画配信サービスのCMを地上波が何度も放送している」という矛盾に気づいて、「ライバルの宣伝をしても大丈夫なの?」と感じた人もいました。しかし、そんな矛盾にはハッキリとした理由があるのです。

Amazonプライム・ビデオ、Netflix、dTV、Huluなどの動画配信サービス、さらに『72時間ホンネテレビ』を成功させたばかりのAbemaTVやGyaOなどのネットテレビは、黎明期を抜けて発展期に向かおうとする段階に過ぎません。だから、より波及力の大きい地上波のCMを利用しているのであって、地上波にとってはBSやCSと同様に「ライバルではあるけど、現段階では広告収入を得られればOK」という存在のようです。

また、番組制作においても、バラエティ・ドラマともに優秀なスタッフがそろっている分、地上波のほうが高品質であるのは間違いないでしょう。そのため、『戦闘車』の「地上波では見られない」というコピーも、「今のご時世ではそれが事実だし、仕方ないかな」「われわれは地上波で放送できる良質なものを作っていこう」とスルーできるのです。

整理すると、「地上波は、全年代やファミリー層が安心して見られる高品質な番組で勝負する」一方、「動画配信サービスやネットテレビは、地上波がやらない、または、できない企画・演出で勝負する」ということ。すると必然的に、地上波は大人層がメインターゲットの番組が増え、動画配信サービスは恋愛リアリティショーなどの若年層向け番組が多くなっています。しばらくの間は、テレビとネットがこんな棲み分けで推移していくでしょう。

地上波は衰退期を避けて、再び発展期へ

ただし、問題はここから。昨年あたりから、これまで地上波の番組を見ていたテレビ画面で、動画配信サービスやネットテレビがリモコン1つで簡単に見られるようになりました。「スマホやパソコンで見るだけならスルーできるけど、テレビ画面をネットコンテンツに奪われてしまうのは、さすがにマズイ……」という状況が起きはじめているのです。

先のたとえを使うと、「動画配信サービスが発展期を過ぎて成熟期を迎える日が来たら、地上波との立場が逆転してもおかしくない」ということ。もちろん地上波は、現在の成熟期を終えて衰退期を迎えないように懸命の努力をしていますし、ネットとの共存を模索して再び発展期からやり直そうという姿勢も見せはじめています。

すでにスタッフの派遣や交流なども見られますし、今後はさまざまなコラボが見られるのではないでしょうか。テレビもネットも前向きな競争を続けることで、コンテンツの質はおのずと上がっていくでしょうし、そのうち「テレビとネット、どっちが面白い?」なんて議論は、いい意味で消滅する気がしています。

最後に、誤解のないように書かせていただくと……私が取材している限り、地上波の現場は、その大半が元気いっぱい。いろいろ言われて傷つくこともあるようですが、現場のみなさんは前向きに頑張っているので、ぜひ応援の声をあげてもらえたら、と思っています。
執筆者プロフィール
木村隆志  コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。
雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(2台での同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。
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