双子で漫才をやるということ。「ダイタク」が語るメリットとデメリット

2021.06.10

双子で漫才をやるということ。「ダイタク」が語るメリットとデメリット
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「M-1グランプリ」で2019年、20年と連続で準決勝に進出し、双子コンビという特徴以上に実力派として知られる「ダイタク」。単独ライブ「ダイタクの60分漫才~2021 夏~」も7月2日に東京・ルミネtheよしもとで開催し、常に歩みを進める吉本大さん、吉本拓さんですが、双子であるということは「メリットよりもデメリットが多い」とも語ります。その真意とは。


―去年は新型コロナ禍で開催できなかったので、2年ぶりの単独ライブなんですね。

大:去年は単独もできませんでしたし、ライブという意味では、とても大きな変化があった年でもありました。

単独のように純粋にできなかったものもありますし、無観客の配信ライブという形もたくさん経験させてもらいました。

お客さんがいないところでライブをするというのはこれまではない発想だったんですけど、その形でも、なんとかやることはできる。

そして、これまで劇場に足を運んだことがない地域の方にも見てもらえる。そういう今までにない感覚を実際に味わえたのも大きかったですね。

拓:ただ、それでも生のライブ数自体は減ってますし、ライブが減るということは新ネタもなかなか作れないということでもあります。なので、去年は「M-1」のネタも、これまでのネタを仕立て直して挑んだ感じでした。

―いわば“試合”がないから“新技”を試せないわけですよね。

拓:まさに、そういうことでした。でも、これはすごくリアルな話ですけど、収入はほとんど変わらなかったんです。お客さんを入れての生のライブはなかなかできないけど、配信ライブのお仕事はたくさんいただけた。

正直、配信ライブのメンバーはチケットが売れるメンバーが選抜されますので、そこに入れているということは、これまでやってきたことがきちんと役に立っているんだなという証明というか、自信にはなりましたね。


大:あと、近い後輩から刺激をもらってますね。「ニューヨーク」とか「オズワルド」とかすぐ下の後輩たちがどんどん売れていっているので、オレたちも続かなきゃなというのはすごく思います。

拓:やっぱり僕たちはスタイル的に“真っすぐ”芸人をやってますんで、世に出るには賞レースしかないのかなと思います。

大:となると、一番意識がするのが「M-1」なんですけど、5秒に1個ボケを入れて、クライマックスに向けて畳みかけていくみたいな「M-1」仕様のネタばっかりを作りにかかると、どこかで、なんというんでしょう、イヤになるというか、気持ち悪くなるんです。

拓:そういうネタを作ることも、スタイル的に向いてないことはないと思うんですけど、気持ち的に向いてないというか。

大:「M-1」で勝つ漫才を作って、「M-1」で結果を残す。これは大切なことですし、例えば「トータルテンボス」の藤田さんとか、いろいろな先輩から「とにかく、決勝には行け」と言っていただいたりもします。

でも、僕らの中で「M-1」という競技に勝つための練習をすることと同時に、きちんと漫才ができる足腰ももっと鍛えておきたいという思いがあるんです。

今度の単独もそうですけど、60分間漫才をするというのは、トレーニング内容としては「M-1」で必要な筋肉とは違う場所を鍛えているのかもしれませんけど、それが漫才師のプライドであり、僕らが考える「やっておくべきこと」でもあるんですよね。

僕たちは何もネタを作らなくてもパッと舞台に出てしゃべれるコンビだと思っているんです。お客さんにお題をもらってもいいし、フリートークから派生したものでやってもいいし、出たとこ勝負で60分、しっかりとしゃべれる。

そのトレーニングを続けてきたつもりですし、正直、今の若手でそれができる人間ってすごく限られていると思います。

だから、コロナ禍の前は「オズワルド」の伊藤とよく飲みに行ったりしてたんですけど、「『M-1』だったら『ダイタク』さんに勝てるけど、漫才だったら勝てない」と言われたりもしてました。
拓:そういう得意なものを光らせるためにも、得意なものを披露する場をしっかりと作るためにも、とにかく「M-1」で決勝には行かないといけないんですけどね。
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(左)兄の吉本大、(右)弟の吉本拓
―改めて、双子のメリット、デメリットはどうお考えですか?

拓:この世界に入った頃は「双子はすぐ覚えてもらえていいよね」と言われたんですけど、芸歴を重ねるごとに「双子は大変だね」と言われることの方が多くなりました。「双子じゃなかったら売れてたのに」と言われたこともありますしね。

大:双子が武器になる部分も確かにあります。でも、重荷になるマイナス面の方が正直多いと思います。

双子だからそれに触れないと気になるし、そうなるとネタの幅も限られるし。ただ、そういうマイナス面ってあまり外には出ないし、出さない。

なので、双子の武器になるところだけを使っているので、そこばかりが見えますけど、実は、面倒くさいことの方が多いと思います。

拓:こうやって取材をしてもらう時とか以外は、意外と双子であることも忘れているというか、当人たちはそんな感覚なんです。でも、見る側からすると、まず意識することですしね。そこの調整みたいな部分もありますし。

大:双子コンビの先輩にあたる「ザ・たっち」さんは、養成所の頃とかは双子という要素を全く使わずに、なんなら、一人が覆面をかぶって双子と分からせないネタをやっていたとも聞いたんですけど、途中からシフトチェンジをしたと。

事実、双子だし、フォルムも似てるんだから、もっとキャッチーにその要素を前面に出していこうと。自分のお笑いセンスを見せるとかではなく、もっとポップに、分かりやすく刺さることを考えてみようと思って、ドンと世の中にお出になった。

僕らも、もっとそういう自我みたいな部分を削ぎ落して、キャッチーにいった方がいいのかもしれませんけど、それが性格上、なかなかできないんですよね(笑)。

拓:先輩からは「いい意味で、双子の使い方のレベルを落とせ」と言われることも多いです。「面白いけど、使い方が何周もまわった形で使っているので、分かりづらくなっているんじゃないか」とも言われます。

大:ただ、少しずつ、そのあたりも変わっては来たんです。

「お前、今いくつ?」「いや、お前と一緒だよ!」って、双子のボケのベースのベースというか、言ってしまえば、ものすごくくだらないボケだと思うんです。

ただ、こういう味も、わざと入れてみる。わざと入れてますという味を出しながら、わざと入れてみる。そういうこともやるようにはなってきました。

この変化というのは、単純に芸歴だと思います。若い時にはこんなボケを入れなかったと思いますけど、今はそれを入れることもできる。おそらく、これからもこうやって少しずつ変わっていくんだろうなと思います。

拓:多分、年々、老いとともにベタになっていくと思います。フォルムがどんどんおじさんになって面白くなっていくと思うので。おじさんの双子がお揃いのスーツを着て漫才をやってるのって、あんまり見たことがないじゃないですか。それを想像したら、面白そうだなと(笑)。

大:双子の人生って、特にエンターテインメントが絡むと、右肩下がりなんですよ。赤ちゃんの頃にちやほやされて、そこから高校生の頃まではギリギリ大丈夫なんですけど、大人になると、どんどん輝きを失っていく。ピークを赤ちゃんで迎えてるんです(笑)。

拓:それが50歳、60歳になってくると、逆に「かわいい!」みたいになると思うんです。だから、今が一番つらい時期なんですよね…。おじさんになりかけくらいなので(笑)。

ただ、一つ思うのは、双子であるというのは事実なので、根本にウソがない。だから、どちらかが太ったら、それはそれでいいし、双子に見えなくなっても、それはそれでいい。双子という事実はあるんだからと。

なので、変に似せるとか、無理はしないでおこうと思います。大がハゲたら、ハゲたでいいですし。

大:なんで、オレがハゲる前提なんだよ(笑)。ま、20代前半でカッコよさで売れた俳優さんが40代、50代になって、演技派として味が出て評価される。そんな流れを作り出せたら、それはそれで意味があるのかなと思います。


■取材後記
純粋に、とてもやりやすいインタビューでした。

というのは、こちらが聞きたいこと、言ってほしいことを確実に返してくれる。そして、その言葉を、もう一人がさらに膨らませる。この気持ち良さというか、やりやすさはまさに双子ならではのものなのだろうなと思いました。

60歳になった二人を元気に取材できるよう、僕もしっかりしておかねばとも思いました(笑)。
執筆者プロフィール
中西 正男(なかにし まさお)

1974年生まれ。大阪府枚方市出身。立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚などを大阪を拠点に取材。桂米朝師匠に、スポーツ新聞の記者として異例のインタビューを行い、話題に。2012年9月に同社を退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属し、テレビ・ラジオなどにも活動の幅を広げる。現在、朝日放送テレビ「おはよう朝日です」、読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」などにレギュラー出演。また、Yahoo!、朝日新聞、AERA.dotなどで連載中。
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