北海道は、日本とは別の日本だ!「秘密のケンミンSHOW」北海道SPの収録を見学した

2018.02.26

2月11日、筆者は都内のあるスタジオにいた。読売テレビ「秘密のケンミンSHOW」のスタジオ収録を見学に来たのだ。3月1日と8日の2週に渡って放送される「北海道スペシャル」の二回分を一日で撮る。放送よりずいぶん前だなあと思うかもしれないが、収録後に編集することも考えると、これくらい前には収録しておく必要があるのだ。収録は北海道で取材してきた映像を北海道出身のタレントさんがMCのみのもんた、久本雅美と一緒に見て道民としての意見を言い合う、その様子を撮影する。北海道での取材・ロケも考えると、ひとつの番組制作にはずいぶん時間をかけていることになる。
スタジオに入るとすでにスタッフが集まりリハーサルをしていた。いつもテレビ画面で見るセットだがよくよく見ると地味な人びとが並んでいる。それぞれ出演者の設定で画面の映り方も含めてリハをしているのだ。毎回同じセットなのにずいぶん丁寧にリハをするんだなあと感心した。実際の料理を用意してコンロや箸も置いて確認している。
スタジオの一画では料理を用意しているスタッフがいた。「ケンミンSHOW」では熱愛グルメと称して各県の料理を紹介し、タレントさんたちが実際に食べることが多い。その料理をスタジオの調理室で料理し、この日で言うとタレントさん15人+MC2人の分を準備する。その県の独自の食材を使う料理なら取り寄せるし、特定のお店の名物料理ならそのお店の料理人に来てもらってスタジオで調理してもらうこともあるそうだ。明るく軽くお馬鹿なことも言ってる番組だが、その裏ではこんなに大まじめに大変な作業をしている。毎週気楽に見ている番組だけに、なんだかちょっとありがたい気持ちになってきた。
この日はなぜか、スタジオに戦隊コスチュームの女性と撮影クルーがいた。隣のスタジオで戦隊ものの撮影をしている、わけではなく、日本テレビ系列の札幌テレビの広報スタッフ。アオレンジャー的コスチュームに身を包んでいるのは、同局のアナウンサー、大慈弥レイさんだ。札幌テレビではPR番組を4人の女子アナによる「未来戦隊」をキャラクターに展開しているそうで、この日は「ケンミンSHOW」の北海道SPをPRすべくはるばるやって来たのだと言う。

「ケンミンSHOW」が扱った県では、まさに県民が喜んで番組を見るので、そのエリアの視聴率がビックリするほど上がる。だから自分の県が取り上げられると知ると、盛んにエリア内でPRするのだ。だからってこんな格好で華の女子アナがわざわざ札幌から来るの?と言いたくなるが、ケンミンSHOWで取り上げられることはそれぐらい盛り上がるということだ。よく考えると「北海道ではこんな料理が人気!」というのは道民は知ってるわけで、なのになぜ盛り上がるのか。もちろん、うれしいし誇らしいからだ。そんな道民ナショナリズムが彼らPRチームをはるばる呼び寄せたのだろう。
アオレンジャー・大慈弥レイさんはさっそく調理室を取材。このコスチュームでスタジオ内をウロウロしている姿はちょっと笑える。でも熱心に料理について聞いていた。このPR番組がどんな絵になるかもちょっと気になる。
さらにウロウロしていると、「ケンミンSHOW」の情報担当として出演する読売テレビの平松翔馬アナウンサーとバッタリ会った。というかバッタリ会った設定で撮影しているのだが。二人は同期で、研修などで一緒に学んで仲もいいそうだ。バッタリ出会った設定で平松アナが札幌テレビ視聴者に「ケンミンSHOW」をアピールする。この番組には地域を越えて気持ちをひとつにする力もあるのかもしれない。
札幌テレビの取材も終わり、本番前の緊張感に包まれたセット。テレビではいつもタレントさんで埋め尽くされているのに、誰も座っていないのは不思議で面白い。
やがて本番直前、セットにタレントさんたちが座ってMC二人もスタンバイ。収録直前に大慈弥レイさんがみんなに紹介された。ケンミンSHOWのスタジオにアオレンジャーがやって来て挨拶している不思議な絵だ。
そして収録がはじまった。オープニングで久本雅美がスタジオの温度を一気に高める。さすがのMC力だ。タレントさんたちの前にはこんなにたくさんのスタッフがいて、カンペを出したり慌ただしく動いている。ただ楽しくトークしているだけに見えて、何十人ものスタッフが動いていることに感心する。

本番がはじまって、2週分2本の番組を収録する。1時間番組2本の収録なのにスケジュールには14時から19時までとなっていた。2時間に5時間?実際にはそこまでかからなかったが、軽く倍の時間は収録に費やされる。もちろん面白いところをあとで編集するのだが、じゃあ面白くない部分があったかと言えば、収録中ずっと面白かった。面白い部分を拾うと言うより、面白い中でとくに面白い部分を使うのだと思う。すごいし、もったいない気もする。

詳しい中身はぜひ放送を見てほしいけれど、あらためて北海道のスケールの雄大さ、ユニークさ、そして大変さを感じさせられた。例えば最初に出演した道民タレントの出身地が紹介されたのだが、髙橋恵子が生まれ育った標茶町のだだっ広さと言ったら。この町の標茶高校は敷地面積が東京ドーム55個分なのだという。55個分?いや東京ドームひとつ分で十分だろうに。なぜ東京ドーム55個分の広さが高校に必要なのか、意味がわからない。
道民熱愛グルメとしてジンギスカンが取り上げられたのだが、北海道ではむしろ家庭料理なのだという。家庭で食べる時は新聞紙をテーブルを覆い尽くすほど敷くのが面白い。北海道民は札幌に限らずジンギスカンを食べて育っていて食べ方にもこだわりを持っているのが面白い。マトンとラムの違い、たれにつけた肉を食べたり蒸し焼きにしてたれにつけて食べたりバリエーションも豊富だ。スタジオではMC二人と道民タレントたちが実際にジンギスカンを試食。先ほどのリハではスタッフがいたテーブルに、タレントたちが並ぶのが絵的に面白い。

北海道には他の県とちがう生活文化が多い。節分にまく豆も普通じゃないし、端午の節句に柏餅ではない餅を食べる。七夕の願い事を書いた短冊は笹ではない植物に吊るすなどなどなど、同じ日本なのに日本とは別の風習が生きている。
北海道の寒さがまた半端じゃない。0℃くらいだと道民は暖かく感じるそうでマイナス10℃も当たり前。その分、部屋を夏のように暖かくするのが普通で、外は凍えるようなのに室内では半袖Tシャツで過ごす。だから北海道民はコタツをあまり使わないで冬を過ごす。そのため都道府県別のコタツ保有率は沖縄より低い23%で最下位なのだそうだ。

そんな北海道の、まるで日本のパラレルワールドのような不思議な世界が楽しい北海道SPはいつもより賑やかで笑い声も大きかった。何しろ集まったタレントは全員が北海道民。道民ナショナリズムの熱気があふれかえるようなのだ。北海道らしいおいしい料理が紹介されると「そうだ、あれはおいしい!」と共感し、北海道特有の生活文化が出てくると「そうだ、それが道産子だ!」と喜びあう。ピョンチャンを席巻した「そだねージャパン」のように北海道パワーがスタジオを埋め尽くしていた。
「秘密のケンミンSHOW」の魅力は、必ずしも東京が文化の中心ではない、と感じさせてくれるところだが、そんな「ローカル・トゥ・ローカル」の真骨頂となった2週に渡っての北海道SP。放送も楽しみにしたい。3月1日と8日よる9時からは、北海道民ナショナリズムのパワーをぜひみなさんも浴びてもらえたらと思う。

[取材・文:境 治]
執筆者プロフィール
境 治(さかい おさむ)
1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。 最新著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊  2014年より、TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員  2018年より、電通総研フェロー
◆番組情報
「秘密のケンミンSHOW 北海道スペシャル」
3月1日(木)よる9時 
3月8日(木)よる9時
2週連続放送!

秘密のケンミンSHOW 3月8日予告

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