テレビのここが嫌い!という視聴者の声を制作者にブツけてみた

2018.10.11

世間のみなさんが今どんなふうにテレビを楽しんでいるのか興味津々の『読みテレ』編集部では、以前に「テレビのここが好き! ここが嫌い!」というアンケートをとりました。
「ここが好き」という項目で多かったのは、「好きなドラマがあると、その日は夜まで楽しみ」「テレビは友達との共通の話題になる」「タダでいろんなものが観られる」「なんでもわかりやすくしてくれる」……といった声で、テレビの娯楽性・公共性が評価されているのが浮き彫りとなりました。

一方、「ここが嫌い」で多かったのは、いわゆる“イライラ演出”というもの。CMをまたいだ過剰な引っ張りや、モザイクによる「これ、な~んだ?」的な煽りたてが不快だという意見です。
これらの声は、ネットでもさんざん指摘されているので、テレビ制作者たちも視聴者にはあまり好まれていないのを知っているはずです。その影響か、最近は少しずつ減少傾向にありますが、それでもまだ“イライラ演出”の類いはあちこちで見られます。
なぜか?
そこには、制作側の事情がきっとあるに違いありません。

そこで、今回は「テレビのここが嫌い」という声を制作者たちにブツけてみました。彼らはなんと答えるのか?

「CMを挟んで、引っ張りすぎの番組が多い」(50代・女性)

この声に対して、バラエティのディレクター(30代)はこんなふうに答えてくれました。

「制作側としては、チャンネルを変えてほしくないので、どうしても『CMの後は○○!』という手法が定番になってしまっています。視聴者的には確かに引っ張りすぎと感じる番組が多いかもしれませんね。たまに、次の、次のCM明けにやることをずっと引っ張ったりしてる番組もあり、さすがにいつやるねん! と思う時はあります(笑)。それがストレスになってるのは大いに理解できます」

視聴率をキープする上での定番演出として制作者は考えているようですが、それも過剰になると“諸刃の剣”だと自覚しているようです。多くの制作者は、視聴者が「うわぁ、次が楽しみ!」と思えるラインを狙っていると語ってくれましたが、それだけにとどまらず裏番組のことを考えるとどうしても過剰になってしまうんだとか。
好意的に考えれば、浮気されないように必死でつなぎとめようとする“じらし”ですね。いじらしいといえば、いじらしいのですが。

「スポーツの大会で番組スタートから試合開始までが異様に長い」(20代・男性)

この声に対しては、情報番組系の放送作家(30代)が答えてくれました。

「スポーツに詳しい人ならなおさらそう思うのかもしれません。地上波テレビではスポーツにあまり詳しくない女性も、これだけは見ておくかと興味を持ってくれることがあるので、選手たちのこれまでの苦労やサイドストーリーを試合前に紹介することはよくあります。より試合を楽しんでもらうためにです」

地上波は、老若男女が視聴ターゲットなので、どうしても幅広い層に導入をつくる必要があるというのが理由のようです。テレビは詳しい人より“にわか”向けにつくられているメディアなのかも。でも、だからみんなで盛り上がれるというメリットもありそうです。

「テレビは主婦向けのものが多すぎる」(30代・女性)

バラエティのアシスタントプロデュ―サー(40代)が答えてくれました。

「どうしてもテレビを最も観る層に向けての番組が増えるのは事実ですね」

これはもう単純明快で、今、テレビを観る習慣があるのは主婦層だという答えに尽きるようです。そのため「家事をしながらでも観ることができる」「普段の生活にも役立つ情報を入れる」「イケメンが出てくる」など、どこか似た番組が増えていくといった現状へつながっているんだとか。
また、視聴者からはこんな声も出ています。

「バラエティはどれも似たり寄ったり」(40代・男性)

これには視聴ターゲットだけではなく、別の問題も関係しているとバラエティの放送作家(40代)が語ってくれました。

「コンプライアンスの問題で、やれるものが限られてしまっています。とがった企画、実験的な企画が通りにくいと感じます。そんな中でも、なにか見つけなきゃとは思ってますが……」

今、ネット配信系の番組では、過激な笑いで人気を集めている番組もあり、そういった笑いに需要があるのは間違いありません。だからといって地上波でもそれが求められているのか? というと――「地上波にはいらない」という制作者と「いくらなんでも自ら規制しすぎでは」という制作者の真っ二つに分かれました。
視聴者からすれば、多様なおもしろさを観たいけど、不快なものはやめてほしいという要望でしょう。これはもう、今のテレビ制作者が突破しなきゃいけない課題ですね。

「画面スミにタレントの顔を小さく映すワイプがいらない」(50代・女性)

ワイプに関しては視聴者から「うざい」「リアクションがわざとらしい」といった声が多く聞かれますが、制作者たちはどう考えているのでしょうか。あるディレクター(30代)はこう言います。

「ワイプはVTR中にリアクションしている人を映すことで、画面の内容をより効果的に伝えるためにやっています。グルメ映像ならリアクションを入れることで、よりそそられる感じになるかと」

あと、VTR中でも人気者の芸能人を観たいという声があり、それに応えたものだとか。
今回、制作者たちに聞き取りをしてみて、ワイプに関してはほとんどの制作者が必要な演出だと捉えていることがわかりました。そんな中、ベテラン制作者(60代)はこう言います。

「そもそもワイプに頼らないVTRをつくればそれで済むこと。ワイプがあるってことはそれだけVTRに集中させてないってこと」

確かに昔のテレビにワイプ演出はなかったので、こういった意見もうなずけます。とはいえ、スタジオに綾瀬はるかサンがいるのなら、リアクション見たいし……(笑)。これって、テレビの見方が人それぞれになったから、それに呼応して画面の中の工夫も様々になった、ということかもしれません。

「画面の中の文字情報が多すぎ」(40代・男性)

これには情報バラエティのプロデュ―サー(40代)が答えています。

「テレビはいろんな人が観ますから、情報番組でもバラエティでもできるだけ多くの人が理解できるようにつとめています。中には、聴覚に障害のある人もいますから、文字情報でフォローしたり、音声なしでも楽しめる演出を考えた結果、文字でいっぱいになっているんです」

また、視覚に障害のある人にも音声解説をしたりと、テレビはありとあらゆる視聴者を想定しているため、情報がてんこ盛りになっている傾向にあります。これも、人それぞれにテレビの楽しみ方があるので、それに対応した結果ということでしょうか。
「全部の情報を追いかけていたら、さすがに疲れますよね」(ディレクター・30代)
必要なもの、キャッチできるものだけでいいという。

テレビは、みんなのテレビになれるか……?

今回、制作者たちに視聴者の声をブツけてみて感じたことは、とにかく視聴者の要望に応えようという制作者たちの姿勢でした。そして、より多くの人に観てもらいたいという工夫。しかし、これがイチ視聴者にとっては「それ、ジャマなんだけど」とか「ブナンな内容だな」と映っているようで、このズレこそ、テレビというメディアの特性を浮き彫りにしているのかもなあと感じました。
地上波は“みんなのテレビ”をめざしていますが、これだけ多様な世の中になったら、それもなかなか難しい。けど、多様な中にもつながりや共通性を求めるのが人ですから、テレビはそこを担っていけば今後も独自の役割を果たせるのでは……そんなことを思いました。
試行錯誤は続きます。
【文:鈴木 しげき】

執筆者プロフィール
放送作家として『ダウンタウンDX』『志村けんのバカ殿様』などを担当。また脚本家として映画『ブルーハーツが聴こえる』連ドラ『黒猫、ときどき花屋』などを執筆。放送作家&ライター集団『リーゼント』主宰。
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