世界80カ国で売れるドラマはもう、テレビから生まれないのか

2017.12.13

「トルコではドラマの出演料は1人平均500万円、これまで支払われた最高額は1500万円。制作会社は倒産覚悟で熾烈な闘いを繰り広げている。」

そんな話を最近、トルコのプロデューサーから聞きました。

トルコばかりではありません。中国、ロシア、北欧の国々からも、日本のドラマ制作との規模の違いを感じることが増えています。

番組を世界市場でマネタイズすることを目的とした場所で取材しているので、余計に思うのかもしれません。

けれども、今やNetflixやAmazonなど既存のテレビ局以外のネット系プラットフォームが積極的にオリジナルのハイエンドなドラマを制作し、世界市場に流通させています。この動きが引き金となって、「ドラマのゴールデンエイジ」と呼ばれているほど、世界市場におけるドラマの流通は活気を帯びています。自国以外にも番組ビジネスを広げ、「世界数十カ国に売れているドラマ」も多い。番組の開発段階から世界市場を見越して制作されているドラマが市場に出回っています。

冒頭のトルコのプロデューサーは日本テレビの『Mother』をトルコでリメイクを担当した方です。現地で大ヒットし、既にリメイク版は世界12カ国以上で放送決定。「ラテンアメリカや東欧で売れ、現在、中東などとも契約交渉中。トータルで80か国を見込んでいます」とも話していました。同じく坂元裕二脚本の『Woman』もトルコでリメイクされ、好調なスタートを切っているとのこと。『Mother』『Woman』チームで制作される、日本で1月から始まる広瀬すず主演の新作『anone』の世界展開も十分にあり得るでしょう。

日本のドラマは脚本力あり

このトルコのヒットの事例もあって、日本のドラマ力が注目され始めています。今年10月に取材したフランス・カンヌのテレビ見本市MIPCOMで海外のトップバイヤーが「日本のドラマはハイスタンダード。特に脚本の良さが光る」などと話していました。

そのバイヤーたちが選んだ日本のドラマ投票「MIPCOM BUYERS’ AWARD for Japanese Drama」(主催・国際ドラマフェスティバルin Tokyo)ではビートたけし主演の『破獄』(テレビ東京)が最も票を集めてグランプリを受賞、僅差だった篠原涼子主演の『愛を乞うひと』(読売テレビ)は奨励賞を受賞し、「演技もストーリーも心に残った。よくプロデュースされているドラマ」とイギリスのバイヤーなどが高く評価していました。

テレビの価値に変化が起きているのは本当か

こうした良い流れもあるのですが、海外展開の動きを追い続けているなかで、市場の変化に日本は追いついているのかと、疑問に思うことも多いです。

そもそも、世界市場で勝負する必要性がないのかもしれません。国内だけでリクープができ、そこで完結してしまうから。でも、今、テレビの価値に変化が起きていることを無視できなくなっています。視聴率の伸び悩みにそれが顕著に表れています。インターネットテレビ局のAbemaTV「72時間ホンネテレビ」の熱量は今のテレビに対するアンチテーゼそのものでした。ではテレビはもうダメなのか。ネットだったらいいのか。いったい、その答えはどこにあるのでしょうか。

フランス・カンヌで取材中のあれは6~7年前のことだったと思います。宿泊先のホテルのロビーで夜、時差のある日本とメールのやりとりをしていた時です。その頃はWiFi環境があまり整っていなかったので、ネットが使えるロビーに人が集まっていました。顔見知りになったブラジルの若いプロデューサーもいたので話しかけると、「企画提案するドラマの売り文句やらを考えているんだよ」というので、「それってテレビ?ネット?どこの出口をターゲットにしているの?」と聞いたんです。すると、彼は一瞬不思議そうにした後、こう答えました。

「出口はどこでもいい。テレビでもネットでも映画でもいい。一番大事なのはどんなユニークなコンセプトかっていうこと。番組がどこで売れてもいいんだよ。売れないと困るけれどね。最終的には市場が決めること。」

ブラジル人のその彼だけでなく、世界市場ではこうした考え方がもはや常識だった。。

番組を売ったり買ったりする世界市場の常識

テレビにもネットにも対する概念の違いに驚きを覚え、これが癖になってしまったようで、世界市場で番組を売ったり買ったり、作ったり、チャンネル運営したり、リサーチしたりする、そんな世界のギョーカイ人から話を聞き続けています。

日本のプロデューサーも経営陣も、世界市場の現場を目の当たりにすると揃って「市場は世界にも広がっている。世界にも売れる番組を作りたい」という言葉が出てきます。言わせているわけでもなく、危機感を持っているからこそ、思うことなのかもしれません。

余談ですが、カンヌでは商談時間が終わるころ、会場では各国のブースで飲みニケーションタイムが始まります。ブラジルの彼とはカイピリーニャで乾杯。フランスのブースではシャンパン、ロシアではウォッカ、日本のブースでは読売テレビが毎度、日本酒を振舞い、いろいろな国の参加者が集まってきています。そんな席からも人脈が繋がり、番組ビジネスが生まれています。きっかけだって、どうであっていいということ。

「読んで楽しいテレビの話」をする「読みテレ」で、世界の人から見聞きしたこと、気になったことを書いていこうと思っています。まだまだ知らないテレビの世界はありますよ。

【文・長谷川朋子(はせがわ・ともこ)】

執筆者プロフィール
テレビ業界ジャーナリスト。放送業界専門誌のテレビ、ラジオ担当記者。仏カンヌで開催されるテレビ見本市MIP現地取材歴は10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に、多数媒体で執筆中。「Yahoo!個人ニュース」「日経トレンディネット」「マイナビニュース」「オリコン」「週刊東洋経済」など。国内外で番組審査員や業界セミナー講師、ファシリテーターなども務める。
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